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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第4章 模索の旅
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第46話 新居

 数日後、サドルに空き家を紹介してもらえることになった。


「ここの坂の途中にある。中心から少し外れるが、台所もあるし、まわりに住んでいる人たちも朝型の人達だから、生活のリズムも合うはずだ」


 近所に住む人のことまで考えてくれているなんてと驚いていると


「生活のリズムはお互いに大切だ。就寝中にうるさくて目を覚ましたり、起こさないように息を潜めて生活するのは、お互いに疲れてしまうからな」


そうサドルは説明した。


「確かにそう言われるとそうですね」

「今までみんな同じリズムで生活していたから、気にしたこともなかったわ」

「大きな都市ほど、色んな人がいるからな。あ、ここだ」


 坂を登っていくと同じようなデザインの家が並んでいる。サドルの家と同じで、白色の壁の建物に青色の木の扉だ。案内された空き家も同じような外観だった。


「素敵な家ね!」


 アルドラは胸の前で手を組んで、うっとりと見つめた。


「そうだろ? この辺は青色の顔料が手に入りやすいから、結構青色で扉や屋根を塗っている家が多いんだ」


 統一感のあるこの街並みに、そんな合理的な理由があるのかと感心した。



 扉を開けると、そこには前の住民が使っていたであろう家具がそのまま残っていた。それらは少し埃っぽいけど綺麗で、まだまだ使えそうだった。


「こっちが台所で、こっちが倉庫だ。トイレはそこで、体を洗う場所はあっちだ」


 サドルが慣れた様子で部屋の説明をして、二階へ続く階段を上がった。私たちも続いていくと、そこには手前と奥に一部屋づつあり、どちらも寝室として使える広さがある。


「こんにちはー」


 興味津々に部屋を見ていると、一階から声が聞こえた。誰だろうとアルドラと顔を見合わせると


「意外と早かったな。紹介するよ。この都市の取りまとめ役のひとりだ」


サドルと階下へ降りていくと、茶色の髪にオレンジの瞳をした若者が玄関に立っていた。そしてサドルの姿を見て、片手を軽くあげると


「案内ありがとー、サドル。アルドラ、エルライ、はじめまして。どちらがどちらかな? 私はクラー。この都市の取りまとめ役のひとりです」


そうサドルにお礼を言って、私たちにあいさつをした。


「はじめまして。私がエルライです。これからお世話になります」

「こんにちは、クラー。わたしがアルドラよ。これからよろしくね」


 玄関まで出ていき、クラーに自己紹介をすると、クラーは玄関の外の坂を指し示す。


「私はこの坂を登りきったところの黄色い扉の建物に基本的にいます。この辺り一帯を取りまとめてますので、わからないことや、何か困ったことがあれば声をかけてくださいねー」

「ありがとうございます」


 それからクラーには、一番近い井戸の場所や生活用品が売っているお店の場所などを教えてもらった。


「ちなみにここはいつから入居できますか?」

「今日からでも大丈夫ですよー」

「え、それなら今日から住みたいわ」

「それならこれらが早速役に立ちそうですねー」


 クラーはそう言うと、玄関の外に置かれた掃除道具の入った箱を持ち上げた。


「借りていいんですか?」

「もちろんですよー。使い終わったら返してもらえると助かります」


 私たちはお礼を言って、それらの掃除道具を受け取ると、早速掃除を始めることにした。


 それならとサドルは夕方にまた来ると出ていき、クラーも何かあれば声をかけてくださいと言って去っていった。


「部屋はどちらにする? 私はどちらでもいいよ」

「わたしは奥の部屋が良いわ」

「わかった」


 まずは部屋を軽く掃除して、宿屋を引き払うと荷物をそれぞれの部屋に置いた。そして再び掃除に取り掛かった。



 掃除がひと通り終わった頃には、もう日が傾いていた。昼食を携帯食で済ませていたので、夕飯をどうしようかなと考えていたらサドルがやってきた。

 出迎えると、たくさんの包みを持って立っている。


「よっ、これから夕飯だろ? 色々と買ってきたから、今日はここで食べようぜ」

「助かります!」

「ありがとうサドル! とってもお腹空いてたの。何買ってきたの?」

「焼き魚とか蒸し野菜とかかな。あとここのパンが美味しいかったからこれと、あとは豆のスープだ」

「どれも美味しそう!」

「早速食べるか?」

「はい!」


 綺麗にしたばかりのテーブルに買ってきてくれた料理を並べて食べ始める。

 どの料理もバジに比べると辛みが少なく、香草も使われていないさっぱりした味付けだった。そして、ここはパンが主食らしく、米はあまり流通していないとサドルから聞いて、私はがっかりしてしまった。


 宿屋にいたときには、すぐ近くのすいとんのような汁物を出しているお店を利用していたし、外食するときも手軽に食べられるパンを積極的に選んでいたから気がつかなかった。そんなことなら行商で米を売り切らずにもっと残しておけばよかったと後悔していると


「そんなふたりに朗報だぞ。表に置いてある袋は誕生の家のみんなからの餞別だ」

「え?」


玄関の外に見覚えのある袋がいくつか置かれていて、それをアルドラとふたりで家の中に運び込み、まずはひとつ袋を開けて中身を確認すると、それはお米だった。


「きっとふたりとも慣れた食事も食べたいだろうからと、出発前に渡されたんだよ。よく使ってた調味料もどれかに入っているはずだ。よかったら一度全部確認してみてくれ」

「カーフ達は知ってたんですね。エルルは食文化が違うことを」

「もー、言ってくれたら、みんなから買って持ってきたのに」

「まあ、そんなに怒らないで」


 ふくれっ面のアルドラは首を振って


「怒ってはないわ」


 そう言うと、嬉しそうにお米をじっと見てから、袋の口を縛りなおしていた。


「ね。なんか、みんならしいよね」


 私は誕生の家のみんなの顔を思い浮かべて、アルドラに同意を求めると


「ええ、ほんとうに」


少し苦笑いをして、でもやっぱり嬉しそうに頷いた。そして、あとでケラススにお願いをしてお礼の手紙を出そうと話し、ふたりで受け取った袋の中身を確認した。


 それから三人で明日からの過ごし方について話しながら、夕食の続きを楽しんだ。

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