第五話
毎週月曜日と木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
第5日目
「久し振りくわ」
くわはジャンプして、僕の胸に飛び込んできた。興奮してスリスリしてくる。くすぐったい。
「落ち着けよくわ。興奮し過ぎ」
「そうくわか?」
そう言うとピタリと体を止めた。
「激し過ぎだよ」
「スキンシップのひとつくわよ。くわの愛情表現くわね」
くわはうんうんと頷いた。
・・・・・・愛情表現ねえ。
「じゃ、又来ます」
僕は係員の人に携帯ナビを渡した。
親指を立ててナビを立ち上げる。僕は再び『タワー』の住人となってしまった。
日本街に住んでみようかなとは思うけど、そうするとくわとは別れなくちゃいけないんだなと、腕の中でご機嫌なようすのくわを見ながら思った。
「どうしたくわか?元気ないくわ」
「いや、別になんでもないよ」
リニアモーターカーはそんな気分の僕を乗せて『タワー』へと近づいてゆく。『タワー』が見えてきた。農作業するしかない世界、壁の中にいるアンドロイドの不気味さ。
・・・・・・あまり帰りたくないなと僕は思った。
第7日目
くわに頼んであった歯ブラシが届いた。全長5ミリくらいで、歯ブラシのブラシの部分だけでこんなので磨けるのかなといった感じだ。早速試してみる。全自動式で口の中に、ほりこむと、勝手に歯磨きをしてくれるとある。恐る恐る口の中に入れてみた。
・・・・・・なんか口の中に虫を入れたみたいで気持ちが悪い。
昔ながらの歯ブラシはないのかとくわに聞くと、二十世紀型の住居が残っている所ならあるかも知れないとのこと。休みが来たら早速行ってみようと思う。
第13日目
二十世紀型住居群という所に着いた。僕にとっては、むしろ懐かしい街だ。眠りに入る前に住んでいた世界だ。ただし人が住んでいないので、ゴーストタウンになっているけど。
少し歩くとコンビニがある。中に入ると商品がめちゃくちゃに陳列してある。僕は歯ブラシを探した。三十分後ようやくそれらしきものを見つけた。これで歯磨きに困らなくてすむ。
帰ろうとナビを立ち上げると矢印の色がいつものオレンジ色じゃなく蛍光のグリーンだった。
「・・・・・・?」
不思議に思い、矢印をたどると、どんどんと街の中に入っていってしまう。帰り道じゃないみたいだ。矢印どおりだと帰れないと判断した僕は、ホルスを外した。
「ええっ?!」
ホルスを外しても消えない矢印は右に曲がるよう表示してきた。
「どうなっているんだ?」
頼りのくわは、さっきから沈黙しまるで止まっているかのようだ。
「・・・・・・」
こうなれば、とことんまで指示どおりに従ってやろう。そう開き直ると、僕は矢印を追いかけ始めた。
すると、『バーチャルリアリティ研究所』という看板の扉の前にたどり着いた。扉を開けると歯科医の椅子のようなのがひとつ、スポットライトを浴びていた。
「ようこそ、『バーチャルリアリティ研究所』へ」
一人の男が現れた。その男は禿げていて黒ぶち眼鏡を掛けており、闇の中で浮かび上がる引きつり笑いが気味悪かった。
「新たなる世界へと旅立ってみませんか?1回400ポイントで素晴らしい事が待っていますよ」
「何が起こるんだ。」
「素晴らしい事です」
禿げ男はうっとりとした声で答えた。
「この椅子に乗って頂いて、眼鏡を掛けて頂ければ、あっという間に別の世界へと旅立てるのです。んん、素晴らしい」
男は目を瞑り握りこぶしを作った。
「んん。400ポイントです、お客様」
男は僕に顔を近づけて迫る。
「どうです?迷っているようですね。では一回無料でお試しをしてみるのもよろしいのかもしれませんねえ。貴方に特別のキャンペーンを実施致します。今なら無料体験出来ます。さあどうです?」
「無料ねえ・・・・・・」
うさん臭いなあ。
「無料です。ムフッ・・・・・・」
禿げ男はククっと笑った。
「無料だから安心して体験してみなさあい。大丈夫です」
男は僕の背中を押して、無理やり椅子に乗せようとする。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
椅子に乗せられた僕はもがいたが、男の力は意外に強く抵抗出来ない。手首,足にベルトを付け、頭にヘルメットのような物を付けられた。
「ハイハイ、行きましょうね。不思議な世界に」
僕は腕に注射みたいなのを打たれた。
「楽しいですよ」
男はグフッと笑う。もうもがく事さえ出来ない。
「行ってらっしゃーい」
男は嬉しそうにレバーを引いた。
次の瞬間光が溢れ部屋が真っ白になった。それから真っ黒な闇へと変わっていった。