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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第4章 模索の旅
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第48話 学校

 しばらく歩いていると広場に出た。

 広場の中心まで行ってぐるりと周囲を見渡すと、少し向こうに他の建物より高いひときわ大きな建物が見えた。


 あの建物は何だろうと、とりあえずあの建物にたどり着きそうな路地に入って進んでみる。少し歩くと、正解だったようで大きな建物の正面にたどり着いた。


 ちょうどその時、お昼を知らせる鐘が鳴り、建物からぞろぞろと人が出てきた。

 私くらいの背格好の子どもから、二十歳を超えているように見える人まで、統一感のない集団に、ここが何の建物か想像できなかった。


「もしかして入学希望者の方ですか?」


 首を傾げて眺めていた私に声をかけてきたのは、金髪碧眼のおっとりとした雰囲気の人だった。


「あの、ここは何の建物ですか?」

「ここは学校よ。学びたい人が集まっているの」

「学校……。ちなみにどんなことが学べますか?」

「基本的には算術、歴史、地理、理科に音楽かしら。教える人がいれば、それ以外のことも学ぶことができるわ」


 もしかして、この学校にカーフが言っていた研究者がいるかもしれないと期待に胸が膨らんだ。


「ここに人の寿命について研究している研究者はいませんか?」

「人の寿命……は、いないかしら」


 これまでで一番見つかる可能性が高かっただけに、その言葉に私は項垂れた。


「じゃあいいです……。ありがとうございました」


 お礼を言って立ち去ろうとすると


「あなたは人の寿命の研究がしたいのね。それならここで学ぶのは、取っ掛かりとしてはいいと思うわよ。この先、本格的に研究に取り組む際に、事前に色々と学んでおくと異なる視点で見ることができるから」


そうアドバイスをくれて、興味があればまたおいでと見送られた。



 空腹のまましょんぼり家に帰ると、アルドラは出かけているようでいなかった。台所の椅子に座り、もそもそと朝の残りを昼食として食べると、お腹が満たされて少し元気になってきた。

 そして、先ほどは探している研究者が見つからなかったショックでさっさと立ち去ってしまったが、落ち着いて考えると、自分が間違っていたことに気がついた。

 これからこの世界の寿命について調べるのに、確かにこの世界の基礎知識は必要だ。それなのにずっと研究者を探していたせいで、うっかり研究者を見つけることが目的になってしまっていた。

 まずはカーフの言っていた研究者探しに専念して、もしも見つけられなかった場合は、いったんここの学校に通うことも視野に入れてみようと考えを改めた。



 それから毎日、早朝は漁港で仕事、休憩後に昼食まで家事を、そして午後は人探しをした。

 最初は漁港でトリマンに聞いて、それからトリマンが更に色んな人に聞いてくれた。

 しかし知っている人はひとりもいなかった。


「もしかして漁港側には来ない人なのかもしれないね。反対側の畑があるほうでも尋ねてみるといいかもしれないよ」


 トリマンからアドバイスをもらい、漁港の仕事が終わると畑のほうへ向かった。そこでカーフから聞いた名前の研究者を知っているか、畑で働いている人に聞いてみたが、やはりひとりも知っている人はいなかった。


