表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第3章 決意
37/72

第37話 カーフとの会話

 ナシラと別れた後、広場で何をするでもなくベンチに座っていると、重そうな荷物を抱えたカーフが通りがかった。


「こんなところで、どうしたんですか?」


 私に気がつくと、小首をかしげながらやってきた。


「さっきナシラに会って、もう他にやることがないので、ここでぼんやりしてました」

「そうなんですね。隣いいですか?」

「もちろんです」


 荷物を抱えたまま私の隣に座ると、カーフはふうっと一息ついた。そして、しばらくお互いに黙ったまま、町の風景を眺めていた。


 確かこの広場でカーフと初めて会ったんだなと思い出し、私はふとカーフに尋ねた。


「カーフは世界中を旅していたんですよね?」

「はい。全ての都市や町を見てきた訳ではないですが、色々なところを旅しました」

「世界には、寿命や延命の研究をしている人もいるんですか?」

「延命に関する研究は、色々とされているみたいです。食事を変えるといいかもしれない、運動をすることで延命できるかもしれない、様々な角度で研究や実験を行っていると聞いたことがあります」

「それらの研究の中で、有効なものはあるんでしょうか?」


 残念ながら、と首を振った。


「今のところ、有効なものは見つかっていないようです。ただ……」

「ただ……?」

「北の大都市の研究者が、雑談の中で話していたことが興味深いと私は思いました。それは数年前に発掘された石板に彫られていたらしいのですが……」


 カーフは記憶を探るように、少し上を向いて、話を続けた。


「この世界では千年以上前から、旅することを推奨していたそうです。そして旅の本来の目的は、自らと出会い融合し、さらなる寿命を手に入れることだったそうです。今ではその目的は忘れ去られてしまい、旅をすることだけが形骸化して残ってる、と言っていました」

「にわかには信じられない話ですね……」


 あまりにも荒唐無稽な話に唖然としてカーフをみたが、カーフは至って真面目な顔で私を見た。


「私はその辺りにヒントがあるのかもしれないと、密かに思っています。なぜなら古代の人達の寿命は今よりもっと長かった様子が、各地の昔話で語られていたので」


 旅をしていたカーフは、世界の逸話を収集している人にお願いされ、訪れた先の様々な逸話を集めていたらしい。その中に、そのような話があったのだという。

 だがカーフは世界各地を旅したが、研究者が言っていた、「自らと出会う」ことは出来なかったそうだ。それでこの話は、自分の心に中に秘めておいたらしい。

 しかし、私の様子をみて、もしかしたら何かの役に立つのかもしれないと、突飛な話と分かりつつも話してくれたのだった。



「もしも、これはもしもの話ですが、エルライがそのことに興味があって、延命の方法を探したいと願う気持ちがあれば、出発は早いほうがいいです」


 なぜなら私たちの寿命は短い……


 私は発していないカーフの言葉を聞いた気がした。そしてシェアトの消滅から、私の中にあった違和感の正体がわかった。


 この世界は、暮らす人々に対し、とても穏やかで優しく出来ている気がする。それなのに寿命に関してだけ残酷で、この世界の在り方とそぐわない、そんな違和感が私の中にあったのだ。

 だけど、昔は今より寿命が長かったのだとしたら、今の私たちの寿命の短さには、何か原因があるのではないかと、そう疑問が湧いてくる。


 私は今七歳だ。もしシェアトと同じなら二十年の時間がある。子どもの体だから、体力の面では多少の不利な部分もあるけれど、それもあと数年もしたら成長するし、二十年あれば何か分かるかもしれない。

 そう思うと、なんだか居ても立っても居られなくなってきた。


「カーフ、話が聞けて良かったです」


 ソワソワしはじめると、カーフはまあまあ落ち着くようにと、私の肩に手を置いた。


「もしかして決めたんですか?」

「はい。何から始めればいいか分からないけれど、私は延命の方法を探すことにしました」


 わかりました、とカーフは真剣な眼差しで私をみつめた。


「エルライ、それならもう一つ聞いてください。もし、延命の方法に関する研究をするのだとしたら、万が一その方法が見つかっても、見つからなかったとしても、自分を責めないでください。それはエルライ個人の問題ではないのですから。そんな世界の問題はひとりで抱え込むものではないです」


 その言いように、何か引っ掛かるものがあった。


「もしかして、カーフの知り合いに同じように研究していた人がいたんですか?」

「はい。いました。ただその人は調査を始めたのがかなり遅くて、この世界を去る時に何もできなかったと、ひどく落ち込んでいました。私はそれを見て、この世界の人のために生きてきた人が、そんな風に絶望して消滅していくのは間違っていると思ったんです」

「そんなことがあったんですね……」

「だからエルライもこのことを、忘れないで欲しいんです」

「わかりました。覚えておきます」


 カーフと約束をして、私はこれからの計画を立てることにした。


 まだ買いたいものがあるからと、カーフとは広場で別れ、ひとりで宿屋の部屋に戻ると、みんな出かけているようで誰も居なかった。


 ゴロンとベッドに寝転がって天井を見ながら、まずは旅をするのに先立つものが必要だろうと、金策から考えはじめた。

 それで思い出したのがあんこ餅の権利だ。

 もし、みんなが許してくれて、権利を売ることができたなら、みんなと分けても、それなりの金額になるのではないかと期待した。これはバジに戻ったらミラクと相談をしようと思った。


 あとは出発の時期も決めておいた方が、色々と揃えやすいから、ある程度当たりをつけておこう。

 あとはどこへ向かうかも考えておかないと……。

 見当違いの方へ行って時間を浪費するのは避けたい。

 さっきカーフが話していた北の大都市の研究者を訪ねるのがいいのかな? 一度カーフに旅の準備も含めて色々と相談しよう。


 そうこれからの事を考えはじめると、頭の中の霧が晴れていくように、徐々に前向きな気持ちに切り替わっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