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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第2章 広がる世界
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第23話 誕生の祝祭3

 ステージから音楽隊の演奏が聞こえてきた。


 ステージを見ようと人が集まってきて、いつもの淡い緑色の髪の人が司会進行をするためにステージに上がっていくのが見えた。


 ステージでの演奏が始まると、ジョクスの参加者が広場の片隅に集まりはじめる。私たちも屋台の店番を代わり、受付をして参加者が集まっている場所に移動した。そこには既に十人近く集まっていたが、前回優勝した人が見当たらない。


「昨年優勝した人がいないね」

「今年は不参加なのかなぁ」


 ナシラと話しながら空いている椅子に座ると、すぐ近くに座っていた前回の準優勝者が、ニコッと笑いかけた。


「こんにちは。ふたりも参加するの?」

「はい。昨年見てからふたりで練習しました」

「ああ、あれは凄かったもんね」

「あなたは準優勝してましたよね」


 よく覚えてるねと笑いながら「実はね……」と、昨年の話をしてくれた。


「昨年はあの競技者が参加していたから、例年よりずっと盛り上がったんだよ。あんなに上手な人はわたしも初めて見たから、終わってから話しかけたんだ。そしたらあの人は各地を旅している競技者だったんだよ。バジではジョクスって名前だけど、他にも似たような競技が各地にちがう名前であるらしくて、それらの大会に飛び込みで参加してるって言っていたよ」

「じゃあ今年は別の土地で参加してるんですね」

「きっとね。またどこかで優勝してるんじゃないかな」


 その人は微笑んだ。


「今思うと、あんなに凄い競技者と同じ舞台で戦えたのは誇りだよ」


 そう言って少し遠い目をした後、私のほうを見た。


「しかし、こんなに小さい子が参加するのも珍しいよ。確か昨年誕生した子だよね?」

「は……、はい」

「僕の練習に付き合ってくれて、一年間練習したらかなり上手になったんです。それでせっかくだし、一緒に出ようって誘ったんです」

「あ、でも私も出たかったんです。ナシラと一緒に」

「そうか、ふたりは仲良しだな」


 そうして話していると競技が始まるので移動してくださいと声をかけられ、会場になる場所に向かった。今回の参加者は十四人で、事前にくじで決めた順番で輪になるように広がる。私は五番、ナシラは九番だ。


「じゃあがんばろうね」


 ナシラが手を軽く上げて私から離れて、それぞれの場所についた。


「紫の髪の子! がんばって!」


 どうやら本当に私ほど小さい子どもが参加するのが珍しいらしく、まだ始まってもいないのに、たくさんの声援が聞こえる。

 一番の人にボールが渡されると競技開始だ。

 最初は様子見で足の甲で二回程度蹴り上げてから、次の人へパスをしていく。私もさすがに毎日練習をしていただけあって、なんとか一周目での脱落は免れた。一周目では、見るからにガチガチに緊張していたひとりが脱落していった。私はどうせ最後までは残れないだろうしと気楽な気持ちで参加してたからか、意外とリラックスしていた。

 ただ二周目、三周目と続けるうちに、どんどんと脱落者が出てきた。そして半分の七人が脱落したところで、急に入賞を意識してしまい、緊張してボールを落としてしまった。

 あーあ、とがっかりしてボールを取りに走り、急いで隣の人に手渡すと


「すごく上手だったよ」


とボールを受け取りながら、笑顔で褒めてくれた。


「ありがとうございます。あなたもがんばってください」


 そう言って輪から離れ、脱落した人たちのほうへ走っていくと、その途中でも観客の人たちからよくがんばったねと拍手された。


「その年でここまで残れるなら、もう何年かしたら優勝できるよ」


 脱落した人たちからも拍手で迎えられたあとは、ナシラを含む六人の行く末をみんなで見守った。

 何周かはみな順調にパスしていったが、プレッシャーからかポツリポツリと脱落者がまた出てきた。

 そして残り三人までがんばっていたナシラも少し疲れがみえて、ボールのコントロールが乱れ、五回以内に次の人にパスできず、肩を落として私たちのほうに走ってきた。


「すごかったよ」


 ナシラに声をかけると、やっぱり優勝は遠かったよと悔しそうに残ったふたりを見つめた。


 ふたりの戦いはそれほど長く続かず、昨年の準優勝者は安定していたが、対するもうひとりは集中力が切れてしまったようで、先ほどのナシラのように五回以内にパスが出来ずに終わった。最後に残った昨年の準優勝者は頭から足先、太ももから腕へと器用にボールをあげていき、再び頭でボールを上にあげると、クルッと一回転してボールを手で受け止めて、観客に向かって笑顔で手を振った。

 今年の優勝者に観客は拍手と歓声で栄誉を讃え、競技は終了した。

 脱落者のみんなと優勝者、準優勝者を讃えに向かい、ナシラも参加者のひとりに肩車をされて、今年の三位だと称賛された。


「おめでとうございます」


 今年の優勝者を見上げてそう言うと、屈んで笑顔でありがとうと言って


「君もすごく上手だったよ」


と、頭を優しくポンと撫でられた。


 そうしてしばらくお互いの健闘を讃えていると、見知った顔が視界に入った。そちらを振り返ると家のみんなが拍手していた。


「エルライもナシラもすごいわ!」


 アルドラが上気した頬で手を振っていた。

 ナシラとふたりで参加者にあいさつをして離れると、家のみんなのところに合流した。


「ふたりともがんばったわね」

「す、すごいよ。あ、あんなにも上手だなんて本当に驚いたよ」

「ふたりともすごかった……」


 みんな口ぐちに褒めてくれた。


「みんなありがとう。ところで、屋台は……?」


 ナシラはみんなが揃っていることに不安になって質問すると、ミラクが少しやつれた笑顔で答えた。


「だ、大丈夫。ジ、ジョクスが始まる前に売り切れたんだよ。すごいよね」

「まさか一度買った人が何度も買いに来るなんて思わなかったよ。まあ一見ただのお餅に見えるのに、食べると全然違うお菓子だし、柔らかいお餅と甘いあんがクセになる新しいお菓子だからね」


 ダリムが雄弁にあんこ餅の素晴らしさを語ると


「ダリムも私が取り置きしておいたのとは別に、追加で買ってたじゃない」

「あれは仕方ないよ。近所のみんなにも食べてもらいたいしね」


シェアトの指摘にダリムは首を振っていた。



 それから後片付けをしていると、屋台に貼られた売切れの文字を見て、何人もの人ががっかりして帰っていった。

 こうして誕生の祝祭の屋台は大成功に終わった。


 後日、あのお菓子の店を出さないのか色んなところで聞かれた。シェアトやミラクはエルライのものだからときっぱり断っていたが、私はあんこ餅は誕生の家のものだと思っている。仮に私のものだとしても、そこまで情熱を注ぎたいと思っていなかったので、なんとなくお茶を濁しておいた。


 それから数日はみんな浮ついた感じでなんとなく落ち着かなかったが、サトウキビの収穫や田んぼの土づくり、菜園の手入れなどをしていくうちに、また日常の日々に戻っていった。

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