 もしかしたら探している研究者は、エルルは出身地というだけで、エルルを出てから戻ることもなく、どこか別の場所で暮らしているのかもしれない。

 しかし、ただ単に探しきれていないだけかもと思うと、エルルを出ることも踏ん切りがつかない。

 広い都市で人ひとりを探すのは難しいなと改めて思った。


 一ヶ月近くそんな生活をしていたが、全く手がかりを掴めなかった。

 明日も朝早いからとベットに入ったが、なかなか寝つけず寝返りをうった目線の先に、バジで仕立ててもらった鞄があった。

 それを見て、このまま同じことを繰り返して、時間だけが過ぎるのは惜しいなと感じ、人探しは一旦中断しようと考えた。

 そして、まずはこの世界についてもっと知ろうと、あの学校へ行くことを決心した。



 さっそく翌日学校へ向かった。まだ授業中のようで、入口も人はおらず、キョロキョロしながら中へ入っていった。


「すみませーん」


 何となく無断で忍び込んでいるような気がして、誰かに気づいてもらえるよう声を小さく出しながら進んでいくと、奥の扉から顔がひょこっと出てきた。


「あ、この間の子ね」

「こんにちは。入学希望です」

「いらっしゃい。じゃあこちらに来て、手続きをしてください」


 案内されたのは職員室っぽい部屋で、個人用の机と椅子が置かれて、それぞれの机には教材らしき木札がたくさん積まれていた。今はみんな出払っているのか、誰もいなかった。


「こちらに座って待っててね」


 そう言われたのは、来客用のテーブルと椅子が置かれた部屋の隅だった。椅子に座って部屋を眺めていると


「こちらの木札に書いてある注意事項をよく読んで、問題なければこちらに名前を書いてね」


目の前に木札が置かれた。そこには授業時間や休日など、授業に参加する上での基本的なことが書かれていた。ざっと目を通して問題なさそうだったので名前を書いた。


「こちらが時間割よ。基本的にどの授業に参加しても大丈夫だけど、今からだと中途半端なところから聞く授業も多いと思うから、もしわからないことがあればその教科の先生に聞いてね」

「授業料はどうなるんでしょう?」

「あら、ここは無償よ。この学校は住民の人たちの寄付で成り立っているの」

「そうなんですか」


 それは助かると思いながら時間割を見ていると


「エルライは人の寿命について興味があると言っていたから、まずは歴史を学ぶと良いかもしれないわ」

「歴史……ですか」

「もしも興味があれば、図書室で本も読めるわよ」

「図書室があるんですか?」


本屋が無かったから本での情報収集は諦めていたけど、まさか図書室があるとは。

 幸いにも歴史の授業は週に二回、午後に行われるので、午前中は仕事と家事をこなし、午後から授業に参加し、授業の無い日は図書室へ通うことにした。



「しばらく学校に通うことにしたよ」


 夕食時にアルドラに今日のことを話すと


「いいじゃない。わたしも今の仕事が落ち着いたら通いたいと思っていたの」

「え? 仕事はじめたの?」

「そうなの。今日決まったばかりなんだけど、服屋で働くことにしたの」

「それはおめでとう。服屋の仕事なんてアルドラにピッタリだね」

「ありがとう。がんばるわ。まずは仕事を覚えるのが優先だから、しばらくは他のことは出来なさそうなのよ」

「そうなんだね。学校は特にいつから始まりとかないから、余裕が出来たら通うといいんじゃないかな」


それなら安心だわとアルドラは美味しそうにお米を頬張った。



 学校に通い始めて授業に参加してみると、やはり聞き逃した部分が気になった。

 授業で理解できない部分が、なんとなく最初の方の授業で話した出来事とつながっているのではないかと感じたのだ。

 そこで、歴史の担当をしている先生に過去分を教えてもらえないかお願いをしに行くと、ちょうど良かったと言われた。どうやら私の他にも同じような人が何人かいたようで、希望する生徒を集めて、小さな教室で改めて過去分の授業をしてくれた。



 この世界は創造主から始まったといわれている。

 創造主が協力者である四人の仲間とこの世界を作ったのだという。

 創造主はこの星の全てを創り、四人の仲間は現在の大都市にそれぞれ降りたち、開拓をして繁栄させたのが初期の出来事らしい。

 そしてその四大都市は、北の大都市のアラルンガル、乾燥した大都市のプアナム、緑土の大都市のタンムーズ、山霧の大都市のジュシュール。

 現在の大都市の名前はまさにその四人の名前だと言われている。



 私はその話を木の板に書き写しながら、ふと創造神ではなく創造主なんだなと思い、そういえば神や宗教を感じさせるものが、今までなかったことに気づいた。

 この世界を創る存在なんて、どう考えても神様としてどこかで祀られていそうなものだけど、ここまでの道のりではそれを感じさせるものはなかった。

 そして都市の名前になったという協力者の四人も、上位の存在として称えられそうなものだけど、やはりそんな話も聞かなかった。


 どういう理屈なのかは分からないが、もしかしてこの世界には神という概念がないのかもしれない。

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