第四話
毎週月曜日と木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
第3日目
今日も農園で働いてきた。だいぶと身体を動かす事に慣れ、少し農作業が楽しくなってきた。これをし続けると、毎月15万ポイントくれるらしい。
第4日目
今日はお休みの日だ。くわを連れ出して外へ出かけた。
「何処へ行くくわか?」
くわは嬉しそうに僕の腕の中で手足をパタパタさせている。
「おすすめの場所とかないの?」
「おすすめくわか。うー、日本街くわかね」
「日本街って?」
「江戸時代の街を、再現して出来た街くわよ」
「へえ、どんな感じ」
「行ってみるくわよ。そしたら分かるくわよ。ナビ立ち上げるくわよ」
ナビゲーションシステムを作動させた。矢印が表示される。
「ちなみに、くわは日本街には入れないし、その服も脱がないと駄目くわよ」
「なんで?」
「トップシークレットだからくわよ。くわは特別なのくわよ。国家機密くわ」とくわは、えらそうに腹を突き出してみせた。「・・・・・・どこが?」「失礼くわね」とくわは、むう、と唸った。
「外国人に知られたら駄目だからくわ。日本街は外国人がいる唯一の場所だから、情報が漏れると困るくわよ」
「日本街の中に入ったらここでの生活は人に話したら駄目くわよ」
「分かった」
「・・・・・・どんな人が住んでるの?」
「だいたいがここでの生活に飽きた人達くわね。20歳になったらテストを受けて日本街に住むか選択できるくわ」
「僕も住んだらいけないの?」
「資格があれば住めるくわよ」
「どう言う事?」
「例えば、機織り職人資格とかを取るくわよ」
「そんなの何処で学ぶんだよ」
「日本街で修行するくわよ」
「マスター資格者について学ぶくわよ」
「高野は日本街に住みたいくわか?」
「いや、まだ街を知らないし・・・・・・」
「そうくわね、今日街を見てから考えてみるくわよ」
「日本街に住みたくなったら、くわに言うくわよ。ちゃんと手続きしてやるくわから。まずはテストを受けないと駄目くわよ」
そうこう話しながら、歩いているうちに、気がつけば流線型の綺麗な列車が、目の前に現れた。
「これに乗るの?」
「そうくわ。世界最速リニアモーターカーくわ」
「切符とか買わなくていいの?」
「ただくわ」
「ただ?この乗り物が?」
「そうくわ」
「ふうん・・・・・・もしかして、リニアモーターカーに携わっている人も、野菜作りするわけ?」
「そうくわ、交代でするくわ」
「変な世界」
「そうくわか?高野の目から見たら変くわか?」
「うん、ちょっとね」
リニアモーターカーを操縦する人は操縦する人、農家なら農家でいいんじゃないかなと思うんだけどなあ・・・・・・。
リニアモーターカーに乗りこむと、すぐに走り出した。人はあまり乗って無いようだ。窓側の席が空いていたので座った。
車窓から覗くと、僕の住んでいる建物が見える。丸いドーナッツ型にみたいなのが重なり合い、上にいくほど小さくなっている。
「・・・・・・」
何かに似ているが、あえて言わないでおこう・・・・・・。
「高野達が住んでいるのが、今見えている『タワー』と呼ばれる建物くわよ」
「ふうん、『タワー』って言うんだ」
『タワー』がどんどん小さくなっていく。さすがリニアモーターカー速い。
「あと1分で日本街です」
車内アナウンスが流れる。まじで速い。2、3分かからなかったんじゃないかな。
日本街に着いたので、ホームに降り立った。
「うわっすごい!」
ホームからの風景に、思わず感嘆の声をあげた。まさしく江戸時代そのものの建物が広がっていた。
「まず、くわを預けるくわ」
ホームから出ると、テーマパークの入園ゲートみたいなのがあって、そこに人々が並んでいる。
「並ぶくわ」
「分かった」
「ロボットはこちらに預からせて頂きます」
係員がくわを取り上げた。
「お別れくわ」
くわは翼をパタパタさせ別れを告げた。
「じゃあね」
僕はくわの頭をポンポンと叩いてくわと別れた。
「次に服に着替えてもらいます」
「好きな着物を選んで下さい」
五,六種類の男の着物がずらりと並んでいる。僕は色の濃い青の着物を選び着付けをしてもらった。
「なかなかお似合いですよ」
「そうかな」
誉められると照れくさい。
「日帰りですか?それともお泊りになりますか?」
「えっ、泊まれるの?」
「はい。そのかわり、ポイントは頂きますよ。1万2千ポイント必要です。朝、夕と食事付きですよ」
「1万2千かぁ・・・・・・高いなあ」
「今決めていただかなくても、街を散策してから考えたらどうです?」
