第二十話
毎週月曜日と木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
今日は、くわと一緒に食事が体験できるレストランに来た。部屋でも、くわと食事ができるけど、ここの体験は格別らしい。とにかく、くわが喜ぶとキョウコさんに、教えてもらい早速ここに来た。
「ここだな、よし入るぞ、くわ」
ナビに導かれレストランの扉の前に来た。
「くわは楽しみくわ」
腕の中くわは嬉しそうだ。
「・・・・・・」
扉を開けると、暗闇が僕らを包んだ。
ぽうっと光が生まれた。光の中で、高級スーツを着込む猫の支配人が尻尾を振りながら、ニコニコと微笑んでいる。
―これも、ぬいぐるみ型のロボットかな。よくできているな。
「いらっしゃいませ。ようこそ我がレストランmyuuへ。予約のお客様ですね。どうぞこちらへご案内致します」
猫は仕草や言葉遣いが一流の支配人で、高級レストランの雰囲気を醸し出している。
猫の支配人が、パッとと手をかざすと、暗闇がさあっと無くなりレストランのホールが目の前で広がった。ホールは薄明りで座席の上が、温かい光に包まれている中、様々なぬいぐるみ型ロボットが、ご主人と同じ席で向かい合って食事を楽しんでいる。
「楽しそうだな」
「くわは、こんな所で食事するの初めてくわ」
くわは興奮気味に僕に話しかけてくる。
「お客様の席はこちらでございます」
僕らはテーブルに一輪のバラが飾ってある席に案内された。
「ここでは、ホルスは付けたままでいて下さい」
「どうしてですか?」
「せっかくの夢が覚めてしまします」
夢か、なかなかおしゃれな言い回しだな。
「この夢が覚めるのはあまり良くありませんね。わかりました、そうさせていただきます」
「ありがとうございます。メニューは『メニュー』と仰って下されば目の前に現れます。では、後ほどご注文を伺いにまいります」
失礼いたします。猫の支配人はホールから闇に消えて行った。
「メニュー」
そう言うと本当に目の前に、メニューが現れたので、僕らは驚きながらメニューを見た。高級なフランス料理や、B級グルメまで様々な物を注文できるみたいだ。
「くわは何が食べたい?好きなのを頼んでいいよ」
「そうくわか」
「高級フランス料理でも、くわが喜んでくれるなら、頑張って払うから」
「くわは、酢豚がいいくわ」
「え?もっと高価なものにしようよ」
「くわは、酢豚が一番好きくわ」
「そうなの?」
「酢豚を頭に浮かべるだけで幸せくわー」
すぶた~。くわは、うっとりとした表情で目を閉じた。
「ふうん、そんなに好きなのか」
「そうくわ」
まだ、くわは、幸せに浸っている。
「高級な物を食べて欲しかったけど、くわがそう言うなら仕方ないね」
「じゃ、僕はパスタでも頼もうかな」
僕は支配人を呼んで、オーダーした。
しばらくして、くわのもとに酢豚が届いた。僕の頼んだパスタと共に。
「すーぶたー!」
くわのテンションは一気に上がった。一口、口に入れるたびに恍惚な表情になって、喜んでいる。
「くわ、美味しい?」
くわは、僕の声が届かないくらい酢豚を味わっている。
「すーぶたー!」
よく聞くと、他の席でも酢豚と叫んでいるのが多くいるみたいだ。
「・・・・・・酢豚が流行っているのかな?」そうくわに聞くと、「くわの前身のロボのぴよちゃんの影響でくわは酢豚が好きくわ」と教えてくれた。
「ぴよちゃんって?」
「すぐ近くにすぶた~と叫んでいるくわね。ひよこ型ロボくわよ」
「おー!すーぶたー!」
そう叫んでいるひよこのロボットがいる。本当にひよこのロボだ。黄色くてふわふわで、目がくりくりして可愛い。おおお~!と酢豚を前に大興奮している。
「ぴよちゃんは余程酢豚が好きなんだね」
「そうくわ、筋金入りくわね。くわも大好きくわ、酢豚。嬉しかった、ありがとうくわ」
くわはこれ以上ないくらいの笑顔を見せてくれた。
「・・・・・・」
僕はこの表情を見れただけで、ここに連れてきて良かったと思った。
「そんなに好きなら、普段から、酢豚を頼めばいいのかな?」
「ここの酢豚が最高くわ。酢豚は滅多に口にできないから最高くわよ」
「へえ、そんなものなのか」
「そうくわ、くわばかり見て、パスタを食べてないくわね。早く食べないと不味くなるくわよ」
「そうだね、わかった」
僕は慌ててパスタに手を付けた。
「・・・・・・!」
パスタの味は期待以上に美味しかった。こうして、くわとの夢の時間が過ぎて行った。




