第二十一話
毎週月曜日と木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
この世界では、車は一切運転することが出来ない。ゲームとして部屋の中で、僕等がいた時代の風景などを楽しむモードのやつとか、スピードを出しまくるモードのやつとかで、運転している気分を味わえるくらいだ。スピード系は車の部品をカスタムしたりする楽しみがある。風景を楽しむ方は癒しがある。並木道、海岸線、山の稜線、季節の移ろいを感じることが出来て何時間でも楽しみたい。
・・・・・・けれど、リアルじゃない。本当の世界じゃない。目覚める前、元いた時代に帰りたい。2000年のあの頃に。せめて、住むところだけでも、と僕は二十世紀型住居群の街へ、そこで暮らすために、くわを抱えてタワーを飛び出した。二十世紀型住居群は、人が暮らす街ではないので、まず供給される食料が無い。それと一日でくわは「ぽぽい」と言ってから、全く動かなくなった。二十世紀型住居群の中で、比較的破損が少ない一軒家で住む事を選び、僕はリビングに、くわを飾って、その庭で野菜を育てる事にした。街中のスーパーで種を見つけ、二、三種類耕した畝に蒔いてみた。上手に育つだろうか?
―暮らして数週間が過ぎた。野菜は育たない、タワーの住民がゲームを楽しむため毎日のように家に入り破壊していく。何件住むところを変えたことか。食料はスーパーなどの在庫品から賄った。何とかなるが、せっかく整えた部屋などを、壊されるのはもう限界だ。
―この街を出て他に二十世紀型住居群が無いか旅に出る事にした。タワーの住民が手を付けてないどこかへ。交通手段は街で見つけた軽トラ、使えるかどうか確認済みだ。食料やキャンプ用品、ガソリンも街に残っていたものを、ありったけ車に積んだ。これで、数か月は旅が出来るだろう。
「くわ、僕は旅に出る。君も行くかい?」
僕は動かないくわに向かってそう訊ねた。
「くわは、行かないくわ。このタワーのトップシークレットくわ。だから行かないくわ。さよならくわ」
くわは、いきなりそう言うと僕の手から離れて、二十世紀型住居群からタワーに向かう駅への方へと歩いて行った。
「・・・・・・」
その後ろ姿に、寂しさが溢れた。くわが僕にしてくれた沢山のことが思い出される。全て愛おしい時間だった。ありがとう、くわ。さようなら。
「さあ、今からお前は俺の相棒だ」
僕は軽トラのボディを軽く叩くと。運転席に乗った。僕は何処に行けるだろうか?エンジン音が心地よい。
「行くぞ」
僕はアクセルを踏んだ。




