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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第2章 広がる世界
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第20話 再現

 何か言い訳しなきゃと必死で考えを巡らせていると


「も、もしかしてだけど、ゆ、夢の中で食べたんじゃない? 話には聞いていたけど、じ、実際に会ったのは初めてだよ」


そうミラクから思わぬことを言われた。


「えっ……?」

「い、以前、旅の途中で口の中がシュワシュワする果実水を飲んだことがあるんだけど……」


 炭酸飲料のことだろうかと思いつつ、なぜそんな話になるのか気になり、続きを聞いた。


「は、初めてそんな飲み物に出会ったからビックリして聞いたんだ。そ、そしたら、百年以上前に発明されたものらしく、ど、どうやら夢の中で飲んでいた飲み物を再現したと言われてるらしいんだ。そ、そういう逸話は旅をしていると、いくつかあってね、エ、エルライの発想もそれじゃないかと思って……」


 ミラクの話を聞いて、私は衝撃を受けた。


 ──私と同じように前世の記憶を持っている人が他にもいる?


 もしかしたら断片的な夢を見ているだけなのかもしれないけど、過去の体験の再現を試みようとする人がいるのだと分かって、急に不安になってきた。


 ──もし前世の記憶を持った人が、この平和な世界を乱すようなことを始めたりしたら……?


 地球のことを思い浮かべ、心がざわつくのを抑えるように、私は胸の辺りを握りしめた。

 その様子に気がついていないミラクは


「おにぎりもだけど、そ、その発想力はすごいよ。こ、ここはやっぱり、料理人になった方がいいんじゃないかな」


すごい才能だよと褒めて、夢の中でアイデアが浮かぶなんて羨ましいなぁ、と鍋の様子をジッと見つめて、ヘラでかき混ぜながら言った。

 私は動揺しつつも、このことを悟られまいと、ミラクに合わせて会話を続ける。


「そ、そんな、料理人なんて無理です。私はそんなに料理も得意じゃないし……」

「り、料理は数をこなせば大丈夫。そ、それよりその発想力は誰でもあるものじゃないから……。でも、エルライが他にやりたいことがあるなら、そ、それを目指した方がいいよ」


 そう言われて、私は特にやりたいこともないし、きっとこの先も見つからないような気がして少し落ち込んだ。かといって、料理人を目指すことを少し想像するが、すぐに断念した。そもそもミラクのような料理に対する情熱が、私にはない。そんな状態で料理の道なんて、とてもじゃないが目指せない。


「まだやりたいことは分からないけど、料理はやっぱりミラクが作ったのが好きなので、今のところ目指そうとは考えてないです」


 そう言うと、ミラクが嬉しそうに目を細めた。


「そ、そんなふうに言われると、照れるなぁ」


 でも、もし気が向いて料理人を目指したいと思ったら、もっと色々と教えられるよと言ってくれた。

 笑顔で自分の知識を惜しみなく伝えようとしてくれるミラクの優しさに触れ、先程までの不安が薄れていくのがわかった。

 そして、少なくとも現時点では平和な世界に変わりないのだから、憶測で怯えるのはやめようとその考えを打ち切った。



 餅は試作なので、蒸したもち米に砂糖を入れ、小さな鉢と木の棒で作った。黄緑色のあんを餅で包んで、米粉をまぶして皿に乗せていく。

 出来立てを食べると、餅に入れた砂糖が多すぎたのかバランスが悪くて甘すぎた。あんも水分がまだ多かったみたいでベチャベチャだ。

 もう少し工夫が必要そうだとふたりで話し合って、また後日試作を作ろうと約束をした。



 *



「そういえば孵化の森で新しい子が生まれるのっていつなんですか?」


 私たちと同じように生まれる子がいるなら、そろそろなのではないかと、ふと疑問に思い、夕食時にシェアトに聞いてみると


「今回は生まれないわ。この森では一年おきに生まれるの。エルライ達の前がナシラ達で、次は一年後ね」


との回答だった。


 まさか隔年とは思わなかったので驚いていると


「大きな都市では毎年生まれると聞いているわ。どうやら町や都市の規模によって、生まれる頻度が変わるみたいよ」


同じ孵化の森なのにそんな違いがあるのかと驚いた。それだと大きな都市は更に人数が増えるのかなと思ったが、生まれた場所に留まることが少ないと以前聞いたから、それはないのかと思い、むしろ受け入れる側の余裕の話なんだろうかと推測してみたりした。

 アルドラは誕生の祝祭の様子が気になるようで、シェアトに尋ねた。


「じゃあ今回の誕生の祝祭は成人のお祝いだけなの?」

「そうよ。でも開催の規模は前回と同じだから、変わらないわよ」

「そうなのね。良かったー」

「みんな屋台や舞台を楽しみにしているからね」

「ルクバトは今年も演奏するの?」

「ああ、今年も出るよ」

「じゃあ今年は最初からゆっくり見られるのね」


 アルドラが嬉しそうにしているのを見て、確かにと思った。前回は自分たちの披露もあってソワソワして落ち着かなかったし、私は本当にそれどころではなかった。なので、今回は純粋に祝祭を楽しめそうだと思うと、今から当日が待ち遠しい。

 シェアトはそんな子ども達のはしゃいだ様子に目を細め、微笑んで見ていた。



 あの日から時間があれば、ミラクとふたりで大福もどきの試作を重ねた。最初のうちはふたりだけでやっていたが、みんなも興味があるのか、たまに顔を出してはあれこれ意見を出してくれた。

 そんな風に試行錯誤を繰り返しながら、誕生の祝祭のほんの数日前に、なんとかみんなが納得するものに仕上げることができた。


「これは人気が出ると思うわ」


 シェアトが確信を持って試食していると、ルクバトもひとつ手にとって口に運んで頷いた。


「今まで見たことのないお菓子だから、売り方を工夫しないとだな」


 確かに見た目はお餅にしか見えないし、見たことのないお菓子だと味の想像もしづらいかもしれない。


「それなら小さく切って試食をしてもらいますか?」


 ワカメを買う時に試食させてもらえたし、きっと受け入れられると思い意見を出してみると


「お菓子で試食ってあまりやらないけど、知ってもらう意味でも試食はいいかもしれないわね」


そうシェアトは頷いた。


「ところでこのお菓子はなんて言うの?」


 アルドラの疑問に私とミラクはハッとした。

 そういえば完成させることに夢中で名前を全く考えていなかった。


「エ、エルライが考えたものだから、す、好きな名前をつけていいよ」


 そう言われて、どうしようと悩んだ。大福っぽいものになったけど、大福という名前では食べ物かどうかも分からない。ミラク曰く、「あん」はどうやら詰める物という意味があるらしい。なので、私はわかりやすさを優先して提案をしてみた。


「あんこ餅、はどうでしょう?」

「あ、あんこ餅かぁ。うん、わ、わかりやすいし良い名前だと思うよ」

「本当ですか? じゃあ、あんこ餅にしたいと思います」


 こうして無事に名前も決まった。

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