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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第4章 模索の旅
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第50話 発見

「この世界の成り立ちについてはもう習った……?」

「はい。創造主と四人の協力者で創ったと習いました」

「最近、その四人の協力者についての詳しい記述が見つかったんだよ……。四人は少なくとも九十歳以上生きて、それぞれの大都市を繁栄させたと……」

「それは後世の人たちが創作した物語ではないのでしょうか?」


 古事記などの神話をイメージしてムルジムに聞いてみると、首を振って手元の木の板を見た。


「発見された石板にはね……、三千年以上前に四人の協力者たちがそれぞれの都市の人たちと共に、穏やかに暮らしている様子が刻まれていたんだよ……」


 そんな古い話が残っているとはとても信じられないが、黙って話の続きを聞いた。


「自分は……、その話を事実だと仮定して考えることにしたんだ……」

「四人とも私たちと同じ普通の人で、しかも寿命が九十歳以上だと?」

「そう……。信じられない話かもしれないけど……」


 そう石板を写したと思われる木の板から目線を上げて、私を見た。


「そう、ですね……。ちょっと信じられない話ではありますね……。四人も神様だと言われたほうが、まだしっくりきます」

「カミサマ……?」

「うーん……、例えばこの世界を創ったり、人智を超えた存在でしょうか……」

「……。人智を超えた存在というなら創造主だろうね。この世界を創ったのだから……。この世界を創るなんて普通の人には不可能だよ……。でも四人の協力者はごく普通の人だったと思えるような記述がたくさんあるんだ……。例えばこの食事を摂っている様子とか、今とほとんど変わらない……。それに作物を収穫してみんなと分けあっている様子とかもあって……」


 テーブルの上で読みやすいようにと、私の方を向けて差し出された木の板を覗きこんだ。そこには確かに何気ない日常の風景が綴られていた。


「これを読むとムルジムが言うように、私達と変わらない普通の生活をしているようにみえますね」

「だからね……、九十歳以上生きたこの四人は自分達と同じ普通の人だと思うんだよ……」

「確かに……」

「それからこちらが二千年ほど前の話で……」

「ちょっと待ってください。そんなに古い記録が次々と見つかるって何があったんですか?」

「これはね、本当に大発見なんだよ……」


 少し興奮した様子で、ムルジムは別の石板の写しをテーブルに置いた。


「数年前にね……、北の大都市から少し離れた山の中で石板が埋もれているのを旅人が発見したんだ……。それがきっかけでね……、その周辺の発掘作業がはじまったんだよ…。そこでわかったのが、どうやらその付近に五百年以上前に集団で暮らしていた人達がいたらしいということだった……。その中のひとりは恐らく歴史の研究者だと思われてね……。後世に残すために石板に研究の過程で知り得たことを刻んでいたようなんだ……。ただ、恐らく途中からひとりだったんだろう……。何かの事故で消滅してしまったようで、記述が、ほら……、途中で終わってしまっているんだ……」


 差し出された写しは本当に文章の途中で途切れてしまっていた。写し間違いでなければ、石板を掘っている途中に消滅の眠りに入ったと思えるような途切れ具合だ。

 治癒は自分以外の人にしか出来ないから、大きなケガなどした時にたったひとりだった場合、もしかしたらそのまま眠りについて消滅してしまうのかもしれない。


「それでも最後の夢のお別れで、自分のいた場所を生きている人に知らせることはできたんじゃないですか?」

「そう……、それなんだよ……」


 ムルジムは身を乗り出して、さらに興奮した様子で、今度は紙に書き写したものを見せてくれた。


「これはね……、その研究者の日記だと思われるものだけど……。ここ、ほら……、『わたくしが昔から知っている人はみんな消滅してしまった。わたくしひとりだけが長い時間を生きている』と……。そして人里離れたその土地で自給自足の暮らしをしていたから、関わる人もいなかったようでね……。こことか、誰とも話さずに五年が過ぎたって……」


 確かにその日記には集団で暮らしはじめ、徐々に仲間が消滅していく様子が書かれていた。要所要所を書き写しているので、内容はとんでいるが、最終的にその場所でたったひとり残り、孤独に生活を続けている様子が書かれている。

 それはまるで、人の寿命が徐々に短くなっていることを暗示しているようにもみえた。


「これを読むと、私たちの寿命はいつからか短くなっていったようにみえますね」

「そうなんだよね……。それは逆に昔はもっと寿命が長かったことを示していると思うんだ……」

「確かに……」


 それでも消滅の原因は病気でもないし、理由がわからないのが不思議だ。


「なぜ寿命がだんだんと短くなったのかの記述はないんですよね?」

「残念ながら、自分がいた時に発掘された中にはその記述はなかったよ……」

「なるほど……」


 三千年以上前は九十歳以上の寿命があって、五百年前には寿命が短くなってきてる記述がある。そして現在は三十歳に満たない寿命だという。このままだとさらに寿命が短くなるのではないかという恐怖心が湧いてくる。


「ちなみに……、こちらの二千年前の話の中でね、寿命を延ばす方法として旅に出ることが推奨されているんだよ……」

「その話は聞いたことがあります。旅に出て自らと出会って融合して、さらなる寿命を手に入れるのだと」

「よく知っているね……。ただこれが何を意味しているのか分からないんだよ……。具体的な方法が書かれていないし、自らと出会うという行為が何なのか今のところ分かってないんだよね……」

「でも同じ場所でこれだけのことがまとめて発見されているとなると、信憑性が高そうですね」


 その時、夕方の鐘が鳴った。


「そろそろ帰る時間かい……?」

「はい。でももう少しお話を聞きたいので、また後日伺っても良いでしょうか?」

「もちろん……。そうだなぁ……、じゃあ五日後の午後はどう……?」

「大丈夫です。じゃあ五日後の午後にまた来ます」


 そう約束すると、ムルジムの家を出て帰路についた。

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