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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第4章 模索の旅
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第58話 告白

 どうやら話が終わったようで、リギルはその人にお礼を言うと、あとは任せてと建物から送り出した。


「さて、まずはこの部屋の使用許可を貰っていたから、終わったことを伝えにいきましょう」


 ふたりで建物の外に出て隣の小さな小屋へ向かい、借りていた部屋の使用が終わったことを管理人に告げ、建物をあとにする。

 そしてお互いに朝食がまだだったので、早朝からやっているお店へ向かい、パンやスープなどを買い込んでリギルの家へ向かった。

 その間、私はずっと黙っていた。何となく外で話すようなことではない気がしたからだ。

 リギルの家に到着してそっと扉を閉めると、リギルは私を振り返った。


「ちゃんと説明せずに連れ回してしまってごめんなさい。食事が終わったら話すから、まずは食べましょう」

「はい」


 私は買ってきたものを並べて椅子に座った。リギルはぶつぶつ呟きながら物凄いスピードで木の板に何かを書きつけている。それを見て、もう少し時間がかかるかもと思い、井戸まで水を汲みにいってお茶を沸かした。

 温かいお茶をリギルの前に置くと、リギルは顔を上げてにっこりと笑った。


「ありがとう。お待たせしてごめんなさい。食べましょう」


 リギルはお茶を一口飲み、パンをちぎってスープにつけて食べると、少し落ち着いたのかフーッと一息ついた。それから黙々と食べはじめたので、私もそれに倣って食べはじめる。

 しかしリギルは、時々食事の手を止めては思案したように空を見つめていた。



「どこから話すのがいいのか悩むのだけど……」


 ちょうど食べ終わったタイミングで、リギルはそう切り出したかと思うと、真正面から私を見つめて質問をしてきた。


「エルライから見て、わたくしは何歳くらいに見えるかしら?」

「えっと二十五歳くらいでしょうか……?」


 シェアトが消滅した時と同じくらいの年齢に見えるリギルは、そろそろ自分も消滅をするという話を始めるのかと思って私は身構えた。


「そうよね。他の人からも大体それくらいの年齢を言われるわ」


 その反応に私はそんなに大きく外しているとは思えなかったので、「違うんですか?」と首を傾げた。

 リギルはその言葉に少し愁いを帯びた笑顔をして


「わたくしは今、四十八歳なの」


そう言って、真っ直ぐな眼差しで私をじっと見つめた。


「え……?」


 私はその言葉に思考が停止する。


「信じられないかもしれないけれど、事実なの……。そして、それがわたくしが寿命の研究をしている理由なの」



 リギルは話が飛ばないように、ぽつりぽつりと思い出すようにこれまでの自分の歩みを話しはじめた。


「最初は全くそのことに気がつかなかったわ。わたくしもみんなと同じように二十五歳くらいで消滅すると思っていたわ。だから、毎日山菜の採集などをして森の中で好きに過ごしていたのよ」


 その頃は何人か気の合う仲間で集まって自然の中で暮らし、森で採集したものを村や町で売って暮らしていたのだという。


「だけど、そこでひとり、またひとりと消滅していく中、わたくしひとりだけが残ってしまったの……。わたくしより後に生まれた子でさえ、わたしより先に消滅していくのは本当に信じられなかったわ……」


 自分の知っている人がみんな消滅していく中、自分だけが生き残っている状況は、ムルジムが語ってくれた遺跡の地で石板を刻んだ人の人生に少し似ている。


 人より長く生きられる肉体を持ったリギルは、何の心当たりもなかったので、何故自分だけ寿命が長いのか不思議で仕方がなかったそうだ。

 そして、その原因を探すことを決心したのは、周りに古くからの知り合いがいなくなった三十五歳になってからだった。



「最初は手がかりが何もないから、各地の学校に行ったわ。それから世界各地を旅して、各地に残っている文献を読んだり、伝わっている伝承を聞いたりしたの」


 学校では寿命に関する授業がそもそもなくて、歴史の授業を受けたり、図書室で本を読んだりしたそうだ。しかし、欲しい情報は得られなかった。

 次に目をつけた伝承は曖昧な文言が多くて、具体的な解決策にならないと感じたらしい。


 そこで今度は生まれた時に握っていたプレートを調査することにしたそうだ。


「え? あのプレートに意味があるんですか?」


 ただ名前を確認するためのものだと聞いていたので、まさか他にも意味があるなんて思いもしなかった。


「わたくしもずっと名前が記されているだけのプレートだと思っていたわ。そして、プレートは一定の時間経過すると消えてしまうのだと本に書かれていたから、そういうものだと思っていたの。でも、あれは持ち主が消滅すると同時に消滅するのではないかと考えている人に出会ったのよ」


 その人は誕生の家で働いている人で、たまたまその誕生の家で生まれ、そして消滅をした人がいたそうだ。その時、ふと気になってプレートを保管している木箱を確認したところ、つい先日あったその名前のプレートが見当たらなかったというのだ。


「わたくしはすぐに自分の育った誕生の家に向かい、自分のプレートを確認したわ。そこには確かにまだ私の名前が彫られたプレートがあったわ。そして、同じ時に生まれた仲間の名前や、その前後に生まれた仲間の名前は見当たらなかった……」


 そこで、生まれた順にプレートを並べて保管している誕生の家を探しては、自分のように長く生きている人がいないか探し回ったという。


「ただ、そもそも丁寧にプレートを並べて保管している誕生の家があまりなかったの。そして並べているプレートも空きができると、場所を詰めたりして、結局どのプレートが古いものか分からなかった。完全にわたくしの目論見は外れてしまったの……」

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