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ペルティカの箱庭  作者: 綿貫灯莉
第2章 広がる世界
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第19話 屋台の出品

 翌日の昼食に出されたおにぎりにアクベンスはいたく感動して、旅立ちの日の昼食用に用意してもらえないかと懇願された。ミラクと私は快く引き受け、出発前に葉っぱに包んだおにぎりを渡した。

 アクベンスとハマルは嬉しそうにそれを受け取ると、何度もお礼を言った。

 そして、みんなに見送られながら


「また帰りに寄らせてもらうねー。いつになるか分からないから、あちらを出発する前に鳥の使いを出すよ。それじゃあ」


そう両手を大きく振って、ふたりは旅立っていった。


「ちょっと変わった人だったけど、すごく勉強になったわね」

「うん。まだまだ知らないことがたくさんあるってわかったよ」


 アルドラと話していると


「僕も研究してみたいな」


クラズがポツリと言った。ふたりで顔を見合わせて


「やっぱり魚について?」


と聞いた。毎日のように釣りをしているので、魚に興味があるのかなと思っていると、クラズはふるふると首を振った。


「ううん。昆虫」

「ああ、釣りをしてない時によく観察してるもんね」

「魚も面白いけど、昆虫の方がもっと知りたいことが多いから、研究してみるのもいいなって」

「いいんじゃないかな。好きなことがあるなら」

「でも魚釣りも楽しいし、悩む」

「え、両方好きなら両方ともやれば良いじゃない」


 その言葉に、クラズが驚いたようにアルドラを見て、それからふわっと笑った。


「そうだね。両方やってもいいね」


 だって好きなことがたくさんあるなんてステキじゃない、とアルドラはクラズを激励していた。

 こうやってみんな進路を決めていくのかと、その様子を見ながら納得した。



 *



 来月の誕生の祝祭で何を出品しようかという話になった。

 誕生の祝祭では広場に出せる屋台の数が二十と決まっていて、町内の飲食店からと、飲食店以外の店舗から十八の屋台が出される。残りの二つは前回の屋台の中からリクエスト枠でひとつ、そして抽選で選ばれる枠がひとつあるのだが、ミラクが運試しのつもりで申し込んだ抽選枠に運良く?当たったらしい。


「あー、ま、まさか当たるなんて思わなかったから、何も考えてないよ。ど、どうしよう?」

「当たったものは仕方ないから、何か商品になりそうなものを作るしかないでしょう」

「うーん。確かに野菜や砂糖を売るわけにはいかないから、何か作らないとだよなぁ」


 困ったと三人が話していると、アルドラが「おにぎりは?」と横から提案をしてきた。


「そうね。おにぎりはいいかもしれないわね。食べやすいし、持ち運びもしやすいしね」

「そ、そうだね。ただ、今回出店するお店は食事系が多いから、も、もしかしたらお菓子の方が喜ばれるかもしれないんだよね……」

「そうなの?」


 さっきまでの仕方がないという態度を一変させて、シェアトが目を輝かせる。


「じゃあこれから考えて、何か新しいお菓子を作るといいかもしれないわね」

「そ、そんな簡単に言われても……」

「そうだよな。新しいお菓子なんて、そんな簡単に出来るもんじゃないよな」


 ルクバトにフォローされながら、ミラクはどうしようかなぁと悩んでいた。

 その様子を見ながら、私にはひとつ思い浮かんでいるお菓子があった。胡麻団子だ。アクベンスが胡麻を見せてくれた時に、中華料理屋で出てきていたあのお菓子なら胡麻を堪能できるなと思ったのだ。ただ、胡麻はこの辺りではあまり流通していないのを知ったので、この案は無しだろうと心に留めておいた。



 翌日になっても、翌々日になってもミラクはアイデアが浮かばないと悩んでいた。

 あまりにもウンウンと困っているので、ふたりきりになった時にダメ元で胡麻団子について話してみた。


「そ、そんなアイデアがあるなら、は、早く言ってくれたら良かったのに」

「ほら胡麻が貴重だと思って……」

「た、確かに胡麻は使えないけど、お餅の中に甘く煮た豆を入れるなんてお菓子、い、今まで見たことないよ」


 すごいよと、今度は頭を抱えて何かぶつぶつと言いはじめた。


「あ、あの大丈夫ですか?」

「あ、うん。に、煮る豆の種類とかお餅をどうしようかと思ってね」

「『小豆』は無いですよね?」

「ア、アズキ? 豆の種類だよね? うーん……、き、聞いたことないなぁ」


 もしかして名前が違うかもしれないと、小豆の特徴を述べてみたが、該当しそうな豆は無さそうだった。その代わりに砂糖で味付けて美味しい豆があるとのことだったので、それを代用して試作をすることになった。

 午後の農作業が終わると急いで体を洗ってから厨房に入り、ミラクとふたりでまずはあん作りを始めた。


「こ、これが砂糖と煮ても美味しい豆だよ。か、皮も薄くてね舌触りもいいんだ」


 そう水に浸した黄緑色っぽい豆を見せてくれた。


「じゃあこれをあんにしましょうか」

「あ、あんは、どういう状態なの?」

「えっと……、水分がほとんど無くて、もったりとした感じ?」

「に、煮詰めてしまえばいいかな……」

「そんな感じです。豆の原型が無くなるくらいで」


 お餅であんを包むという流れから、頭の中には胡麻団子ではなく大福を完成形として思い浮かべていた。

 砂糖で煮込んだその豆は小豆とは違うけど、ミラクの言う通り、お菓子のあんとして使えそうな味だった。ただ、まだ柔らかく煮ただけで、ペースト状になっていないので、更に水分を飛ばしていく。


「こ、これを包む餅は何か混ぜる?」

「えーっと、お餅もほんのり甘いから、砂糖を混ぜてみたいです」

「ま、まるでそのお菓子を、た、食べたことがあるみたいだね」


 そう指摘されて、私はウッと言葉に詰まった。

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