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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第1章 穏やかな暮らし
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第4話 暮らし

 朝食後、私たちはシェアトに連れられ、誕生の家とその近辺を見学した。


 誕生の家は、私の目から見れば、かなり不用心な建物だった。

 どの部屋の窓にも格子やガラスなど、さえぎるものがなく、ただすだれのようなものがあるだけだった。

 それも今は上げられている。扉もあるにはあるが、それらも全て開け放たれている。


 南国のような気候だから、理にはかなっているが、あまりの警戒心のなさに、私は内心驚いた。きっとこの辺りは、かなり治安が良いのだろうとひとり予想しつつ、ゆったりと案内しているシェアトの後を追いかけた。


 部屋は、寝室が子ども用と成人用で二部屋あり、食堂と厨房、応接室と来客用の部屋がひとつ、あとは広めの物置があるだけだった。


 外は舗装されていない土と草の道が基本で、ときおり石畳が敷かれているところがある。家の前面は耕作地が広がっていて、休憩ができそうな東屋あずまやが見える。さらに遠くに建物がポツポツ見えて、それらはお隣さんだという。


「家の裏は、昨日あなたたちが生まれた誕生の森を中心に、森が広がっているわ」


 説明しながらシェアトは裏手にまわった。

 そこは緑の濃い森が広がっていて、鳥の鳴き声が遠くから聞こえる。森の手前には小さな果樹園があり、実った果実は食事で提供されるらしい。


 今度は家の反対側を歩いて、クワや鎌などの農具が置かれている場所の説明を受けながら、表まで戻ってきた。


「そしてここはバジという町の一角よ。町の中心部は、この道を真っ直ぐ行ったところにあるわ。町で暮らしている七割近くの人が、農業や林業を営んでいて、誕生の家も農業で生計を立てているのよ」


 そう言われて、耕作地の広さに納得した。


「こっちがサトウキビを育てている畑で、むこうが雨季にお米を育てる田んぼ、あとは誕生の家で食べる分の菜園があちらよ。これからこの家を旅立つまでのあいだ、みんなにもここで農作業をしながら暮らしてもらうわ」


 シェアトの言葉に、農業経験が全くない自分は、ここでやっていけるのかと不安になった。


 食堂に戻ってくると、そこには円錐形の帽子と竹でできた水筒が置かれていた。帽子のかぶり方を教えてもらい、水筒を手渡されると、中からちゃぷんと音がした。


「外は暑いから、外で作業をするときは帽子と水筒は忘れずに。水は厨房にあるから、朝出かける前に入れて、帰ったら中身を捨てて、洗ってから、このカゴに入れておいてね」


 食堂の棚に置かれているカゴを持ち上げて見せた。


「じゃあまだ昼食まで時間があるから、菜園で草刈りをしましょう」


 その言葉で、子どもたちは小さな鎌を手に、シェアトと菜園へむかった。



 午後は本格的に作業をするため、サトウキビ畑へシェアトとルクバトに連れられて行った。

 刈り取りは体格的に難しいからと、ナシラの指示で、葉っぱを剥がしたり、茎をまとめて運んだりした。たくさんの汗をかきながら、初めての農作業に悪戦苦闘して取り組んだ。


 途中、ミラクがお茶と黒糖を持ってきてくれたので、東屋で休憩をはさみつつ、日が傾くまで作業を続けた。



「みんなお疲れ! じゃあ体を洗って夕食にしよう」


 ルクバトの一声で、みんな片付けをして、家へむかった。体を洗う場所と案内されたのは家のすぐ外で、ためた水を使って体を洗うようだ。


 体を洗っているみんなを横目で見ると、やはり誰もが、のっぺりとした同じ体をしている。この世界の人は性別が無いのだと改めて思った。



 *



 夕食後はお茶を飲みながら、今日の出来事について話をした。子ども達は初めての農作業を楽しんでいたようだった。

 私も、こういう生活はテレビや本の中でしか知らなかったので、実際に体験しておもしろかった。

 体が子どもなので、少しずつしか作業できないのは歯痒いが、土や植物に触るのもひさしぶりなので、夢中になって作業できたのはよかった。


 一日過ごしてわかったのは、この世界すべてが同じなのか不明だが、少なくとも、この家に電気やガスはないということ。夜はろうそくを使うし、料理には薪を使う。そして機械の類は見かけなかった。

 江戸時代くらいの生活なのかなと推測しながらも、正直、自分の知識が乏しいので、実際のところはよく分からない。

 ただ文明が発達して、便利で快適な、でも何かを犠牲にしているような以前の生活が恋しいとは思わなかった。不便でもこの環境が、自分にとって不快ではないと感じていた。



「明日も朝早いから、そろそろ寝室に行きなさい」

「わたし、まだ眠くないわ」

「僕はもう寝る」

「私も寝室行こうかな」


 シェアトに促され、クラズと私が寝室に向かおうとすると、アルドラもそれならと椅子からおりた。



 昨日はあまりの眠たさで、じっくり見る余裕がなかったが、子ども用の寝室はナシラと私たちの四人で使うようだった。部屋の広さ的にかなり余裕があるので、もしかしたら子どもの数によって、ベッドの数を変えているのかもしれない。もちろん個室はなく、衣装や荷物があれば、ベッドの横に置かれた木箱に入れておくスタイルだ。


 盗まれたりしないのかなと一瞬思ったが、誕生の家にいる人たちの顔を思い浮かべ、それは無いなと、すぐにその考えを打ち消した。

 外からの侵入者がいれば話は別だが、この家の様子から、それも無いのだろう。


 ベッドに入ると、初めての農作業に疲れていたのか、すぐに眠気がやってきて、深い眠りについた。

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