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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第4章 模索の旅
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第45話 エルル

 乗船の日もよく晴れていた。


 私たちは早めの朝食を終えると、昨晩まとめておいた荷物を身につけ、軽い足取りで港へ向かった。


 これから乗り込む船はあれだとサドルが示したのは、私が想像していたものよりはるかに大きな帆船だった。停泊している船には板が渡してあり、そこを渡って人々が乗り込んでいく。

 私とアルドラは大して荷物もないので、木札を渡すと、列に並んでそのまま船に乗り込んだ。サドルはキャラバン隊の仲間と荷物の積み込みや、数の確認などをしてから乗り込むとのことで、船の中で合流する予定だ。


「まずはみんなが行く方向に行ってみる?」

「そうね、どこに何があるのかさっぱりわからないものね」


 甲板から乗り込んだ人たちがぞろぞろと向かう先についていくと、その先には広い部屋があり、みな思い思いの場所でくつろいでいる。私たちもそれにならって、手頃な場所に腰を下ろし、キョロキョロとまわりを見渡した。


「みんなエルルに行くのかしら?」

「どうだろう。途中にいくつか島があるらしいから、何人かはそこで降りるのかもしれないよね」


 そんな話をしながらサドル達を待っていると、もう船が出るというタイミングで部屋に入ってきた。


「これから出港して、いくつかの島に寄港して荷物や人を下ろしながらエルルに向かうが、エルライもアルドラもエルルで下船するから、それまでは船の上で過ごすことになる」


 サドルは船内の案内をしながらそう教えてくれた。これから四日間この船で過ごすのかと思うと緊張したが、その緊張はあっという間に霧散した。


 船酔いが酷かったのだ。


 アルドラも同様で、もうひたすら気持ちが悪くて寝転がっているだけしかできなかった。時々心配してサドルが見に来て、気分転換に甲板に連れて行ってくれたりもしたが、ほとんど横になっている記憶しかなかった。



 *



 四日後の午後に船は無事エルルに到着した。

 船酔いでフラフラしている私たちふたりは、キャラバン隊の人に支えられながら下船した。しかし陸に立っても、まだふわふわと揺れているような感覚に襲われて、これはいったいいつまで続くんだろうと足元を見る。


「二、三日で慣れるさ」


 そうサドルに言われて、あと二、三日もこんな状態なのかとげんなりした。

 船から降りたので、今日はもう寝る場所がない。そのため、まずは宿を探さないといけないのだが、アルドラも下船してすぐの場所で座り込んだまま動けないでいる。ふたりともそんな調子だったので、サドルが気を利かせて宿をとってくれた。


「本当に何から何まですみません…」


 青い顔でお礼を言うと


「いいさ。困ったときはお互い様だ。この宿の近くにオレの家があるから、何かあれば訪ねてくれ」


そう言って、私たちの部屋まで付き添ってくれた。



 私たちは二日でなんとか復活して、まずはサドルの家にお礼に行った。

 この近くとは聞いていたけど正確な場所がわからなくて、宿の受付の人に聞くと丁寧に教えてくれた。

 教えてもらった建物は、白壁に青色に塗られた木の扉という可愛らしい建物だった。

 ただ扉は開け放たれていて、中の様子がよく見える。中ではサドルがしゃがみこんで何かを修理しているようで、こちらに気が付かない。


「こんにちは。サドル」


 アルドラが玄関から声をかけると、ひょいと顔を上げて、私たちの顔をみとめるとクシャっと笑った。そして立ち上がると、玄関までやってきた。


「よっ、ふたりとも元気になったみたいだな」

「おかげさまで、無事に復活しました」

「本当にサドルには助けてもらってばかりだわ」

「そんなことないさ。道中はオレたちも助けてもらっていたよ」


 そう言って私たちの頭をポンポンと撫でて笑った。


「当面、オレはここで暮らしているから、もし何かあれば声をかけてくれ」

「ありがとうございます」


 私たちはサドルにお礼を言って、再び宿へ戻った。

 そして、下船してから何も見ていないエルルの都市を見て回ることにした。


 街並みはイシュイルと似た雰囲気だけど、サドルが言っていたようにこちらの方が大きい都市のようで、人も建物も多い。

 そして海に面した都市なので、イシュイル同様に海産物が豊富にとれるようだった。ただイシュイルではあまり見かけなかった海藻類がエルルではよくとれるのか、あちこちで見かけた。これならまたワカメのおにぎりが作れそうだなとお店の場所をチェックしておいた。



 丸一日見学して分かったのは、とにかくこの都市は大きいということだ。ここで人探しをするには広すぎる。このままだと宿代で路銀が消えるかもしれない。


「そういうわけで、私は家を探そうと思うんだけど、アルドラはどうする?」

「それならわたしも一緒に住むわ。まだまだ見て回りたいと思っていたからちょうど良いわ」

「じゃあふたりで暮らせそうな家を探すのに、一度サドルに相談してみるよ」

「そうね、この都市の取りまとめの人もわたしたち知らないものね」



 ふたりでそんなやり取りをして、夕食を買いに行こうと宿屋を出たところで偶然サドルに会った。

 これはちょうどいいと相談をすると


「家か……。確かにしばらく滞在するなら拠点になるところがあるといいよな」

「私たちふたりで家を借りることってできるんでしょうか?」

「んー、多分出来る。……うん、大丈夫」


心当たりがあるらしく、数日待ってくれと言われ、その場は別れた。



 その後もアルドラは都市のあちこちを見て回っているようで、珍しいお店を見つけては、私に報告してくれた。


 私はカーフの言っていた研究者の手がかりが少しでもないか探しはじめた。

 しかし、こんな大きな都市で何をどうしたら探し人に会えるのか分からなくて、ただ都市の中をウロウロしただけで数日を費やしてしまった。

 これは本当に長期滞在も視野に入れた方が良さそうだなと考え、それならまずは生活費を稼ぐために仕事を探そうと、明日からの方向性を決めた。

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