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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第3章 決意
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第34話 シェアト

 その日は朝食にシェアトの姿がなかった。

 たまに買い出しなどでいないこともあったので、今日も出かけているのかなと、特に確認もしなかった。他の子どもたちも同様で、そんな日もあるのかなと食事をしていた。


 しかし昼食になっても姿がなかったので、さすがに変だなと思っていたら、アルドラが厨房にいるミラクとルクバトに尋ねているのがみえた。


「シェアトはどうかしたの?」


 アルドラの純粋な疑問に対し、ミラクはルクバトに目配せをした。そのやりとりを見て、私はなんだか不安な気持ちになった。


「そ、そのことについて昼食後に話すよ」


 ミラクはそう言葉を濁すと、作られた料理を運びながら昼食を食べるように促した。

 いつの間にかクラズも私の後ろで、アルドラたちのやり取りを聞いていたようで、私たちは顔を見合わせるとサッと席に座り、目の前の食事を急いで食べた。



「た、大切な話だから、よ、よく聞いてほしい」


 子どもたちが食べ終わるとお茶が配られ、みんな椅子に座った。そして、ミラクは緊張した顔で言葉を発した。


「シ、シェアトは昨日の夜から、し、消滅前の眠りに入ったようで、お、恐らくあと一週間でこの世界から去ります」

「え……?」


 ミラクが何を言っているのか、さっぱり理解できなかった。


「え、えっと……、それはシェアトが今、病気や怪我をしているということですか?」


 昨日の夕食時にはそんな様子がなかったから、夜の間に何かあったんだろうかと、私は緊張した声で質問する。


「違うんだ、エルライ。シェアトは健康だよ。だけどこれは寿命なんだ」


 ルクバトが私の目を見て言った。


「寿命……? シェアトはまだ二十代に見えるけど……」

「た、確か今年の一月で二十七歳のはずだよ」

「え……? 二十七歳で寿命……ですか?」


 その言葉に衝撃を受けて、ミラクたちを見ると三人とも頷いた。

 まさか病気でもない健康な人が、三十年に満たない時間しか生きられないなんて、私はこの世界の現実に愕然とした。五歳になるまでは孵化の森で意識がないまま成長するから、実際には二十年程度しかこの世界で生きていないことになる。


「でも治癒の技術があるから、それをみんなでやれば元気になるんじゃないの?」


 アルドラの言葉にハッとして、三人を見ると


「シェアトは怪我をしているわけでも、病気でもないから治癒でどうにかなるものではないんです」


カーフが静かに首を振った。


「で、でも試してみてもいいでしょ?」


 アルドラがすがるように訴えると、もちろんいいよと、私たち三人をシェアトのところに連れて行ってくれた。


 成人の寝室は、子供たちの寝室と作りはほとんど一緒で、唯一ベッドの大きさだけが大人のサイズだった。そして並んだベッドの一番奥で、シェアトは静かに眠っている。その様子は本当にただ眠っているだけのようで、声を掛ければ起きるのではないかと思った。


「シェアト……起きて……」


 クラズがゆさゆさとシェアトの腕を揺さぶって声をかけているのを見て、私とアルドラも囲むように立って声をかけた。

 だけどいくら呼びかけても、体を揺すっても全く目を覚ます気配がない。その状態に、これが現実だと突きつけられているような気がして、今度は震える手をシェアトにかざした。いつもと同じように意識を集中するのに、まるでどこも悪いところが無いといっているかのように、光が漏れることもなく治癒ができない。体の隅々まで治癒を試みたが、なにも起きなかった。


 その様子を見ている成人たちの視線に気がつき、私は悟ってしまった。きっとミラクたち三人も同じように、大切な人の死を目の前にして、治癒を試みたことがあるのだと。そして一度として成功したことがないのだと。それを理解した瞬間に、自分の無力さに泣けてきた。


 ふと顔を上げると、この一月に新たに生まれた子どもたちが、寝室の入り口から顔を出して、不安そうに私たちを見ている。

 その様子を見て、一月になってからのシェアトの様子が脳裏に浮かんだ。そして、シェアトがあの子達とは距離を置いて生活をしていたことに、今更ながら気がついた。生まれたばかりの子どもたちに対して、少しでも衝撃を和らげるために、深く関わらないように細心の注意を払っていたのだ。


 ──そうか……、もうその頃から自分が長くないことを知っていたのか……


 それから毎日のように、食事や仕事の合間に三人で交代しながらシェアトの治癒を試みた。



 しかし、何も成果がないまま一週間が経った。

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