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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第4章 模索の旅
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第63話 下山

 北の遺跡に来てから一年以上が経過した。

 私は十二歳になり身長もずいぶんと伸びたが、それでもリギル達にはまだまだ及ばない。


 二度目の夏ということもあり、すっかり遺跡の作業にも慣れて、その日も土の中に埋もれている石板の発掘に精を出していた。

 先日この付近で石板がいくつか見つかっているので、ここ数日はずっとこの辺りで作業をしている。しかし今のところ新たな出土はない。

 今日こそはと根気よく同じ場所で座り込んで作業をしていると、土とは違う手応えに気づいた。私は急いで道具を傍に置いて手袋で土を払っていった。


 そこで出土したのは最北の地とその遺跡についての研究が彫られた石板だった。

 それは寿命に関するものでは無いのだが、なぜか惹かれるものがあった。私は他にも関係するものがないか、再びその付近を探しはじめた。

 しかし、他の研究に比べて成果が少なかったのか、残念ながら最初に見つけた石板以外は発掘できなかった。


 私がしきりにこの石板を眺めているので、リギルは不思議そうに尋ねてきた。


「どうしてこれが気になるのかしら?」

「どうしてかはよく分からないんですが、何となく気になるんです」


 自分でも何が気になるのか分からないのだが、不思議とその石板に目がいく。


「それなら一度行ってみるといいわ」

「え?」

「エルライはまだアラルンガルにも行ったこと無いのでしょう?」


 アラルンガルは確か北の大都市の名前だ。

 私はエルルの学校で習ったことを思い出しながら答えた。


「はい。最も歴史が長い都市と習いましたが、まだ一度も行ったことはないです」


 その答えにリギルは微笑んで頷いた。


「あそこは学問の都とも言われていて、様々な研究者が集まっているわ。そしてもうひとつ、アラルンガルでしか見られない光景があるの」

「光景ですか?」

「あら? 聞いたことがないのね。じゃあ、それは行ってみてからのお楽しみよ」


 私が知らないことにリギルは少し驚いて、それから楽しそうにふふっと笑った。


 どんな光景なんだろうと不思議に思いながらも、きっとリギルの表情からして素敵な光景なのだろうと、ここは聞かずにおこうと思った。


「わかりました。楽しみにしておきます」


 それならいつ出発しようか思案していると、リギルから寒くなる前に移動した方が良いわよと言われ、私は急いで準備をはじめた。

 そして、リギルにアラルンガルまでの道のりを確認している最中にふと思い出した。


「そういえば、ムルジムが働いていた花畑は通り道にあるんでしょうか?」

「ああ、あそこは少し道は逸れるけど、アラルンガルに向かう途中で寄れる範囲よ。この辺りになるかしら」


 外のテーブルで地図を広げて説明していたリギルは、街道から少し外れた場所を指した。


「一度見てみたかったので、そちらに寄りがてら行ってきます」

「それならあの人達と一緒に行くと良いわ。確か近いうちにその養蜂場へハチミツとロウソクを買いに行くと言っていたから」


 リギルは遠くでロバ達の世話をしている人たちを見ながらそう言った。


「それは助かります。正直この山を迷わず降りられるかも不安だったので」

「最初のうちはそうよね。何度か往復しないと、分かりづらい場所は見落としてしまうものね」


 山道に慣れた人達と一緒に行動できることに私は安心し、荷造りを進めていった。



 *



 季節が良いので、景色を楽しみながら下山した。

 北の地域とはいえ夏ということもあり、鮮やかな緑の木々が広がっている。その中を土の匂いを感じながらロバを引いて歩いていった。

 バジは一年中暑いくらいの気候だったので、寒い季節から暑い季節に移り変わるここの自然の様子は、とても新鮮に感じられた。

 プアナムでも同じ季節を過ごしたが、あの時は都市の中で過ごしていたので、ここまで自然を感じることはなかった。


 休憩に入ると、引き連れているロバたちは細い尻尾をふるふるしながら、すぐに柔らかな草を見つけては美味しそうに食べはじめた。


 養蜂場に行く人たちも私と同じようにロバを連れている。

 休憩中にお茶を飲みながら、あのロバ達は何を運んでいるのか聞いてみた。

 すると私は全く知らなかったのだが、みんなは発掘作業の合間に木の実や植物などを採集しているそうで、それらの加工品を運んでいるのだという。そして、冬場の備蓄用の甘味や嗜好品と交換してもらうのが恒例だと教えてくれた。

 経費で買えるけど、このほうが性に合っているんだと笑っていた。



 ロバ達とのんびりとした雰囲気で旅は進み、半月以上かけて花畑へ到着した。

 そこはムルジムが言っていたように、北方なのにたくさんの花が咲いていた。見渡す限り花畑というのは今まで見たことが無かったので、その絶景に感動して思わずため息がもれる。

 大きな花ではなく、小さめの花で青色や黄色、白色の花がそよそよと風に揺られて、その中を小さな蜂が飛び交っているのが見える。


 花畑の間の道を進んでいくと、建物がいくつか見えてきた。近づくと外で洗濯をしている人や何かの道具を洗っている人達がいた。

 同行させてもらったみんなは、ここで何泊かして再び北の遺跡へ戻るのだという。

 私は今日はここを見学して、一泊したら出発することにした。ここからひとりになってしまう寂しさは多少あったが、初めて行く北の大都市の興味がそれを上回っていた。


 翌朝、見送りに出てきてくれたみんなにお礼を伝えると、ひとりロバを連れて宿屋を出発した。



 花畑から北の大都市への道のりは分かりやすかった。

 多くの人がこの花畑へ遊びに来るようで、道は広く整備されていて、歩いていくとちょうど良い場所に宿屋もあり、ひとりでも迷子になるようなことは全くなかった。


 そして、シェダルから受け取った調査隊の証である金のコインは本当にすごかった。

 見せるだけで宿にはタダで泊めてもらえるし、食堂などでもきちんと一人前の食事を出してもらえた。

 遺跡を出る時にあまり路銀が無かったから不安だったけど、これなら問題なく北の大都市まで行けそうだと安心した。



 *



 遺跡を出発してから一ヶ月半、ようやく北の大都市アラルンガルに到着した。

 到着した頃には冷たい風が吹き、手持ちの暖かい服を全部着込むくらいだった。


 北の大都市はプアナムと雰囲気が似ていたが、きっとそれは逆なんだろうなと思った。もともと北の大都市が発展して、それからプアナムが出来たので、その雰囲気を引き継いでいるのだろう。

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