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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第5章 願い
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第66話 地下遺跡

 すぐにでも最北の地の遺跡に向かいたかったのだが、寒い時期の出発はみんなから止められたので、暖かくなるまで待つことにした。

 その間、ハマル達の勧めで研究所の宿舎に泊まりながら、研究所の手伝いをしたり、学校の図書室に通ったりして過ごした。



 そして十三歳になった年明け二月の夜に、ミラクが白い夢に現れた。


「や、やあ、エルライ元気だったかい?」

「ミラク……」


 ミラクの姿を見て、私は頭が真っ白になった。

 どこかで覚悟はしていたけれど、もうこの世界で二度と会えないという事実を受け入れられず、しばらく立ち尽くした。


「ほ、ほら、そんなに落ち込まないで……」

「はい……」


 ミラクは目線を合わせるように少し屈んで、いつの間にか流れていた涙を優しく拭ってくれた。


「お、大きくなったね。バジを旅立ってから随分たったもんね。こ、これまでのエルライの旅はどうだった?」


 ミラクは覗き込むように私を見て微笑む。

 懐かしいその顔を見て、私はまた涙が溢れそうになるのをなんとか堪えた。

 そして悲しい気持ちを押し殺しながら、バジを出てからの話をポツポツ話しはじめた。

 何度も言葉に詰まったり、話が戻ったりして上手に話せない私の話に、ミラクは急かすこともなく相槌を打ちながら聞いてくれた。


 そして、プアナムで見た魂の再融合の話をすると


「エルライは旅に出て、ほ、本当にすごい経験をしたんだね」


そうミラクは目を輝かせて感動した。


「つ、次にこの世界で生まれても、き、きっとボクは料理をしているだろうから、つ、次こそは再融合ができるかもしれないね」

「好きなものが似ているはずですから、もしかしたら次は出会えるかもしれません……」

「そ、それは楽しみだね」


 新たな発見にワクワクしているミラクに、私はつい心の中にあった自分の悩みをこぼしてしまった。


「私はまだ何が好きなのか分からないから、出会うきっかけが分からないんですよね……」


 その呟きにミラクは私を見て不思議そうに首を傾げた。


「そ、そうかな? エルライはいつも人のために一生懸命だから、き、きっとエルライがもうひとりいるなら、お、同じように誰かの隣に寄り添って、その人のことを支えていると思うよ」


 自分のことをそんなふうに思ったことがなかったので驚いた。そしてミラクが私をそのように見てくれていたことがなんだか嬉しくて、自分のことを少し誇らしく思えた。



「私はまたミラクと同じ時間を過ごしたいです」


 ミラクはその言葉に目を細めて頷いた。


「き、きっとまた会えるよ」

「はい」

「つ、次に会えた時も、ま、また一緒に美味しいものを作ろうね」

「楽しみにしています」


 私は出来るだけ明るい声でそう言った。

 ミラクはそんな私の肩に優しく触れて


「ありがとう、エルライ。ボ、ボクもまた会えるのを楽しみにしているね」


そう嬉しそうに微笑んでから消えていった。



 *



 六月になったので、最北の地の遺跡に向かうことにした。

 それでもまだ早いと言われたが、はやる気持ちを抑えられずに出発を決心したのだ。


 これまでの旅が徒歩だったので、今回も徒歩で行こうとしたら、アクベンスから「犬ぞりじゃないとたどり着かないと思うよ」と指摘された。知らなかったのだが、最北の地へ向かうには、みんな犬ぞりを利用するらしい。

 アクベンスから犬ぞりを扱っている牧場を紹介してもらえたので、早速訪ねると数組の先客がいた。

 どうやら初めてエタナの種まきを見た旅人達がその謎に迫ろうと、私と同じく最北の地へ向かおうとしていたのだ。そして、目的地が同じならみんなで一緒に行こうという話になり盛り上がっていたら、犬ぞりを扱っている牧場のふたり組が、何度も最北の地を訪れたことがあるからと案内役を買ってでてくれた。

 そうしてみんなで出発の日を決めて、大人数で向かうことになった。



 最北の地への道のりは平坦で、雪原が広がっている中をひたすら北へ向かう旅だった。


 案内役の人が言うには、最北の地と遺跡は犬ぞりで二日ほど離れているらしく、地理的に北の大都市に近いのは遺跡だという。

 ただ、どちらも見どころはないらしく、みんながっかりしないようにと最初に念を押された。

 最北の地はただ目印の棒が立っているだけだし、遺跡も地下遺跡だが、こちらも見学するようなものは何も無いという。

 それを聞いてみんなの意思を確認すると、遺跡だけ見学したい人と両方見学したい人に分かれた。そこで、両方見学したい人たちは先に最北の地に向かうことになり、途中で別れることになった。


 私は遺跡に興味があったので、そちらのグループに入り、最北の地に向かうメンバーを見送った。

 そして何もない雪原を更に進んでいくと、遠目に岩の塊のようなものが見えてきた。


「あれが遺跡です」


 案内役の人はそう言うと、犬ぞりをそちらへ走らせた。

 近づいてよく見ると、岩の塊のように見えていたものは入り口だったようで、ぽっかりと口が空いている。そして、地下鉄の入り口のようにそこから階段で降りられるようになっていた。

 私たちはそりから降りて犬達を外に待たせると、さっそく遺跡に足を踏み入れた。


 地下遺跡なので中は真っ暗だと言われ、各人ランプを手に石の階段を降りていく。

 不思議と遺跡のまわりだけは雪が溶けており、階段を降りる毎に、寒さは和らいでいった。

 長い階段を降りきると、次は長い廊下が続いていた。成人が立って歩いても充分余裕がある高さの、岩盤を掘り抜いたような廊下だった。

 ただひたすら真っ直ぐ歩いていくが、装飾もなく、本当に何も無い。十五分くらい歩いたら、今度は上にあがる階段があった。


 ここまでずっと真っ直ぐで、その階段をのぼりきると、突き当たりの左側に部屋があるのが見えた。

 入口は人ひとりが通れるくらいで、中も廊下と同じように、岩盤を掘り抜いたような場所だった。

 広さもそれほど広いわけではなく、八畳位の正方形の部屋で、中は何も無くガランとしている。


「本当に何も無いんだねー」


 一緒に来た旅人のひとりが納得したように、部屋の中を見渡した。


「そうなんです。明るく照らして細かく見ていっても、文字なども無くて何のための遺跡なのか全く分からないんですよね」

「やはりここでも調査隊を組んで、何人かで調査をするんでしょうか?」


 私がランプを地面に置き、しゃがみ込んで室内の様子などをメモしながら話しかけると、案内役の人は手元が見やすいようにと上からもランプを照らしてくれた。


「そうですね。場所も場所なので、調査をする時は複数人で作業をしているそうですよ。北の遺跡と同じような感じだと思います。ただ新たな発見がないので、あまり調査に入る人はいないようです」

「なるほど……」


 私が北の遺跡の調査隊員だと自己紹介をしていたからだろう。その人は北の遺跡を引き合いに出して答えてくれた。私はその返答に頷いてペンを走らせる。


 しばらくみんな部屋の壁を叩いたり、隅に何かないか観察したりしていたが、本当に何も無いということを確認して、ひとり、ふたりと離脱していった。

 私は最後まで部屋に残ってあちこちを観察したが、最後のひとりになってしまったので、そっと部屋を出た。



 そして、全員が満足したので再び地上に戻ると、外はもう日が傾いていた。

 話し合った結果、今夜はここで野営をして、明日の朝に北の大都市へ向けて出発することにした。

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