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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第4章 模索の旅
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第60話 再び旅の準備

 リギルは手元に書き留めていた木の板と、遺跡で書き写してきたであろう再融合に関する資料を見せてくれた。


 木の板のほうは殴り書きの状態で、記録の他にもリギルの感想や疑問がところどころ記されていた。

 遺跡の資料は再融合に関する様々なことがまとめられており、かなり興味深かった。


 容姿に関しては、もともと融合前もどことなく似ている場合が多いようで、融合後も劇的な変化は基本的にはないらしい。

 確かに思い返してみると、先ほどのふたりも髪や瞳の色は違っていたけど、なんとなく雰囲気は似ていた。

 そして、私はふたりのことをよく知らなかったので、融合後は新しい姿で認識していたが、融合前のふたりをよく知る人は容姿の見え方が異なると書かれている。

 同じ人物なのに、人によって異なる容姿で見えるなんて信じられないが、遺跡の資料には見え方のパターンが細かく表でまとめられていた。


 そして、体から立ち昇っていた光についてはいくつも説があるようだが、消滅時の光と同じものではないかという説が一番有力と書かれていた。


 また、再融合した後の寿命は数年程度伸びることが報告されていたようだ。再融合の本当の効果はむしろその後で、この世界で次に生まれ変わった時に寿命が長くなるとのことだった。


 私は遺跡の資料に目を通して、リギルの長命の理由を知った。


「リギルは前回の人生で魂の再融合をしているから寿命が長いんですね」

「それを読むと、どうやらそうみたいね」


 リギルは頷いて、「ただ……」と続けた。


「魂の再融合と文言があるけれど、『再融合』とはひとつだったものが分離して、それを再び融合しているという意味でしょう? それだとわたくしたちの魂は分離している状態ということになるけれど、その分離の原因はどこにも書かれていないのよね……」

「確かにそれが分かれば、全てが解決しそうですね」

「まだ発掘されていないだけかもしれないけれど、その辺りの記述は全く見当たらないのよね……」


 記憶を探るように、リギルは目を伏せた。


「それも気になりますが……、今でも旅をしている人が沢山いるのに、どうしてあのふたりのように再融合の話を聞かないんでしょう?」


 私はバジを出てからここに辿り着くまでに、何人もの旅人を見てきたので、単純に疑問に思った。


「そうなのよ。それもとても不思議で……。本来の目的が失われても世界中を旅する人は多くいるわ。私も各地を旅したけれど、この一度だけしか再融合の話は聞いたことがないの」


 そもそも方法が分からない、というのもあるかもしれない。しかし、もし頻繁にお互いの引力に引かれ合う人たちがいたのなら、その症状だけでも噂話でありそうだが、それも無かったのだという。

 カーフも世界中を旅していたにも関わらず、もうひとりの自分には会えなかったと言っていた。


「確かにこんなにも広い世界で、たったひとりに出会うなんて奇跡のような話だから無理もないのかもしれないわね」


 リギルはそう頷いたが、私は少し納得できなかった。

 同じ魂を持っているから、あのふたりは容姿もどことなく似ていて、同じ彫刻の道を選んだのだろう。だからプアナムにいたのだ。

 それが他の人にも当てはまるのだとしたら、意外と近いところで暮らしていると考えられないだろうか?

 それなのにそれがないのは不思議だ。何か見落としがあるような気がするのだが、それが何なのかはわからなかった。


「エルライは何か思うところがありそうね」


 うっかり顔に出ていたようで、焦って言葉を探したがリギルは制するように首を振った。


「良いのよ。何かわかったら教えてね」

「はい……」

「ところで、これからわたくしは今日の出来事をまとめるためにしばらく家に籠るけど、エルライはこれからどうするの?」

「私はリギルやムルジムがいた北の遺跡に行ってみたいので、もう少しここでポテトチップスを売って路銀を稼ごうと思います」

「ちょっと待って……。エルライは今までそうやって旅をしてきたの?」

「はい」


 なんでそんなに驚いているんだろうと首を傾げると


「そう、そうよね……。バジの出身だって言っていたし、そうよね……。確かに仕方がないわね……」

「あの?」

「うん、そうね、じゃあ二ヶ月後に一緒に北の遺跡に行きましょう」

「えっ、まだお金が……」

「まだちゃんと各地に情報が行き渡っていないようだけど、北の遺跡は重要な遺跡として四大都市で認められているの。だから、北の遺跡の調査隊になると、研究に付随する旅の費用も全て経費として認められるのよ」


 調査隊の一員と認められると証が渡され、それを提示すると様々なものが無料で利用できるらしい。

 そんなすばらしい制度があったなんて今まで知らなかった……。

 それならすぐにでも北の遺跡に向かいたいところだ。

 遺跡に向かうまでの旅費はポテトチップスの権利を売れば、今の貯金と合わせて何とかなりそうだが、服までは揃えられない。

 以前買いに行った時に驚いたのだが、冬服は生地が多く使われていることもあり高いのだ。


「でも北へ向かうのに冬用の服が足りなくて、それを揃えるだけの手持ちもないので、やっぱりもう少し働かないと無理そうです」

「それならわたくしの服をあげるわ。裾や袖が擦り切れてしまったものがいくつかあるから、その部分を切って縫えば、エルライの身長ならちょうど合うんじゃないかしら」

「それは助かります!」

「じゃあ二ヶ月後に出発するから、それまでに準備を進めておいてね」

「わかりました。急いで準備します」


 そう約束をして、私は急いで旅の支度を始めた。



 帰り際にもらった冬服はたっぷりあったので、その中から自分の体型で着れそうなものをいくつか選んだ。そして、ルクバトに教えてもらった裁縫技術を思い出しながら直していった。


 私は家で作業をしながら、魂の再融合について思い返していた。

 リギルは前世で魂の再融合をしていたから寿命が伸びたのは分かったが、では老化しない体は何なんだろう。リギルは四十八歳と言っていたが、見た目はどう見ても二十五歳くらいだ。みんなが若くして消滅するから若い人しかいないと思っていたのに、まさか老化しない体なんて……。これはリギルだけなのか、他の人にも当てはまるのか……。

 もちろんそんなことを尋ねる相手はいないので、私は新たな疑問も胸にしまいこんだ。



 結局ポテトチップスの権利はひとりではなく、都市の何ヶ所かで販売できるように三人に売ることにした。以前から私に声をかけてくれていた三人だったので、話はスムーズだった。

 そして大都市だからなのか、あんこ餅の時よりもずいぶんと高く売ることができて驚いた。


 私は懐が暖かくなったので、お米を自分用に買い足すことにした。

 以前誕生の家から送ってもらった分はとうの昔に無くなっていたが、ここではお米は高級食材の部類に入るようで、食べたくてもずっと手が出なかったのだ。

 お腹いっぱいにお米を食べていた頃が懐かしい。

 あの頃はミラクの作る美味しい料理を食べ、服も用意されていたものを着て、もらったお金の使い道も無かった。

 このカバンも買ってもらった布を加工したものだしと、緑色の使い込まれたカバンを見て、ふとリギルから服をもらったお礼をしていないことに気がついた。

 せっかくだし、今度差し入れにおにぎりを持っていこうと、以前見つけたお米を取り扱っているお店へ軽やかな足取りで向かった。

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