第七話
毎週月曜日と木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
◇
「久し振りくわ」
試作品のくわはギーギーと音を立てて僕の足に擦り寄った。
抱き上げてみるとちょっと重い。「重いなあ」と言うと「失礼くわね」と怒ってみせた。
「まだもう少し軽量化を目指しているんだけど・・・・・・」
と森下という研究員がつぶやいた。
「そうだな、まだまだだよな」
葉山がくわを撫でるとくわは気持ちよさそうな顔をした。
「まあ、くわさんプロジェクトの研究員にまかせなさい」
柴田という身体の厳つい男が胸を張って答えた。
「くわさんプロジェクト?」僕がそう聞くと「そ、くわさんを創るプロジェクト」柴田が答えた。
「変なプロジェクト」と僕が笑いながら感想を述べると「そうくわか?」とくわが反応した。
「変じゃないよな、くわさん」森下が声を掛けると「そうくわ、変じゃないくわ」と威張ってみせた。
「他にも色々プロジェクトチームがあるけど、覗いてみるかい?」
と葉山が尋ねてきた。
「うん。行きたい。じゃあな、くわ」
そう言いながら、くわの頭を撫でるとくわは目を細めた。
「又来いくわね」
くわを森下に渡すと「くー」と寂しげな声をあげる。
「又来るからな」
僕は又くわの頭を撫でた。
「くー」というくわの悲しげな声を背に研究所の外に出た。
「よく出来てるでしょ、くわさんは」葉山が嬉しそうに聞いてきた。
「うん、すごいな。ところで、何でくわさんって名前なの?」
「柴田くんの娘さんが名付けたんだよ、くわさんって」
「ふうん」
どこからそんな名前が出てきたんだ?
「最初は“くわ”と語尾に付けなかったんだけど、名前付けてから語尾に付けるようにしたんだ」
「でも付けた方が面白いでしょ」
「うん、まあ・・・・・・そうだね」
「次は何処へ行く?」
「君にとって懐かしい場所に行ってみようかな」
「何処?」
「いいから行ってみよう」
◇
「冷凍睡眠カプセル」
20体くらいのカプセルが並んでいる。カプセルは僕が睡眠に入った時よりもいい造りに変わっていた。
「君が第一号の患者だったんだね?」
「・・・・・・うん」
「君が眠っていた場所」
葉山が空っぽのカプセルを指差す。
「んで、君が一番に目覚めたってわけ。そしてこれから君が体験したバーチャルの世界に、入って行く人がこの人」
「・・・・・・」
女の人だ。日焼けしてないから、肌が異常に白い。
「二日前に整形手術をしたばっかりなんだ。これが元の顔」
葉山が写真を指し示す。初老のおばあさんだ。同じ人とは思えない。
「今からバーチャル体験をしてもらうんだ」
「ところでなんでバーチャル体験をしなくちゃいけないんだ?そのまま目覚めさせてもいいんじゃないか?」
「どんな人物かバーチャル体験をさせてみてみるんだよ」
「どうして?」
「どういう行動に出るかどうかを確認した上で覚醒してもらう。」
「どうしてそんな事をする必要があるんだ?」
「どういった人間なのかデータがないんだ、目覚めさせてみてとんでもない悪人だったらどうするんだ」
「悪人だったらどうするんだ?このまま死ぬまで寝てもらうって言うんじゃないだろうな?」
僕は憤慨して葉山に問うた。
「ま、そんなとこかな」
とさらりと言う葉山に僕は寒気を覚えた。
「そんな事言うなよ、悪人でも目覚めさせてやれよ」
「犯罪に繋がる要素はなるべく避けた方がいい」
「そうならない様に、君にもバーチャルの世界に入って患者と会話してみてよ。目覚めさせるにふさわしいかどうかの判断は君に任せるよ」
「そ、そんな判断は出来ないよ」
無茶苦茶だ。
「君に任せた」
ポンと肩を叩かれた。
「大丈夫だって、そんな悪人はいなさそうだし、安心しなよ」
「そんな・・・・・・」
「わかったよ、僕も一緒に判断してあげるよ、それでいいだろ?」
「うん・・・・・・でも僕に任せたら全員目覚めさせるからね」
「はいはい、分かった分かった」
なんだか適当にあしらわれた感じがする。
「絶対にそうするからね」
もう一度念を押してみた。
「了解」
今度は葉山が真面目な顔で返事をしてくれた。
◇
「じゃ、今からバーチャル体験をしてもらうね」
一本の柱を軸に三台のカプセルのような物が並んでいる。辺りには、機械がこれでもかというほど、沢山陳列されている。
「横になって」
カプセルの中に横になるよう指示された。
葉山は何やらコードを引っ張って僕の後頭部に付けようとしている。くすぐったい。
「動かないで。今一番大事なとこなんだから」
葉山は忙しなく動く。
「よし、準備完了」
「目を閉じて」「うん」
「それじゃあ、いってらっしゃーい」と葉山が言った瞬間真っ暗闇になった。しばらくすると例の禿げ男の声がする。どうやらバーチャルの世界へ入ったみたいだ。