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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第2章 広がる世界
33/72

第33話 誕生の祝祭 3年目

 今年の誕生の祝祭では、昨年より多くのあんこ餅を用意した。しかも二種類だ。


 慌ただしく屋台を準備していると、いつも祭りなどで進行役をしている淡い緑色の髪の人が、心配そうにやって来た。


「こんなにも人気のある屋台ってなかなか無いから、準備とか大変でしょう? ちゃんと寝ていますか? 屋台の場所はここで大丈夫ですか? もし必要なものがあれば言ってくださいね」

「いつもありがとう。でも無理のない範囲でやっているから大丈夫よ」


 シェアトが安心させるように微笑んで、私たちも頷くと、その人は憂い顔から安心した顔にかわった。そして、じゃあお願いしますとその場を離れた。


「あまり前例がないから、町側も試行錯誤してるんですね」

「ええ。でもお願いしたとおり屋台の場所も配慮してもらったし、今回は手際良く売れると思うわ」

「分担も決めて、助っ人も頼んでありますしね」

「そうそう、お礼で渡すあんこ餅を取り分けておかないといけないわね」


 カーフがシェアトと準備をしていると、スハイルとマルケブがやってきた。


「今年も手伝いに来たよー」

「がんばる……」

「今年は私もちゃんと屋台にいますよ」


 私がそういうと、スハイルがビックリして


「え? 今年もジョクスに出るんじゃないの?」

「いえ、出ないです。今年はナシラもいないし、最近は全然練習していなかったので」

「そうなんだ……。あんなにも頑張っていたから、てっきり今年も出るのかと思っていたよ」


ちょっと見たかったけど仕方ないか、とスハイルは残念がった。


「本当に出なくていいの? 屋台のことは気にしなくてもいいのよ」


 シェアトもまた心配して声をかけてきたので


「ナシラほど熱心にやっていた訳ではないし、昨年出られたからもう満足しているんです。今年は屋台で頑張りたいです」


笑顔で答えると、そうなのねと頷いた。


 それでも念のためにと、私は午前の担当で屋台に立つことになった。そしてエルライは計算が得意だからと、シェアトから会計を任され、うーんと思いながらも、アルドラやクラズよりは確かにできるので引き受けた。

 やはり午前中からすごい賑わいで、飛ぶように売れていった。



 昼食前になると、ルクバトが今年生まれた子ども達を連れて広場にやって来た。朝からだと退屈してしまうだろうからと、私たちの時と同じようなタイミングで来て、昼食を買う練習をしにいく。懐かしいなと思いながら、小さな三人の後ろ姿を見送った。


 今回は昼食をみんなで食べることを、事前に決めていたので、お昼休憩の時間を知らせる木札を朝から屋台にかけておいたのだ。その甲斐もあり、その時間が近づくと、行列が自然と解散してくれて、私たちは無事に昼食をみんなでとることができた。


 午後になると屋台の当番から解放され、お披露目の時間までひとりでぶらぶらする。昨年ナシラとしっかり見たから、今回は目新しいものを見つけては、それをゆったりと見学した。


 お披露目の時間になり広場へ戻ると、すでに多くの人たちが集まっている。ステージの見やすい位置へ進むとカーフがいたので声をかけ、確かこの時間はカーフも屋台の担当だったので、何かあったのか聞くと


「バジのお披露目を見るのは初めてでしょうから、ゆっくりして来なさいと、シェアトが代わってくれたんです」


そう言って、背の低い私に見やすい場所を譲ってくれた。


「そうだったんですね」

「エルライもあんな風にステージに立ったんですか?」

「はい。私はすごく緊張して、あんな風に笑えてなかったと思います」


 三人とも意外と余裕のある感じで、笑顔で手を振っている。


「カーフもあんな風なお披露目だったんですか?」

「私たちはステージというより、建物のバルコニーのような場所でした。意外と高さがあって、たくさんの人を下に見ながら手を振った記憶があります」

「やっぱり大都市は豪華ですね」

「いえ、ただ単にステージを組める広さが足りなかったんだと思いますよ。みんなに披露するには高さも必要ですしね」


 カーフが笑ってそう言うと、そんなものなのかと私は納得した。

 無事にお披露目も終わり、新しい子ども達と一緒にステージでの出し物やジョクスの見学をして屋台へ戻ると、すっかり完売御礼の状態だった。


「み、みんな、お疲れさまでした。こ、今年も無事に売り切ったよ」

「数もあと少し用意できたら良かったけど、いい感じだったわね」


 やり切った充実感の中、みんなで片付けをしていると、紺色の髪を後ろにまとめた若者が、青い瞳を落ち着きなく動かしながら声をかけてきた。


「あの……、ちょっといいですか?」

「は、はい。な、なにかな?」


 ミラクが対応をすると


「あの、俺はベイドっていいます。あの、あんこ餅の大ファンで、すごく好きです……」

「あ、ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ」


ミラクが笑顔で答えると、ベイドは首を振った。


「でも、誕生の祝祭や雨乞いの祭り以外では出さないのが、もったいないというか……」


 少し下を向いて沈黙したあと、グッと意を決したように顔を上げた。


「もしっ! もしも作る権利を売ってもらえるなら……、俺が作って、バジの町で販売したい、と思ったり、したり、していて……」


 そうミラクに詰め寄った。ミラクは理解したようにうんうんと頷いた。


「う、うん。そっか。ベ、ベイドはもっと気軽にみんなに食べてもらいたいんだね」

「そうなんです!」


 拙い言葉でも言いたいことが伝わり、嬉しそうに顔を赤くして笑った。


「エ、エルライはどうしたいかな?」


 ミラクに話をふられて、様子を見ていた私は少し考えた。ミラクは権利は私にあると言うが、正直言って、あんこ餅は誕生の家のみんなで作ったものだと思っている。そして今のところ、この収入も誕生の家の運営費として使われているのを知っているので、簡単に人に譲って良いものなのか判断しづらい。そもそもこの世界で権利を売る場合、どれくらいの金額なのかもよくわからないし、家のみんなと権利について話をしたい。


「少し考えたいので、時間をもらえませんか?」


 私の答えに、がっかりした様子でベイドは小さく頷いた。


「ま、まだ譲らないと決めた訳ではないし、す、少し待っててね」


 そうミラクがフォローして、連絡のための家の場所を聞いて見送った。今は後片付けやらで忙しいので、祝祭も終わって落ち着いた頃にでもミラクやシェアトと話そうと思った。


 屋台の片付けが終わると、ミラクがウキウキと食材の買い出しにいき、私たちはそれぞれ自分たちの見た大道芸や工芸品などで珍しいものを話して、その中から特に気になるものを少しだけ見てまわり、今年の祝祭も無事に終わった。

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