第十三話
毎週月曜日と木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
OTHER PEOPLE
・・・・・・豚骨ぐつぐつ地獄ラーメン?戸口は岩で覆われ、まだ見ぬ店内の不気味さが戸口から黒い視覚となって漂って僕の周りを取り巻いた。・・・・・・地獄だって、美味いのかな?僕は半信半疑で店の戸をくぐった。店内は何か暗くて、おどろおどろしい。壁や天井、そして客もねっとりとした泥にまみれている。客は、ぼろの浴衣を着て、破れたところからあばら骨が浮き出ている身体が見える。所々に火や煙がごうと吹き出したりして地獄そのもののようだ。
じゃあああん。シンバルの音が響き、お一人様地獄行き~と店員が叫んだ。店員は顔が赤く頭に角が生えている。地獄の鬼だ、まさしく。僕の身体もいつの間にか泥だらけで、ぼろを着て、腹はあばら骨が浮き出ている。地獄って感じ。とてもいい!
―どうぞこの席に、とカウンター席に案内された。鬼だけど丁寧。棍棒を持って殴られるのかと思った。なんせ地獄だから。
『店内ではホルスを取り外す事は禁止事項なのでお気を付けください』
という文字が三十秒近く目の前で赤く点滅し続けた。ああ、目がチカチカする。
『メニューは地獄ラーメン大中小のみです。どれになさいます?』
と文字と音声で注文を聞いてきた。
「じゃあ、中で」
僕はそうたのんだ。どんなラーメンだろう?
「・・・・・・はい、お待ち」
数分で地獄ラーメンが目の前に届いた。ラーメン鉢の中のスープが地獄釜みたいに、ぐつぐつとあぶく立っている。スープがドロドロして、いかにも濃ゆそうだ。湯気さえも地獄のように揺らめいて演出力が半端なかった。
「いただきます」
僕は麺をすすった。うん、美味い!癖が少しあって、病みつきになる美味さだ。
スープも思ったよりドロドロ感は無い。美味いなこれ。
・・・・・・禁止されているホルスを取ったらどうなるんだろうか?僕の好奇心がうずき始めた。
「えい!」
僕は思い切ってホルスを外した。
おどろおどろしい世界は無くなり、白い清潔なキッチンカウンターが視界に広がっていた。ラーメンも普通の豚骨ラーメンだ。客も店員も同じ薄荷色の服を着ている。
「・・・・・・外しましたね?」
店員の声がする。
「外したな?」
客も皆立ち上がり僕の方に向かって来る。
「外すなって注意しただろうが」「外しやがって」
僕は客と店員に詰め寄られ、店の角に追いやられていく。
「すみません!つい出来心で外してしまいました」
焦る僕。
「ルールは守れや」「破んなや」「本当の地獄見せようか」
じりじりと僕は店の壁に押しつけられて行き、八方塞がりだ。何処にも逃げられない。
「どうもすみませんでした!お許しください」
僕は恐怖を感じて叫んだ。
「許すか」「地獄行じゃ」
皆が殺気立つ。
「すみません。すみません。すみませーん!」
僕はもうひたすらに叫ぶしかなかった。




