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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第4章 模索の旅
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第57話 二人

「話が逸れてしまってごめんなさい。ムルジムから資料を預かっているのよね」


 項垂れていたリギルは、気を取り直したように乱れた髪を整え、姿勢を正した。


「はい。こちらが石板の写しを清書したもので、こちらがムルジムの論文です」

「かなりの量があったのね。エルライが運ぶには大変な量だったでしょう。大丈夫だった?」

「ムルジムがロバを譲ってくれたので大丈夫でした」


 ああ、あの子ねと言ってリギルは頷いた。


「それじゃあ大切に読ませてもらうわね」


 そっとテーブルに置かれた資料に手を置いて撫でるような仕草をする。リギルもまたムルジムが消滅したことを知っているんだろうと、それを見て感じた。


「エルライにはわたくしのまとめた資料を読んで貰おうと思っていたのだけど、ちょっと状況が変わったから、もう少し時間を貰えるかしら」


 先ほど読んでいた手紙が関係しているのだろうかと思いつつ、「分かりました」と了承する。


「随分待たせてしまったのに、さらに待たせることになってごめんなさい」


 リギルはすまなそうにそう言うと、「ところで……」と話を続けた。


「エルライはプアナムにはあとどれくらい滞在する予定かしら?」

「まだ決めていないです」

「それならもうしばらくの間、滞在していてもらっても良いかしら……?」


 何だろうと不思議に思いながらも頷くと


「こんな機会はもう二度と無いはずだから、エルライにもなんとか見てもらいたくて……。そうね……、恐らく今年中になると思うから、その時にまた声をかけるわ」


残念ながら今日は寿命に関する話は聞けないみたいだが、リギルが何かを用意してくれるようなので、それを待つことにした。


「わかりました。それでは連絡待ってます」


 それからリギルから、ムルジムのエルルでの様子を聞かれ、私は教えてもらったことや、先生として学校に行っていたことなど一通り話してリギルの家を後にした。



 もうしばらくプアナムで暮らすならと、最近セーブしていたじゃがいもの仕入れ量をまた増やすことにした。

 ポテトチップスの噂は都市の反対側まで広がっているようで、遠くから買いに来てくれる人も増えていた。

 しかしお土産に持って帰ると、揚げたての美味しさは味わってもらえないから少し残念だなと思っていた。

 都市の反対側にも出店できたら、そちらに住む人たちにも喜んでもらえるかもと、権利の売買を真剣に考えることにした。



 *



 リギルから連絡があったのは十一月になってからだった。それも急ぎで、明日の早朝に家まできて欲しいと鳥の使いで知らされた。

 私はずいぶんと急な呼び出しだったので、何か不測の事態でもあったのかと、緊張しながらリギルの家へ向かった。

 リギルはすでに家の外に立っていて、私に気づくと小さく手招きをした。


「これから見聞きすることは他言無用よ。いいかしら?」


 あいさつもそこそこに、リギルは真剣な眼差しで人差し指を唇の前に立てるとそう言った。何かリギルから鬼気迫るものを感じて、私は何も言わずコクコクと頷いた。

 いくつもの路地を抜けて、ふだん私の行かない地区に足を踏み入れる。そして、少し大きめの建物に入ると、そこには初めて見る二人がいた。


「待たせてしまったかしら」

「いいえ、私たちも今到着したところです」

「そちらがエルライですか?」

「そうよ。わたくしと一緒に寿命の研究をしているエルライよ」


 何故か私がリギルとの共同研究者ということになっているが、とりあえず話を合わせた。


「はじめまして、エルライです。寿命の研究をしています。今日はよろしくお願いします」


 私のあいさつに二人は少し緊張した面持ちで頷いた。


「こちらの部屋を使わせてもらうことになっています」


 そう言って、建物の左手の奥にある扉を指した。

 そして、その二人が先を歩き、リギルもそれについていった。私も遅れないように後に続き、部屋に入ると二人は部屋の真ん中に立っていた。


「扉を閉めてください」


 そう言われて、私は急いで扉を閉めた。

 この世界に生まれてから今まで一度も扉を閉めることを促されたことがなかったので、これまでに経験したことのない緊張感に包まれた。


「もう二人ともいいのね……?」


 リギルがなにか覚悟でも確認するように聞くと、二人とも揃って「大丈夫です」と答えた。



「はじめます」


 二人は向き合ってそれぞれの手のひらを相手に向けて、そっと重ね合わせた。そして、お互いの額をゆっくりと近づけて合わせると、突然二人から光が立ち昇った。

 それはシェアトが消滅したときに見た光に似ていた。しかし、シェアトの時のように天井を突き抜けて消えたりせず、お互いから立ち昇った光は絡まり合って一つの光の柱になり、二人を包んで強く強く発光する。

 その光はあまりにも眩しすぎて二人がどんな状態なのか直視できなかった。そして、三十秒程続いた発光が収まり、やっと様子が伺えるようになったと思い目を開けると、そこには一人だけが立っていた。

 しかしその人は先ほどの二人のどちらかではない。ただ、どことなく先ほどの二人の雰囲気に似ている……。そう、ちょうど二人を足したような……。


「成功……したのかしら……?」

「はい。成功したようです」

「じゃあやり方は間違っていなかったのね」

「はい。リギルのおかげです。本当にありがとうございます」

「良かったわ……。それにお礼はわたくしが言うべきなの。まさか魂の再融合をこの目で見ることが出来るなんて思わなかったから……」


 リギルとその人は確認するように会話を始めた。


 私は目の前で繰り広げられた出来事に全くついていけず、ただ茫然と立っているだけだった。

 リギルとその人がひとしきり成功を喜んだ後に、私のことを思い出して手招きをした。


「エルライにはこの人のことがどのように見えているかしら?」

「先ほどのお二人とは少し違うのですが、雰囲気が似ていると感じます。……あの、これは一体何が起きたんですか?」


 思わず疑問が口をついて出たが、リギルは少し申し訳なさそうに


「説明も無しに申し訳ないと思っているわ。これは実験も兼ねていたので、また後でちゃんと説明をするわ」


そう言うと、再びその人と話を続けた。


 私は色々と疑問は頭に浮かぶが、取り敢えずリギルが教えてくれるまで待つことにして、先ほどの光景を思い返す。


 あの二人が融合してあの人になったんだろうか?

 消滅時に見た光と似ているが、あの光はいったい何だったんだろうか?


 いくつもの疑問が頭に浮かんでくる。

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