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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第2章 広がる世界
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第26話 再会

 四月になり雨乞いの祭りの日がやってきた。

 今年のお供えも魚になるのかなと呑気に構えていたら、あんこ餅を是非と熱い要望が多数あり、断りきれずにあんこ餅を早朝から作ることになった。


「さ、さすがに前回の量は準備できないよ」

「じゃあ小さくして数を増やすのはどうかしら?」

「そ、それなら多くの人に、い、行き渡りそうだね」

「じゃあ今回は私達があんを包むのはどうですか?」


 私が自分の小さな手のひらをシェアト達に見せた。


「確かに小さな手のほうが良さそうね。じゃあみんなにお願いしても良い?」


 シェアトが私たちのほうを向いて尋ねると


「まかせて!」


アルドラがパッと顔を輝かせて了解した。クラズもたくさん作ると頷いて、私たち子どもの小さな手が大活躍した。



 午後になり、みんなで空き地へ向かうと、すでに多くの人が集まってきていた。井桁型に木が組まれていて、お供えを準備していたので、私たちもそこにあんこ餅を詰めた木箱を並べた。


「あれがあんこ餅……?」

「前のより小さいけど、きっとそうだよ」

「やった!」

「以前は食べられなかったから、すごく楽しみだわ」


 少し離れたところから期待する声がいくつも聞こえる。中にはソワソワと見にくる人もちらほらいて、ミラクと顔を見合わせて笑った。


「す、すっかり人気のお菓子になったね」

「はい。たくさん用意して良かったですね」


 そして前回同様に儀式が始まったところで、見学者の中に先月アンバの町で会ったカーフを見つけた。本当に来てくれたんだと思って、気がつくかなと手を振ると、カーフも気付いたようで、笑顔で手を振り返してくれた。

 儀式が終わってお供えが調理され、みんなに振る舞われるタイミングで急いであんこ餅を一つ取って、カーフのところへ持っていった。


「来てくれたんですね」

「実は来たばかりなんです。あそこを歩いていたら人だかりが見えて、何をやっているんだろうと思って来てみたら、みなさんがいてビックリしました」

「今日は雨乞いのお祭りなんです。これ、誕生の家で作ったお菓子です。良かったらどうぞ」

「いいんですか?ありがとう」


 葉っぱに乗せたあんこ餅を渡すと、カーフはパクリと一口で食べて、モグモグしながら


「これはなんてお菓子ですか? 初めて食べるけど、とても美味しいですね」


そう言って、目を少し見開いて私を見た。


「あんこ餅っていいます。お口にあったみたいで良かったです」

「各地でお菓子も色々食べてきたつもりだけど、まだまだ知らないものがいっぱいありますね」


 カーフは神妙な顔で頷いていると、シェアトとナシラもこちらに気がついてやってきた。


「こんにちは、カーフ」

「来てくれたんですね」

「先日はありがとうございました。まだ到着したばかりなので、どこかで宿でも取ってしばらく滞在しようかと思ってます」

「それなら誕生の家に泊まったら? 客室も空いているし、これまでの旅の話を聞かせてくれるとこの子達も喜ぶわ」


 それはぜひ聞きたいと、私とナシラもコクコク頷いてシェアトの提案に賛成していると


「じゃあしばらくお世話になります」


カーフはこちらに微笑んでから、シェアトにそう告げた。


「カーフじゃないか」


 ルクバトがアルドラとクラズ、ミラクと一緒にやってきた。それぞれ紹介し合うと


「カーフは今日からしばらくの間、誕生の家に宿泊してもらうから、みんなよろしくね」

「じゃあ、わたしが誕生の家まで案内するわ」


シェアトの言葉に、アルドラが早速カーフの手を握って楽しそうに軽く揺らした。



 お互いに水をかけ合って雨乞いの祭りが終わり、家に戻ると、ついでだからとルクバトたちとずぶ濡れのまま、昨日途中までやった農作業の続きを終わらせた。体を洗っていると、アルドラたちに連れられて家の周辺の紹介をされているカーフに会った。


「作業は終わりました?」

「はい。本当にあと少しだったので」

「お疲れ様でした」

「あとで食堂で旅の話を聞かせてもらえることになったから、身支度できたら来てね」


 アルドラはカーフの手を引きながら、楽しそうに私たちにそう知らせた。そんなふたりをクラズは意気揚々と今度は果樹園へ行こうと先導していく。

 きっとこの前話していた、蟻の巣を見せたいんだろうなぁと見送っていると


「世界中を旅してたって言ってたから、どんな話が聞けるか楽しみだよね」


そうナシラは、桶を使って自分の体に水をかけながら同意を求めた。


「うん。まだバジとアンバしか知らないから楽しみ」

「それは僕も同じだよ」

「俺も海は越えたことがないから、海の向こうの話も聞いてみたいなぁ」


 海かぁ。海水浴で数回行ったことはあるけど、きっと雰囲気違うんだろうなぁと想像してみて、早く食堂に行こうと髪をガシガシ洗った。

 さっぱりして食堂に行くと、カーフとシェアトは座って話していて、アルドラ達は夕食の準備をしていた。厨房からミラクがお盆にお椀を乗せて現れると


「き、今日は祭りでそこそこ食べたから、ゆ、夕食は野菜スープに麺を入れただけのものにしたよ。こ、これで足りなければおにぎりでも作るよ」


そう言いながら配膳していった。


「おにぎり?」


 カーフが不思議そうにミラクを見ると


「そ、そう言うと思って、カ、カーフには最初からおにぎりを用意したよ」


エルライが考えた料理なんだ、とカーフの前におにぎりの乗った皿が置かれた。


 食事が始まると、最初はカーフから雨乞いの祭りについての質問をいくつかされて、みんなで答え、その後にみんながそれぞれ気になる質問をカーフにしていった。



 カーフは翌日から、何故か私たちと同じように朝から掃除をしたり農作業をして過ごし、そうして数日一緒に生活すると、あっさりとここで働くことに決めましたと宣言してみんなを驚かせた。

 そうして誕生の家の仲間がひとり増えた。

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