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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第3章 決意
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第40話 旅の準備

 役場での仕事にも徐々に慣れてきたある日、タラゼドが私にとお茶を渡しながら声をかけてきた。


「今、少しいいですか?」


 私は依頼された経費申請書が正しいか、そろばんで検算している最中だったので、キリのいいところまで進めた。そして木の板にそこまでの金額を書き込んでから「大丈夫です」と顔を上げる。

 タラゼドは私の隣まで椅子を持ってくると、そっと座って質問してきた。


「噂で聞いたのですが、エルライはアルドラとふたりで旅に出るんですか?」


 仕事の話かと思ってメモを取る準備をしていた私は、石盤の上に石筆を置いた。そしてタラゼドの質問の意図が分からないまま、素直に答える。


「はい。ふたりで旅をする予定です」

「ちなみに行き先は決まっているんですか?」

「まずはエルルに行こうかと思ってます」

「海の向こうの?」

「はい」


 カーフに教えてもらった都市の名前を挙げると、タラゼドがなるほどと少し考えるようにうつむいた。

 もしかして何か問題でもあるのだろうかと、少し緊張してタラゼドの言葉を待った。

 すると、私が不安そうにしているのに気づいて微笑むと、「これは提案なんですが」と優しい目で私を見つめた。


「エルルまで、キャラバン隊と行動を共にするのはいかがですか?」

「キャラバン隊?」

「そうです。キャラバン隊です。ふたりとも今回初めて旅をするんでしょう?」

「はい……」

「実は成人前の子どもだけで旅に出る、というのは非常に珍しいんです。弟子入り先の成人と一緒に、もしくは、行商人と弟子入り先まで一緒に旅に出る子が多いんです。しかし、今回は弟子入りという訳でもないですし……。それなら旅慣れたキャラバン隊の人たちとしばらく一緒に行動して、野営のやり方などを学んでおいた方が良いと思うんです。なんせエルルまではかなり距離があるので……」


 実は私もそれは懸念していたのだ。

 旅に出ると、当たり前だがアルドラとふたりきりだ。何か困ったことがあっても助けてくれる人がいない。

 宿屋などがあればまだしも、まわりに助けを求めることができない場所で何かあったらと思うと、不安で仕方がない。野営の方法もルクバト達から教えてもらってはいるが、場所が変わるとやり方も変わりそうだから、豊富な経験をもつキャラバン隊は心強い。


「でも、キャラバン隊の人たちは私達を連れて行ってくれるでしょうか?」


 なんのメリットもない子どもふたりを連れていくのは、キャラバン隊にとってただのお荷物だろう。


「それなら大丈夫です。ちょうど良いアテがあるので、聞いておきますよ」


 タラゼドは既に心当たりがあるようで、手を胸に当てて微笑んだ。


「それはありがたいです。ちなみにその場合はいつ頃の出発になるんでしょうか……? その、まだ路銀が貯まっていなくて……」

「そうですね……、確か来年の誕生の祝祭の頃にこの辺りを通るはずです。その時に合流することになると思いますがどうですか?」


 今日は四月になったばかりで、まだ十ヶ月近くもあるから、さすがにその頃には出発できるだろうと頷いた。


「大丈夫だと思います。ぜひ同行させてもらえるようにお願いしてもらえないでしょうか?」

「わかりました。では頼んでおきますね」

「よろしくお願いします」


 タラゼドは笑顔で引き受けてくれて、私も不安に思っていた旅が何とかなりそうで胸を撫で下ろした。


「そういえば、エルライは『鳥の使い』は連れていかないんですか?」

「鳥の使い?」

「ええ、旅をしている人と連絡をとる時は鳥の使いを使うんですよ」


 そう言われて、アクベンスが使っていたのを思い出した。

 仕組みはよく分からないけど、確か伝書鳩のように手紙を運んでいたような気がする。


「エルライの年齢で鳥の使いを連れているのは珍しいですが、長期間の旅を考えているのなら、連れて行くのも良いと思いますよ」


 メールどころか電話もないし、手紙を出してもどれくらいで届くのか想像もできない。旅での連絡手段を持っておいたほうが良いのは確実だろう。


「それはどこへ行けば良いんでしょうか?」


 私が鳥の使いを連れていきたい意思を示すと、タラゼドは


「では、そちらはあまり早くても大変だと思いますので、出発前までに紹介しましょう」


そう言って、お仕事中すみませんでしたと椅子から立ち上がった。

 何から何まで気をかけてくれるタラゼドに、私は立ち上がって感謝の意を伝えた。



 そうして午前中は誕生の家の農作業を、午後に役場で会計の仕事という生活が数ヶ月続き、目標金額に近い貯金ができた頃には十一月が差し迫っていた。

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