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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第2章 広がる世界
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第25話 出会い

「すみません! 大丈夫ですか⁉︎」


 ナシラとふたりで、急いでその人の元へ走っていくと、アイタタ……と言いながら、その人は起き上がった。よく見るとお店で買ったであろうスープを持って歩いていたようで、お椀がひっくり返って、あたりが濡れている。


「本当にすみません……! 大丈夫ですか?」

「えっ……? 何が、起きたんですか……?」

「私が蹴ったボールが、あなたの頭に当たってしまったんです」

「えっ? ……ああ、そう言うことですか」


 近くに落ちているボールを見て合点がいったようで


「大丈夫です。ちょっとびっくりしただけですから」


そう言ってその人はスクっと立ち上がると、衣服についた土を払い「それでは」と去ろうとした。


「そんな……! ちょっと待ってください!」


 せめてスープだけでも弁償しようと、ふたりでワタワタしていると、後ろから声がした。


「どうしたの? ふたりとも」

「あ、シェアト」

「実は……」


 ふたりで焦りながら早口で経緯を話すと、シェアトはその人に向き合った。


「申し訳ございませんでした。ふたりもお詫びがしたいと言っているので、ご迷惑でなければ、このあと夕食をご馳走させてもらえないかしら?」


 そう提案すると、私たちのすがるような目を受けて、その人は逡巡したあと


「わかりました。じゃあご馳走になります」


でも本当に気にしていないですからと、私たちに向かって微笑んだ。そして荷物を宿に置いてくるからと、待ち合わせ場所を決めて合流することになった。



 夕食は以前も来たことのある、海産物を売りにしている食堂で、スハイル達三人は先に別のテーブルで楽しそうに食事をしていた。私たちも席に着くと、それぞれ注文をしてからお互いの自己紹介をした。


「わたしはカーフといいます。今は旅人をやっていて、この町には昨日から滞在しているんです」


 カーフは空色の髪で、耳の辺りの髪には紐が編み込まれており、大きな橙色の瞳はお人好しそうな雰囲気を醸し出している。この辺りでは見ない格好だと思ったのは、旅人だからかと納得した。

 料理がそろい、食べはじめるとルクバトは旅人という言葉に食いついて聞いた。


「どんな旅をしているんですか?」

「実は……、定住先を探しているんです……」

「せっかくの旅を終わらせるんですか?」

「終わらせると言うか、もともとこの旅自体が偶然始まったものなので……」

「偶然……?」


 カーフは、海藻スープを一口飲んでから話しはじめた。


「わたしはもともと乾燥した大都市に住んでいたんです。そこで特定の仕事ではなく、色々な工房の手伝いをして過ごしていました。そして成人したある日、いつものように荷運びの依頼をされたんです。いつも都市の中の配達を頼む人だったので、軽い気持ちで引き受けたら、それが山霧の大都市に住む人宛の荷物だったと後で知ったんです」

「山霧の大都市?」

「あ、まだ生まれたばかりの子ですね。説明不足ですみません。山霧の大都市は四大都市のひとつで、乾燥した大都市から半年以上かかる場所にある大都市なんです」


 私のほうを向き、丁寧に疑問に答えてから、話を続けた。


「そして引き受けてしまった以上は配達するしかないと思い、急いで準備をして出発したんです」

「え……? 断らなかったんですか?」


 ナシラが驚いていると


「ほら、一度引き受けてしまったから。引き受けた時にすごく喜ばれたし、それを断るのも申し訳ないと思って」


そうカーフは少し困ったような顔をした。


 そんな依頼を軽く引き受けてくれる人なんて、いないだろうから、それは喜ぶだろうなぁと話の続きに耳を傾けた。


「それで半年以上かけて山霧の大都市まで配達をしたんです。そしたら、その配達先の人から、とある荷物を緑土の大都市まで配達してくれないかと頼まれてしまって…」

「えっ? 緑土の大都市? 四大都市の?」


 ルクバトがギョッと驚いた。カーフは神妙に頷いてからさらに続けた。


「そうなんです。その緑土の大都市です。さすがにこれは断ろうと思ったのですが、もう何ヶ月も断られていて、これを頼んだ人が取りに来ようか悩んでいると聞いて…」

「山霧の大都市と緑土の大都市を往復するってこと……?」


 その距離がわかるのか、シェアトは唸った。


「それを聞いて、さすがにそれは気の毒だなと思って……。わたしは乾燥した大都市に戻ったところで何があるわけでもなかったので、結局引き受けてしまったんです」


 まさか、それの繰り返しで旅を続けていたのかと話を聞いていると、どうやらそのまさかだった。この二件の依頼を受けたため、遠距離の配達人として認識されてしまったようで、そこから三年近く転々と各地を配達をするために旅をしていたらしい。


「そうして先日、イシュイルへの配達を終わらせて、次に依頼をされる前に急いでそこを離れて、昨日アンバに入ったところなんです」


 イシュイルというのは、バジから十日ほど北へ行ったところにある、海に面した都市だと聞いたことがある。


「乾燥した大都市には戻らないんですか?」


 ナシラが単純な疑問を口にした。


「特に戻りたいという気持ちは無いんです。あちこちを旅していて分かったんですが、わたしはどうやら暖かい、のどかな地域が好みだったようなんです。この辺りは特に肌に合う気がして、定住先を探してウロウロしているんです」


 これは旅をしたから分かったので、旅自体はして良かったと思ってるんですよ、と笑った。


「そうだったのね。それは大変な旅だったわね」


 シェアトはそう共感してから、ひとつ提案をした。


「私たちはバジの町の誕生の家で暮らしているのだけど、定住先の候補の一つとして考えてみてはどうかしら? アンバより農業が盛んでのどかな町よ」

「え? みなさんアンバの人じゃなかったんですか」


 目をパチパチさせて私たちを見た。そして


「のどかな町、良いですね。バジはまだ行ったことがないから、今度寄ってみますね」


そうカーフは柔らかく微笑んで、いつか訪れることを約束した。


 その後は私たちがやっていたジョクスについて聞かれて、ルールから始まり、やり始めたきっかけの話や、今年の挑戦の話などをして盛り上がった。

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