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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第2章 広がる世界
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第27話 カーフの授業

 稲作は二年目ということもあり、私たちの手際は昨年に比べてずいぶんとよくなった。せっせと種まきをしていると、先日、誕生の家の一員になったカーフが、ルクバトにあれこれ質問して作業しているのが見えた。


 そして大雨が降ると、今年も色々な授業が開かれた。そこにカーフの旅の話を聞く時間も入り、私たちはその時間を心待ちにしていた。


「前回のつづきで、今回は私の育った乾燥した大都市の街並みの話をしましょうか」


 前回はカーフの育った誕生の家や、そこでの暮らし方をいろいろ聞いた。孵化の森の大きさも、誕生の家にいる人数も、バジと異なる点がたくさんあり面白かったので、大都市の街並みはもっと違うのだろうと、わくわくしてカーフのほうに体を向ける。


「乾燥した大都市は、正式にはプアナムという名前ですが、別名を芸術の都と言います。その名の通り、多くの芸術家が集まっていて、大通りだけでなく、小道に入っても手の込んだ建物がたくさん建っています。最も有名な建物は、『集会場』とは名ばかりの、屋根がドーム状の巨大な建築物で、天井も床も壁も柱も、手の込んだ装飾がされています」

「どれくらいの大きさなんですか?」


 ナシラが巨大な建物を想像できないようで、首を捻りながら質問した。


「そうですね……。バジの町の広場がスッポリ入る建物、と言うとわかりやすいでしょうか?」

「そんなに大きな建物、重さで潰れたりしないんですか?」

「建築家が計算して設計をしているので、潰れたりはしないんだそうです。百年以上前の建物ですが、崩落など一度もなくその姿をとどめています」

「そんなにも大きな建物で何をするの?」


 アルドラが不思議そうに尋ねた。


「建築当初は、その名の通り集会場として使われていたようですが、月日が経つにつれ、人々が自分の作品を思い思いに展示しはじめたんです。なんせ芸術家の多い土地なので……」

「そんな、みんなが好き勝手に置いたら、大変なことになるんじゃないですか?」


 頭の中で、ところせましと作品が置かれた建物内部を想像して心配になった。


「そうなんです。一時はごちゃごちゃに作品が置かれた場内になってしまい、歩きづらく、人がすれ違うのも一苦労する、かなり混沌とした状態になったそうです。そこで一人ひとつまで展示可能で、年に一回入れ替えるというルールができたんです。ただ、これも人が増えるにつれてまた作品が雑然と置かれるようになり、今では一人ひとつの作品を年に一回、三ヶ月間だけ展示できるというルールに変更されたそうです」


 それでも作品数が多くて大変ですけどね、と笑った。


「そんな経緯で集会場がなくなってしまったので、今度はちゃんと集まって話ができる建物を、と新たな集会場が作られたそうなんです」

「それはちゃんと今も集会場なの?」

「それが……、今度は複数人が座って話ができる部屋がいくつもあるような建物だったため、学校として使われるようになってしまったんです」

「前に数学の学校があるってシェアトが言ってたけど、それなのかしら?」

「数学の学校……? 恐らくですが、それは北の大都市の話だと思います」


 そうカーフがアルドラの疑問に答えると、ナシラが「じゃあ、その学校では何が学べるんですか?」と質問した。


「芸術です。彫刻や絵画などの理論を学んだり、時には同じモチーフをみんなでスケッチして評価し合ったりします」

「本当に芸術の都なんですね」


 感心して私は頷き、そういえばと思い出した。

 クラズは時々石盤と石筆を外に持ち出して、草むらにいるバッタや蝶などをスケッチしているのだが、それがものすごく細かく素晴らしいのだ。


「クラズがスケッチする昆虫も、すごく上手だよね」


 突然話を振ったので、クラズは少し驚いたように私を見た。それから、「そうかな」と、はにかみながら答えた。


「スケッチが好きなら、その学校に行くのもいいんじゃない?」


 アルドラがポンッと手を叩くと、クラズはそれは違うと首を振る。


「上手になりたい訳じゃないんだ。正確に描きたいだけだから」

「クラズは魚釣りが好きなのだと思っていたのですが、昆虫も好きなんですね。絵が描けるというのは、それだけで強みになります。この先何か研究をする時にも役に立つので、続けると良いですよ」


 カーフの言葉に頬を赤らめて嬉しそうに頷いた。


「結局、集会場はどうなったんですか?」


 素朴な疑問をナシラがすると


「いくら建物を建てても他の用途で使われてしまうので、広場で集まって集会をする、ということで落ち着いたようです。その頃には色々な建物がいくつも建てられていたので、結局広場が都市の中央にあって、たくさん人が集まれるということもあり、私がいた頃も集会を行うときは、広場に集まっていました」

「みんな、新しい建物ができると、ついつい使いたくなってしまうんですね」


少しおかしくて笑うと、つられたようにカーフも笑った。


「実は、そうやって他の建物も用途とは異なる使い方をされているところが多いんです。外観で判断して建物に入ると、思っていたお店と異なるなんてことも普通にあるので、初めて訪れた人は迷子になる確率が高いです」

「なかなか見応えのある都市ですね」

「もし訪れる機会があれば、ぜひ色んな建物に入ってみてください」



 そして、バジには無いお店や職業などを教えてもらい、その日の授業は終わった。

 カーフの話はどれも私たちの知らないことばかりで、この世界が少しづつだけどわかって、とても楽しかった。

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