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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第2章 広がる世界
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第22話 誕生の祝祭2

 今いる路地を見終わり、次に昨年アルドラ達と最初に見た、少し広めの通りに向かった。


「昨年はここの餅つきをずっと見てたから、この先を見てないんだ」

「あ、そうなんだね。だったら、この先はきっと楽しめると思うよ」


 ナシラが楽しそうに私の手を引っ張った。餅つきを見学している人混みを抜けると、そこかしこに人だかりができているのが見えた。


 人だかりをひとつずつ覗いてみると、ジャグリングのような芸で頭に壺を乗せながら複数の玉を器用にお手玉をしている人や、吟遊詩人なのか、小さな琴のような楽器を弾きながら歌っている人、木彫りの小鳥や木製のカトラリーなどを売っている人など様々だった。

 この辺りはステージには立たないけど、みんなに披露する場所なのかと見てまわった。

 キャンパスに描かれた風景画をいくつも並べている人は、売る気がないのか、小さな椅子に座ってせっせと町の様子をスケッチしている。それもまた見事なスケッチで、こんな風に絵が描けたら楽しいだろうなとしばらく見学していた。


「あれアルドラじゃない?」

「え? あ、本当だ」


 こぢんまりと、刺繍された布を広げて飾っているところに、アルドラがしゃがみこんでいた。

 近づいてみても、熱心に見ているようでこちらに気がつかない。その様子に出品している人が気がついて声をかけてくれた。


「もしかして、この子の知り合いかな?」


 その声にアルドラが振り返った。


「え? あれ? エルライにナシラじゃない」

「あまりにも熱心に見てるから、声をかけようか迷ったんだよ」

「だってここの刺繍、どれもすごいのよ。ほら見てよ。一見するとわからないけど、よく見ると色んな糸を使ってこんな細かい模様を作ってるのよ?もう、どの作品もほんとうに素敵で……」

「そんなに褒めてもらえるなんて、がんばって作った甲斐があったよ」


 その人は照れながら笑った。


「でも本当に見事な刺繍ですね」


 圧巻の出来栄えに、刺繍をよく知らない私にもそのすごさがわかった。


「この辺りで一般に見られる刺繍とはかなり雰囲気が違うように感じますが、別の地域のものなんですか?」


 ナシラが覗き込んで尋ねると


「そうなんです! この辺りはもっと北方の地域によくある図案で、こことここはまた別の地域のものを組み合わせて刺繍してみたんです」


複数の地域の図案を組み合わせて縫い込んでいるとわかり、その複雑さが頷けた。


「私は旅をしながら、その地域の流行りの図案や、昔あった図案を収集して、それらを組み合わせて刺繍するのが好きなんです」

「すごいですね……! やっぱり地域によって図案というのは違うんですか?」

「それはもう! 幾何学模様だったり写実的だったり、本当に地域によって様々な図案があって楽しいです」


 目を輝かせて話すその人はとても幸せそうだった。アルドラはその話を聞いて、更に熱心に刺繍を見直していた。



 お昼になる前に、昼食をみんなで食べられるように両手いっぱい買って戻ると、私たちの屋台の前には行列ができていて、声をかけられないくらいバタバタしていた。


「これは先に昼食をとってバトンタッチした方が良さそうだね」


 ナシラがそう言って、屋台の後ろに用意してある簡易のテーブルに向かうと、同じことを考えていたシェアトが既に食事をしていた。


「あら、ナシラとエルライはまだジョクスまで時間があるからゆっくりでいいのに」

「いえ、スハイルとマルケブに今まで代わってもらっていたので、せめてこれからジョクスが始まるまでは交代します」

「そうなのね。わかったわ。じゃあみんなに声をかけて来るわね」


 そう食べ終わるとさっと席を立ち、屋台に向かった。私たちも急いで食べていると、ルクバトがやってきて一緒に食べ始めた。


「俺たちの分も買ってきてくれたんだな。ありがとう」

「あ、こっちのはシェアトからです」

「わかった。あとでお礼を言っておくよ」

「大盛況みたいですね」

「そうなんだよ。噂が噂を呼んでいるみたいで、気がついたら大行列で驚いたよ」

「まさかこんなにお客さんが来るなんて思わなかったです」

「ミラクも言ってたよ。シェアトはあんなに売れるって言ってたけど、まさか本当にこんなことになるなんてって」

「シェアトの甘い物に関する意見は間違いないね」

「しかし、俺はこれから音楽隊に参加するけど大丈夫かな」


 モグモグしながら話していると、以前、祝祭でシェアトにお菓子を買ってきてくれた白髪の人がやってきた。そして私たちの屋台に近づくと、シェアト達に何か話して、しばらくするとスハイルとマルケブがこちらにやってきた。


「やー、すごい人だったね」

「びっくりした……」


 おつかれさまとふたりに声をかけた。


「もしかしてダリムが助っ人に入ってくれたの?」


 ルクバトが期待して聞くと


「そうなんだよ。なんか楽しそうだからって」


スハイルが頷くのと同時にマルケブのお腹が鳴った。


「代わってくれてありがとうございました。これ、もし良かったら食べてください。僕たちはもう食べ終わったので、どうぞ」


 急いで立ちあがった場所を譲ると、じゃあお言葉に甘えてとふたりは座って食事を始めた。

 私たちが屋台に向かうと、入れ替わりでヘロヘロになったミラクも昼食に行った。


「ちゃんとあいさつしてなかったね。私はダリム。シェアトとは茶飲み友達だ。よろしくね」


 白髪のその人は私と目を合わせるために屈み、ニヤッと笑った。もしかしてこの笑顔は私を和ませるためのものなのかもと思うと、やっぱりこの人は良い人なんだと確信した。


「私はエルライです。こちらこそよろしくお願いします」


 少し緊張しつつ笑顔であいさつをすると、ダリムは嬉しそうに美しい紅い目を細めた。涼やかな雰囲気に優しさが加わって更に魅力的になり、なんだかドキドキしてしまった。ギャップすごい……。

 ナシラはすでに知り合いらしく親しげにあいさつをして、シェアトが分担したそれぞれの持ち場へ分かれた。

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