第六話
毎週月曜日と木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
GAMEOVER
「やあ、目が覚めたようだね」
誰だ?男?暗闇の向こうで声がする。目を開けてみると、僕はベッドの中にいるらしい。男が近づいてくる。電灯のスイッチを入れたみたいだ。明かりが点る。男は30~40才くらいだ。Tシャツの上に白衣を着ている。
「ここは病院?」
個室だけど確かに病院だ。
「そう病院。そしてこれが現実、本当の未来だよ」
「え?どういう事?」
「君がいままで見て感じたものは、バーチャルでの体験だった。つまり、すべて夢の中だったって事さ」
「そんなばかな」
「今は2050年、バーチャルの世界と同じだ」
「僕は葉山桐人、君と同じ年だ」
男はそう名乗ると手を差し伸べた。僕はその手を取って握手をした。ロボットではなさそうだ。手が暖かい。
「見かけは若くても骨とかがボロボロさ。だから激しい運動は出来ないんだ。君もそうだけど・・・・・・」
「見かけは若い?鏡を見せてよ」
葉山は黙って手鏡を差し出した。
「本当だ。若いままだ」
自分の顔が変わってない事に安心をした。
「前のままに顔を復元するなんて、大変なんだよ本当は」
「ふうん」
僕は若さで張りのある顔を、摘んだり伸ばしたりした。七十才以上には見えないよな・・・・・・。
「本当にこれが現実なの?」
「うん、現実。君が見て感じたものは、これから始まるものだったんだよ。ほんの少し先の未来像さ」
葉山はカーテンを開けて指し示した。「ほら」建築中の建物が見える。あの形は多分『タワー』だ。
「何処へ行ってみたい?『タワー』は見ての通り完成してないけど、日本街なら大分出来てるよ」
「日本街かぁ・・・・・・行ってみたいなあ。」
「じゃ連れてってあげるよ、着替えて」
ベッドの上に着替えを広げて見せた。
「『服』まだ完成してないんだ。まだ試作段階なんだよ」
バーチャルで着てた服のことかな。
「アイディアはいいんだけど、技術面ではまだまだ追いつかないでいるんだ」
と葉山は首をすくめてみせた。
「行くよ」
着替えを済ますと、早速日本街に連れてってもらった。
◇
日本街に着くと城の部分がまだ工事中だった。街のあちこちを葉山に案内してもらった。バーチャルの世界と何ら変わりはなかった。
「君が見てきた未来をどう思う?」
葉山は急に真剣な面持ちで質問してきた。
「バーチャルの世界の話?」
「未来はバーチャルの世界を目指して計画的に造られているんだ。体験した君の意見を聞きたい」
「んー、そうだなあ。日本街は好きだな。タワーも悪くなかった。アンドロイドは少し気味悪かったけど・・・・・・。けどなんで畑仕事をしなくちゃいけないんだ?」
「畑仕事は嫌だった?」
「うん、ちょっとね・・・・・・でも段々と楽しくなったかな」
「国としての自給自足を、完全にしておきたくてね」
「ほう」
「安心して食べられる食物を、常に確保出来る国にしたかったんだ」
「それにしても、全員が農業に携わることないんじゃないの?」
「人が生きてゆくだけの最低限な仕事を農業にする事で、ホームレスがいなくなるんじゃないかなと思ってこのシステムにしたんだ。それに畑仕事もやっていくと結構はまるよ」
葉山はそう微笑んだ。
「それとある事が起こってから、日本は鎖国状態になってね・・・・・・自給自足せざるを得なかったんだ」
「鎖国?」
「うん鎖国。またいつか説明するよ」
「それよりも、犯罪とか気になるところとかある?こういう所が犯罪になるんじゃないかとか」
「犯罪ねえ・・・・・・。ポイントを違法に作る連中とかが出てきそうだったなあ」
「そうか、やっぱりそうだよなあ・・・・・・」
「君の体験したバーチャルの世界には、まだ犯罪とかのプログラムは入ってなかったんだ」
「どうして?」
「せっかく創った世界を汚したくなかったんだ。この世界の欠点を認めたくなかったのかも知れない。・・・・・・犯罪とか入力してこそリアルになるんだよな、バーチャルって。犯罪に対するマニュアルも検討出来るし・・・・・・よし、今度から犯罪プログラムを入力するぞ」
葉山は何度も頷いて気合を入れているみたいだ。
「あと聞きたい事があるんだけど・・・・・・」
「何?」
「どうして日本街と『タワー』は分けられているんだ?」
「うーん、そうだなあ。最初は文明を捨てて、日本街だけで生活するつもりだったんだ」
「じゃなんで『タワー』は造られたの?」
「宇宙に出る為さ」
「宇宙?」
「そう、宇宙。『タワー』はそれを研究する為に造られているんだ」
「ねえ、高野君。人類は何の為に生きていると思う?」
「何の為にって・・・・・・」
そんなのわかんないよ。
「宇宙に出る為に生きてるのさ。それがこの星の生物が望んだ事さ。全生物の希望だよ」
葉山は僕が想像したものよりすごい事を言ってのけた。
「大昔、水から陸地に這い上がった生物の様に、人類は宇宙へと飛び立つのさ。いずれ地球は生物が生きていけない星になるだろう。その前に他の星に移住する方法をみつけなければ駄目なんだ。将来地球上で人類が滅亡の危機にさらされた時、宇宙に行くという逃げ道を作ってやりたいんだ」
「じゃ日本街はどうして造られたの?」
「日本街は古くからある伝統を守ってゆく為と、その伝統の中に宇宙に出る時に、役立つものが潜んでいる可能性を探るために造られたんだよ」
「どういう意味?」
「古い伝統工芸の中に、役立つものがあるかもしれないでしょ」
「例えば?」
「例えは、焼き物が宇宙開発の一端を担っているとか」
「へえ、焼き物が」
「そう、焼き物が宇宙船の一部として利用されているんだ」
「すごいなあ、そんな事まで考えて造ってあるんだ」
「これ全部葉山の考えなの?」
「僕一人じゃないよ。仲間と話し合って決めたんだ」
「へえ、すごいなあ。こんな事僕には思いもつかないよ。すごいよ」
「本当に僕の思った通りに、街が発展するかなんてわからないけどね。けれど皆そういう社会にしようと一生懸命努力してるよ。未完成だけど、『タワー』にいってみないか?あそこには大勢僕の仲間がいるよ。」
どう?と葉山は僕に手を差し伸べた。
「それに開発中だけど、くわさんもいるよ」
「くわさんってあのくわくわうるさいロボットの事?」
「そう、完成まであともう少しなんだ。どうする?行く?」
「行く」