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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第2章 広がる世界
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第29話 お守り

 収穫祭は昨年と同じような賑わいで、多くの人たちが、ひしめき合うように広場にお店を出している。

 私たちの売り場には、事前に売らないことを触れまわったこともあり、あんこ餅目当てでやってくる人はほとんどいなかった。


 今年も順番に店番することになり、私はお昼前の時間をカーフとふたりで担当することになった。

 私は昨年と同じ衣装に身を包んでいたけど、カーフはせっかくだからと、手持ちの似たような衣装ではなく、しっかりと新調をしていた。


 午前中はそこまでお客さんが来ないので、カーフもまわりのお店をのんびりと眺め、時折来るお客さんとは世間話を交え、ゆったりと相手をしている。

 ちょうどふたりきりだし、お客さんを見送ったタイミングで、私はここ最近の悩みをカーフに相談してみた。


「そういえば、来月ナシラがアンバの工房に弟子入りするんですが、何か贈り物をしたいと思っているんです」

「それはいいですね」

「ただ、何を贈ればいいのか分からなくて……。カーフだったら、何をもらったら嬉しいですか?」


 カーフはうーんと上を向いて考えた。


「きっと何をもらっても嬉しいと思いますよ。だって、自分のことを思って贈られるものですから」

「そう、ですよね……」


 私が難しそうな顔をしているのを見て、カーフはそれならと案を出してくれた。


「伝承をもとに手作りするお守りがあるんですが、それを作って贈るのはどうですか?」

「それはどういうものなんですか?」

「離れているもの同士がまた出会える、またはお互い離れていても気持ちは離れない、という願いを込めたお守りなんですが、川の両岸で似たような石を探して、それを孵化の森にある植物でひとつにまとめて縛るというものです。バジには川もあるので丁度良いのではないかと思うのですが」


 どうでしょうと首を傾げるカーフの素敵な案に、私は今すぐにでも河原へ行きたくなった。



 収穫祭が終わってカーフが教えてくれたお守りのことをアルドラとクラズに話すと、クラズがそれならいい場所があると、農作業が終わってから連れていってくれた。

 森の脇にある小道から河原に降りて川沿いを歩いていくと、一ヶ所に色とりどりの石が集まっている場所があった。


「ここ。僕が釣りしているときに拾った、きれいな石を集めている場所」


 アルドラがしゃがみ込んで、たくさんある色とりどりの石を見る。


「どれもきれいな石ね」

「あまり大きな石だと持ち歩けないので、小さめの石がいいと思います」


 カーフも座り込んで、これくらいかなと一センチ位の大きさの石を手のひらに乗せて見せた。


「それなら、これとか、これとかどう……?」


 クラズが拾い上げたのは、つるりとした色鮮やかな、河原の他の石より目を引く綺麗な石ばかりだ。


「これってクラズの宝物なんじゃないの?」


 私が心配して聞くと


「なんとなく拾ってるだけだから、使ってもらえるならその方がいい」


微かに口角をあげて、他にもこれとかがいいのかなと拾い上げていく。その中にガラスのような赤色の石があった。


「これナシラの髪の色みたいできれい」

「うん。これはあの辺りにあった。他の石と違って透き通ってきれいだけど、あんまり落ちてない」

「でも、これがいいわ」


 アルドラはクラズから受け取り、ルビーのようなその石を空に透かして見てから、立ち上がった。


「対岸にも同じ石があるか探しましょ」


 私たちも異論はないので、一緒に立ち上がってまずは対岸に行くために、一番近い橋まで歩いて行った。

 その日は結局見つけられず、それから私は毎日探しに出かけて、アルドラ達もタイミングがあえば一緒に探しに出かけた。


 そして一週間以上たったある日、ずっと水辺を探していたアルドラがパッとしゃがみ込むと、嬉しそうに見つけたわと走ってきた。


 やっと揃った石をひとつにまとめるために、良さそうな植物がないかルクバトに相談した。すると、きっとこの植物がいいよと、孵化の森に入れない私たちの代わりに、背の高い植物を取ってきてくれた。

 ちなみに孵化の森は管理が厳しく、誕生の家で働いている人しか入ることができない。


 そして、取ってきてもらった植物を水につけて繊維を取り出し、乾燥させて柔らかくほぐしたものをよって紐にした。

 早速できた紐で石をまとめようと巻いてみるのだけど、全然思うようにできない。アルドラ達と試行錯誤していると、そこにカーフが通りかかった。カーフにお願いをしてみたが、カーフも私たちと同様にうまくまとめられずにあれこれと試しているところに、今度はルクバトが現れた。

 私たちに懇願されたルクバトは、器用に紐を編み上げ、袋状にした中に石をふたつ入れて、袋の口部分を紐で巻いて首から下げられるようにネックレス状に仕上げてくれた。お店で売っているアクセサリーのような出来に、アルドラは拍手をして喜んだ。


「ルクバトは本当に器用ですね……」


 カーフは自分の不器用さにがっかりしながら、お守りの出来栄えに感心する。


「慣れだと思うよ」


 慰めながら、ルクバトはアルドラにお守りを渡した。



 十一月の初日から働きたいと言って、ナシラの出発はその二日前の朝になった。十一月に恒例の行商があるので、その時でも良いのにとルクバト達は言ったけど、ナシラはひとりでアンバまで行けるようにしたいと決意が固かった。出発の日は朝早く起きてみんなでナシラを見送った。


「これ、カーフに教えてもらって、みんなで作ったお守りなんだ。アンバでもがんばってね」


 私から渡したほうがナシラも喜ぶとみんなに言われ、私は寂しさをぐっと隠しながら笑顔でお守りを差し出した。

 ナシラは少し驚いて私を見ると、顔をくしゃっと歪めて、それから小さく嬉しいよと呟いてから涙目で笑った。

 昨日までに散々話したから、もう何も言うことはないのだけど、それでもやはり名残惜しくて、お互いにしばらく沈黙したあと、ナシラは少し潤んだ瞳で


「ありがとう、エルライ」


そうお守りを丁寧に私から受け取り、それをギュッと握りしめると、みんなのほうを向いて笑顔でお礼を言った。

 そして荷物を背負い直して、お守りを首から下げると、家のみんなと握手をして出発していった。

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