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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第4章 模索の旅
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第59話 手がかり

 リギルは残念そうに微笑んだ。


「それでも諦めきれずに、長く生きている人の情報がどこかにないか旅を続けたわ。でも、どれだけ旅を続けてもそんな人に会うどころか、話さえ聞かなかったの。そうして、そもそもわたくしの体質が他のみんなと異なるのではないかと考えるようになって、旅をやめたのが六年前になるかしら」


 長く生きたいと願っても、たったひとりで長く生きるというのは、それはそれで孤独なのだと、目の前で静かに語る人を見て思った。


「その後しばらくは北の大都市で過去の論文などを読んで過ごしていたわ」


 すっかり冷めたお茶を一口飲んで、リギルは話を続けた。


「そんな時に、古い石板の発見の話が耳に入ってきたの。北の大都市からそれほど離れていない山の中腹に、多数の石板が埋もれているらしいと。わたくしは、もしかしたら今度こそ何か分かるかもしれないと、最初の発掘から参加したわ。まずは遺跡まで行き来ができるように道を切り開いて、そこから発掘場所でも泊まれるように、遺跡に影響がない場所を探して小屋を建て、同時に発掘作業も進めていったの」


 当時は人の手が本当に足りなくて、あちこち声をかけて、発掘作業への参加をお願いしたのだという。


「そこで発見される石板の数は、これまでの遺跡と異なり大量で、次々と掘り出されていったわ。その中にずっと求めていた寿命に関する情報もあり、わたくしはもう本当に嬉しくて……」


 リギルは当時を思い出したように目を細めた。


「もしかして、その頃にムルジムと出会ったんですか?」

「そうよ。ムルジムは三回目の発掘隊で参加してくれて、最初は荷運びなどの雑務を引き受けてくれていたんだけど、石板を分類している時に興味を持ったみたいね。寿命に関してもっと知りたいと、わたくしに言ってきたわ。わたくしは次々と発見される新情報をひとりではまとめきれなかったので、大喜びでムルジムを迎え入れたわ。同じタイミングでもうひとり、北の大都市の研究者も加わって、三人で手分けをして書き写しては、それを持ち寄って議論したりしたわ」


 もしかしたら、この頃にカーフは話を聞いたのかもしれない。


「ただ、せっかく参加してくれた北の大都市の研究者は出会って二年ほどで消滅を迎えてしまって……。さらにムルジムからはエルルに戻る相談をされたの」


 せっかく研究が前進すると思った矢先だったので、リギルは落ち込んだ。

 そんなリギルを励ますように、ムルジムはプアナムでお互いの論文を持ち寄る提案をしたそうだ。


「そうしてムルジムはエルルに旅立っていったわ」


 リギルは生きているムルジムの姿を見たのが、この時が最後だった。



「それからすぐに、プアナムから鳥の使いがきたの。わたくしが借りていたプアナムの家が何年も使っていないようだから、他の人に貸しても良いかと」


 仲間がいなくなった発掘作業にどこか虚しさを感じていたので、いい機会だと書き写した資料を持って一度プアナムに戻ることにしたらしい。


「そしてプアナムの家に戻り、暮らしはじめてすぐに、さっきのふたりが訪ねてきたのよ。何事かと尋ねると、わたくしが博識な人物だと聞いたので、折り入って相談があると」


 長生きではあるけど博識なんてねと、リギルはふふっと笑って謙遜し、話を続けた。


「ふたりはプアナムで暮らす彫刻家だったの」

「ふたりとも彫刻家なんてすごい偶然ですね」

「そうなのよ。でも最初はお互いに面識はなかったそうなの。だけど近くにいるとお互いに引っ張られるような感覚があるから、なんとなくふたりで話すようになったそうよ」

「引っ張られるような感覚?」

「何かに引っ張られる感覚というのは、消滅前に起こる事象なの。だから、ふたりとも十九歳と二十歳なのにもう消滅するのかと落ち込んでいたのよ。でも、お互いに会わなければその感覚が無くなるので、あまりにも不思議で、これは一体何が起きているのかとふたりで悩んでいたところに、わたくしがプアナムに戻ってきていると聞いて訪ねてきたらしいの」



 前から気になっていた消滅の兆候は、やはりあるのだと知った。

 それは消滅が近づくと、まるで何かに引っ張られて体から自分が離れるような、そんな感覚があるのだという。シェアトもその感覚があったから、新しく生まれる子たちと、最初から距離を置くことができたのだろう。

 でも、もうすぐ自分が消滅すると知りながら生きるなんて、想像するだけで恐ろしい。私はその恐怖に耐えられるのだろうかと少し震えた。



「その話を聞いて、わたくしはすぐに『旅に出て……』の文言を思い出したわ」


 カーフやムルジムが教えてくれた、「旅に出て自らと出会って融合してさらなる寿命を手に入れる」という文言を私も思い浮かべた。


「そしてそれは、『魂の再融合』の話だと確信したわ」


 リギルは両手を組んでぎゅっと握り締めた。


 ムルジムが出発してから掘り出された石板のひとつに、『魂の再融合』が寿命を延ばす方法として示されていたそうだ。

 そして、再融合の前提条件として、お互いに引力を感じることが明記されていたのだ。


「ふたりにその話をして、もし再融合を希望するのなら、すぐに北の遺跡で関連する石板を探してくると伝えたわ。その時点では具体的なやり方がわからなかったから」


 考えさせてほしいと、その時はふたりとも帰っていったらしい。

 そして一ヶ月後にふたりは決心をした様子で、再融合をしたいからやり方を教えて欲しいとお願いにきたそうだ。


「わたくしは急いで遺跡へ戻ったわ。そして今年の夏にやっと関連する石板を見つけて、急いで書き写してプアナムに戻ってきたの」


 そしてふたりに再融合のやり方を伝え、本来は厳粛なものだから当人だけで行うものだけど、もしも可能なら見学させて欲しいと頼みこんだのだという。


「その時は少し考えさせてほしいと言われたのだけど、つい先日、了承してくれたの」

「そんな大切な儀式に、よく私まで入れてもらえましたね……」

「それはもう必死でお願いしたもの。再融合の際、どのような事が起こるのか。もし再融合をした場合、ふたりはどのような容姿になるのか。プレートの名前がどうなるのか。ふたりを知っている人からはどう見えるのか。知らない人にはどう見えるのか。とにかく色々と確認をしたかったの。だから頼みこんでエルライも同席させてもらったのよ」


 石板にも再融合の結果については書かれているらしいが、自分でも確認したかったのだと、リギルは先ほど書き込んでいた木の板を持ち上げてみせた。

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