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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第2章 広がる世界
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第28話 ミラクの特技

 今日の裁縫の授業は、昨年課題として出されていた手拭き用の布を使うものだった。

 私の布は最初のうちはガタガタの織り目で、慣れていくうちにだんだんときれいな織り目の布になっていてひどく不格好だ。それでも糸から紡いで仕上げたので、かなり愛着が湧いている。


 ルクバトはその布に自分の名前を刺繍して完成だと、今度は刺繍のやり方を教えてくれた。

 私は一番シンプルな方法で刺繍をして簡単に終わらせたが、アルドラは誕生の祝祭で見た刺繍を少しでも取り入れたいと、私が刺繍を終えた後も図案をがんばって考えていた。そんな様子のアルドラを見て、ルクバトが少し考えてから立ち上がった。


「そういえば、ミラクがそういうの得意かもしれないな……」


 そう呟くと、厨房へ消えていった。そしてしばらく話し声が聞こえた後、ふたりで戻ってきた。


「ア、アルドラはどんな刺繍がしたいの?」

「この前の誕生の祝祭に出てた刺繍が本当はいいんだけど、あんなのは今は無理だって分かっているから、少しでもそれに近い刺繍がしたくて……」


 そう言って、以前見た刺繍の説明を始めた。

 エルライも見たでしょと呼ばれて、一緒に覚えていることをそれぞれの石盤に描き込んでいく。しばらく石盤を見て、話を聞いていたミラクはアルドラのほうを見て座り直した。


「そ、それはかなりの腕前の人の作品だね……。アルドラは、ど、どのあたりが特に好きだったの?」

「そうね……。写実的な花の部分かしら。特にこうなっていた部分の……」


 石盤に描きこんで説明をする。


「な、なるほど……。じ、じゃあこれをこんな風に並べて、ここに少し葉っぱを足して、そ、それでここに名前を刺繍するのはどう?」


 シンプルだけど可愛らしいデザインになって、アルドラは嬉しそうに頷いた。


「うん! わたし、これにするわ!」

「じ、じゃあ縫い方を教えるね。い、いくつかコツがあってね……」


 そう言って、ミラクはつきっきりでアルドラにやり方を教え始めた。


「ミラクにこんな特技があったなんて……」


 私が驚いていると、ルクバトがニカっと笑った。


「料理だけじゃなくて、実は全般的に器用なんだよミラクは。しかも育ったところが繊維が盛んな地域だったから、裁縫の技術は一通り教えてもらったことがあるって言ってたよ」

「そうなんですね。知らなかった……」


 でもミラクのさりげない着こなしがいつもかっこいいと思っていたが、そういう背景があったのなら納得できた。



 *



 稲の収穫が終わり、手伝ってくれた人たちにお米を持っていく日になった。荷車で昨年と同じように近くに住んでいる人のところから配っていく。農作業をしている近所の人に声をかけると、今年もまた家の前に置いて欲しいと言われた。了解して荷車を動かそうとすると、ところでと私たちを引き留め


「今度の収穫祭ではあのお菓子、売るの?」


そう期待に満ちた目で聞いてきた。私はそういえばどうするんだろうと思っていると、ルクバトがすぐに


「いや、収穫祭では売る予定はないんだ」


そうキッパリと返事をした。そっか、それは残念だなと言ってその人は畑へ戻っていった。その後もかなりの確率で聞かれるので、どの人にも売らないことを伝えると、がっかりされた。


「楽しみにしている人も多そうだし、たくさん売れそうなのに、どうして売らないんですか?」


 カーフが不思議そうに聞くと、ルクバトが肩をすくめて首を振った。


「収穫祭はお店の数も人の数も多くて密集しているから、さすがにそこで行列を作ると危ないし、まわりのお店にも迷惑をかけるだろうということで、実行委員の人とも話して売らないことにしたんだ」

「そ、そんなに人気のお菓子だったんですね……」


 ミラクが時々気まぐれでお茶請けに作っていたので、まさかそんな行列が出来るものだと知らなかったようだ。


「いや、確かに食べたことがない美味しいお菓子だなとは思っていたんですが……。ただ町のお店では売っているのを見たことがないし少し不思議だったんですよね」

「もし次の誕生の祝祭で屋台のリクエスト枠に入ることがあれば、その時にまた出品しようと言うことでみんなとも話してるんだ」

「それは確実にリクエスト枠に入りますね……」


 カーフは笑いながら確信をしていた。

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