「じゃそうするよ」
「じゃ、これをお持ちになって下さい」
巻物みたいなのを手渡された。
「携帯ナビです。これで迷子にならなくてすみます」
「ありがとう」
僕はそれをもらうと日本街に出た。
「いってらっしゃいまし」
後ろから声を掛けてもらった。後ろを振りむくと、深深と頭を下げている。再び目が合うと、笑ってくれた。
―そして、ぼくは日本街を歩き始めた。白い壁、屋根は皆瓦葺の屋根。行き交う人々は皆着物。本当に江戸時代にタイムスリップしたみたいだ。巻物のような携帯ナビを使ってみる。薄い紙を引っ張ると紙に『日本街案内図』と書かれた墨文字がアップになったと思ったら、墨で描かれた地図が浮かび上がった。地図にタッチすると案内してくれるようだ。こんなに薄いのにこんな機能がついてるなんて、すごい、魔法みたいだ。中央通りは、ほとんどが店屋みたいだ。様々な物が売ってある。昔ながらの木のおもちゃとか、伝統ある壷とか。
僕は、中央通りの裏手にある、工房通りの方へ向かった。
ナビで『工房』と表示されている所を歩くと、藍染め職人が、川で染め終わった布地を、洗っていた。その隣では、ろくろを回して壷を作る人がいたり、その向こうは、機織り職人が機を緒っている。ここで修行すれば、職人として働けるらしい。とんぼ玉を作っている工房を覗いてみた。細いガラス棒をバーナーで溶かし、水あめみたいに棒で巻き取ってゆく。職人の手さばきにより様々な,とんぼ玉が出来あがる。「綺麗だな・・・・・・」僕は時間の経つのを忘れて、とんぼ玉が出来あがるのを眺めた。しばらくそうしていると、「兄ちゃん熱心だねえ」と職人さんに声を掛けられた。「えっ?」出来あがりのとんぼ玉から視線を外し、顔を上げると、職人さんと目が合った。
「やってみるかい?」
どうやら、とんぼ玉を作らせてもらえるらしい。
「えっ、いいんですか?」「いいとも。さ、中に入りな」
職人さんはドアを開けてくれた。
「まず、好きな色のガラス棒を選びな」
そう言われ、僕は藍色と白のガラス棒を選んだ。
「そしたら、眼鏡をかけな。まずはガラス棒を溶かすことから始めよう。鉄の棒とガラス棒を回転させながら熱して」
ガラス棒が飴細工みたいにぐにゃりと溶けてゆく。
「ガラス棒の先が丸くなったら鉄の棒に巻き取って」
熱してあった鉄の棒に絡め取る。
「そう、その調子」
くるくるとガラス棒と鉄の棒を回して形を整える。
職人さんの言う通りに手を動かすと、何とか形になって来た。
「次は白のガラス棒をガラス玉に巻き取って」
くるくると回すと藍色の玉に白い筋が出来た。
「形が出来たら、一旦炎から離して」「もう一度炎の中に」
「よし、いいぞ。このバケツの中に鉄の棒ごと入れな」
職人さんは、細かい小石みたいな物が入っているバケツを指差した。
「この中で、一時間ぐらいかけて徐々にガラスを冷ますんだ」
「兄ちゃん、一時間後にまた来な。このとんぼ玉兄ちゃんにやるよ」
「くれるんですか?ありがとうございます」
僕は嬉しくて思わず微笑んだ。
「それじゃ、一時間後に又来ます」
と言って僕はとんぼ玉工房から出て行った。
ここで働くのも悪くないな・・・・・・そう思いながら僕は、工房を後にした。
次にお城らしき高台に行ってみた。見た目はお城だけど、中は展望レストランらしい。お腹も空いてたとこだし、ここで食事を取る事にした。和食ばかりかと思いきや、オムライスなんてのも、メニューにあった。せっかくだから、和食にしよう。僕は、店の人に懐石弁当を頼んだ。1200ポイント取られたけど、まあいいや。
景色がとてもいい席に案内してもらったみたいだ。日本街がよく見える。五十年後だからもう昔の文化は滅んで、『タワー』の住人みたいな生活がほとんどだと思っていたけど、こうやって日本古来の文化を残そうとしているなんて、なんかちょっと嬉しい感じだ。携帯ナビの案内よると、日本街は百年,二百年先になっても、この景色を変えずに、内外の人々に誇れる街作りをと願ってこの街を建てたらしい。僕もその考えに賛成だ。この街はこのままでいてほしい。
僕はすっかり日本街が気に入ってしまい、泊まる事にした。その事を係員の人に伝えると、普通の民家みたいな所へ案内された。
「電話して頂けたら、お食事は届けさせて頂きます」
「分かりました」
係員の人がいなくなったと同時に、畳の上に寝転がった。やっぱ日本人なら畳でしょう。新しい畳の匂いを嗅ぎながら、日本街に住んでみるのも悪くないなあと思ったりした。穏やかな日の光が、障子を通して降り注いでいる。
「静かだ・・・・・・」
僕は心の底から、安心感を得ていた。