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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第4章 模索の旅
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第64話 北の大都市

 都市の中に入ると、まずは宿をとって荷物を下ろし、ロバを牧場へ連れていった。

 牧場の管理人に預けて、また来るねとロバの頭を撫でていると、ケラススが何処からか飛んできてロバの背中に乗った。そして頭をこちらに寄せてくるので、もう片方の手でケラススも優しく撫でると、気持ちよさそうに首を傾げた。

 その様子を見て思わず口元がほころび、またみんなでご飯が食べられるように、良さそうな葉っぱを買ってこようと思った。



 何日かは宿屋を起点に都市の中を見学してまわった。遠くから見たときはプアナムと似ていると思ったが、実際に都市の中を歩くとプアナムよりも質実剛健で、華美な装飾などはなくシンプルで洗練された雰囲気の街並みだった。



 そして学問の都といわれるだけあって、どの都市にもなかった本屋があった。

 本屋といっても古本屋で、同じ本は一切なく、書かれた年代もバラバラだ。紙で作られているものもあれば、木の板に書き付けて紐でまとめたものもある。内容も様々だが、研究結果や旅の記録などが大半を占めていた。

 きっと個人が興味を持ってまとめたものが、流れ流れてここに集まってきたのだろうと感心して眺めていた。

 しかし、その中に寿命に関する研究の本は残念ながら見当たらなかった。もしあったとしてもリギルがすでに買っているかと、結局何も買わずに店をあとにした。



 本屋のほかに、もうひとつ驚いたのは温泉だ。

 最初は遠目に見て何か分からなかったのだけれど、湯気が上がっていて、近づくとカゴや布が畳まれて置かれているのが見えてくる。

 更に近づくと、ゴツゴツした岩の向こうでみんなプカプカとお湯に浸かっているのだ。

 まわりを見渡しても受付のようなものはなく、あとから来た人も、好きな場所で服を脱いで手近にある桶で体を軽く洗ってから温泉に浸かっていく。私もそんなつもりでは無かったのだけど、せっかくなので入っていった。

 この世界に生まれてから、こんなにもたっぷりのお湯に肩まで浸かるなんて初めてだったので、ああ、お風呂に入るってこんな感じだったなぁと懐かしく思った。

 お湯は丁度いい温度で、いつまででも入っていられそうだったけど、温泉の脇で何か売っている人達がいたので、気になってつい上がってしまった。

 体を拭き服を着て、まだ暑いくらいなので外套などは手に持って近づいていくと、そこでは飲み物が売られていた。ひとつ買って近くの石に座ってひとくち飲むと、熱った体に染みわたるような爽やかな味がした。

 寒い地域でありながら、様々な魅力がある北の大都市に人が集まるのがわかる気がした。



 そんなふうに数日を過ごしたある日、食堂で夕食後のデザートとしてごまペーストのお菓子を一粒もらった時に、アクベンス達のことを思い出した。

 確か以前バジに立ち寄った際、アクベンス達は北の大都市にいると言っていた。今もまだいるかは分からないけど、せっかくだから研究者が集まるという研究所に足を運んでみることにした。


 翌日、宿屋で行き方を教えてもらい、研究所を訪ねてみた。

 たとえアクベンス達に会えなかったとしても、寿命の研究者と会えるかもしれないし、研究所という言葉の響きにも心躍るものがあった。



「オオカミの研究をしているアクベンスという人を探しているんですが、ここにいますか?」


 研究所の入り口付近にいた人に声をかけると


「ああ、アクベンスね。この廊下を真っ直ぐ行った、二つ先の建物に研究室があるはずだよ」


その人は廊下の先を示してそう言った。


 まさかこんなにもあっさり見つかるとは思わず、手土産など何も持ってきていない。それはまた今度でもいいかと、まずは会いにいくことを優先した。



 教えてもらった廊下をひたすら歩いて、渡り廊下をすぎ、さらに次の建物の廊下も抜けると、再び渡り廊下があった。

 その先の建物の入り口には動植物研究所と彫られた石の銘板が設置されていた。


 その入り口を入ると左右に木の扉が並んでいる。

 時々扉が開いている部屋もあるが、寒さのためか、ほとんどの部屋の扉が閉まっていた。

 どの部屋がアクベンスの部屋だろうと一部屋ずつ扉の前に立ってみるけど、中の様子は伺えない。

 ドアプレートなどないかなと観察していると、扉の真ん中に、細かい装飾が施された金属のプレートが打ち付けられており、その装飾がどの扉も異なることに気がついた。ひとつづつ見ていくと、花でも何種類もあり、動物もウサギやキツネなど様々な模様があった。

 その中にオオカミの模様の金属プレートが打ち付けられた扉を見つけて、きっとここだろうとノックをして待った。


「はーい。どうぞー」


 中から聞こえてきたのはアクベンスの声だった。


「こんにちは」


 ギイっと扉を開けて顔を出すと、長椅子でゆったりとお茶を飲みながら、木の実を食べるアクベンスがいた。

 アクベンスは顔を上げて、最初は誰だろうという顔をしてから、あっと思い出したように破顔した。


「あまりにも大きくなったから、一瞬、誰だか分からなかったよ。久しぶりだね、エルライ」

「お久しぶりです。アクベンス。お元気でしたか?」

「うん。ボクもハマルもリリーもみんな元気だよ」

「それは良かったです」


 リリーはナシラとハマルと同じ時に生まれた子で、まだ私は会ったことがない。ナシラからは、ぶっきらぼうなところがあるけど、優しくて、実は可愛いものが好きだと聞いている。

 今はふたりとも外出しているようで、部屋にはアクベンスだけのようだ。


「とりあえず座りなよ」

「はい」


 手近な椅子を勧められて、私はストンと座った。


「いつここに着いたの?」

「五日前です」

「じゃあもう色々と見学した?」

「はい。温泉にも行ってきましたよ」

「あー、温泉行ったんだ。いいよね、温泉。ボクも大好きで、原稿が煮詰まると気分転換によく入りに行くよ。もちろん原稿ができた時も行くけどねー。あそこの温泉がどうやって作られているか知ってる? あそこは源泉がもう少し離れた場所にあってね、そこはかなり高温のお湯が湧き出ているんだけど、それを西側から流れ込んでいる川の水を引き込んで、そこで温度調整をしてあの温泉の温度にしているんだよ。たまに熱いのが好きな人が温度調整の担当をすると、熱くて熱くてみんなのぼせちゃってね、脇で販売している屋台の飲み物がよく売れるんだよ。あ、エルライが行ったときには屋台は出てた? あそこの飲み物はね……」


 そうだ、アクベンスはこんな人だったと、そこから延々と続く話を聞き続けた。

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