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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第2章 広がる世界
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第32話 新たな子ども達

 日が傾いてくると、みんなそれぞれ席を離れて途中になっていた農作業の片付けや、夕食の準備などをはじめた。アクベンス達もどうせ暇だからと、水汲みなどを手伝ってくれた。


 そしてアクベンスとハマルを囲んだ、賑やかな夕食を終えると


「つ、ついに屋台で出す新作が出来たんだ」


そう言って、ミラクはあんこ餅を乗せた皿をテーブルの真ん中に置いた。あれから何度も試作を重ね仕上げた、パイナップル入りのあんこ餅だ。私は入れ直したお茶をみんなに配る。


「こ、今回もエルライからアイデアを貰ってね、な、なかなか斬新なお菓子だと思うよ」


 みんな少し不恰好なあんこ餅をつまんで口に運ぶと、まさか中に生の果物が入っていると想像していなかったようで、驚きながらも口々に美味しいと言ってくれた。


「こんなにも美味しいものを作れるなんて、エルライは料理の才能があるんじゃないの? やっぱりこの先はミラクみたいに料理人になるの?」


 アルドラがキラキラと期待に満ちた目で見てくるのを、少し後退りながら否定した。


「進路については、もう少し考えたいんだ。それにこれを作ったのはミラクで、私はアイデアを出しただけだから……」

「でもこんなにも次々と美味しいものが思いつくなんて、絶対に料理人にむいていると思うけどなー」


 アクベンスは普通のあんこ餅と、パイナップル入りの両方を食べて、どちらにも満足した様子で頷き、アルドラに同感だなと、料理人を勧めてきた。

 しかし私は本当にその気がないので困っていると


「エ、エルライにも色々と考えがあるだろうから、し、進路については温かく見守ってね」


ミラクが横からふたりの圧を遮ってくれて、私はふーっと気持ちを落ち着けて、ミラクにお礼を言った。


「こんなにも美味しいお菓子の後だと、霞んじゃうけど、ボクからもお土産があるんだ」


 そう言ってアクベンスは客室から袋をふたつ持ってきた。ひとつ目の袋には青リンゴのような見た目の果物が入っており、それを見てシェアトが目を細めた。


「懐かしいわ。昔よく食べていた果物だわ」


 アクベンスから袋を受け取り、シェアトは懐かしそうにその果物を見つめた。


「やっぱりこれで合ってたんだ。良かったー。以前シェアトから話を聞いて、もしかしたらと思って買ってみたんだ」

「そう、これよ。昔、暮らしていたところは甘味が少ない土地でね、甘味というには甘さ控えめな果物なのだけど、私はこれが特に好きだったの」


 ミラクはその果物をひとつ受け取り、しばらく匂いを嗅いだり、手触りを確認していた。そして


「じ、じゃあ切り分けてくるよ」


そう立ち上がると、シェアトは袋に入った果物を数個取り出した。


「これくらいをそのままで食べて、あとは砂糖で煮詰めたいわ」

「わ、わかった。ジャムにするんだね」

「それだと小麦粉でもいいけど、やっぱり蕎麦粉も欲しくなるわね」

「そう言うと思って、ほら」


 アクベンスがニヤリと笑ってもう一つの袋を開けて見せると、中には蕎麦の実が入っていた。シェアトは驚いた表情でアクベンスを見て、そして噛み締めるようにお礼を言った。


「ありがとう……。とても嬉しいわ」


 少し照れたように、アクベンスはどういたしましてとその袋をシェアトに渡した。


「明日、この果物でジャムを作って、蕎麦粉のクレープを食べましょう」


 そう言うと、シェアトは大事そうに蕎麦の実の袋を厨房へ運んで行った。

 翌日、蕎麦粉のクレープをみんなで楽しむと、アクベンスとハマルは北へと旅立っていった。



 *



 一月一日になり、今日の午後に新たな子ども達がやってくるとルクバトから告げられた。

 私たちは孵化の森に入ることはできないので、普段と同じように生活をしている。自分たちが孵化する前にどんな状態でいたのか、ものすごく気になるけど、この先、誕生の家で働くようになれば、いつか見ることができるだろうしと、畑で草取りをしていた。


 もう少ししたらあいさつをするから、体を洗ってきなさいとシェアトが呼びに来てくれて、私たちは昨年のナシラのように、少し緊張して新たな子ども達の前であいさつをした。


「はじめまして。私はエルライです。一昨年こちらで生まれて、今はここで生活しています。これからよろしくお願いします」


 新たに生まれた子は三人で、私よりも二十センチ位小さくて、どの子も可愛らしかった。


 淡いピンクの髪に赤い瞳の子はニハルで、不安なのか、隣に座っているルクバトの手を握っている。金髪に濃い青色の瞳の子はシマーク。私たちの様子をじっと見ている。黒髪に緑色の瞳のはイザルはニコニコと笑ってみんなを見ている。

 これからこの子達と一緒に生活していくんだなと思うと、自分は先輩として、しっかりしなければと気合が入った。同じことを思ったのか、アルドラも張り切って話しかけていた。



「それじゃあ、少し早いけど夕食にしようか」


 ルクバトの言葉に、みんな夕食の支度をはじめる。今回もミラクの特製のお粥が子どもたちに提供され、みんな夢中で食べていた。


 私はこのお粥の味が忘れられなくて、今回ミラクが作るのを見せてもらったが、本当に手間がかかっていて驚いた。以前食べた時は、お腹が空いていたからこんなにも美味しいのかと思ったが、丁寧に作られた一品だと知り、感動したのだった。

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