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第十二話

毎週月曜日と木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。







「どうして僕なんですか?葉山から貴方を裁くように言われました」

長谷川さん・・・・・・じゃない長谷川は、僕の顔をじつと見ると溜息をついた。

「君が事件の当事者ではないから、公平な目で僕を裁いてくれると思ったからです」

「そんなこと言われても困ります。僕に人を裁く権利なんて無いです」

「そう言わずに頼みますよ」

そう言われても困るもんは困る。

「―じゃあ聞きますけど、どうしてウイルスなんてばら撒いたんですか?」

「地球温暖化が進んでね、それでも世界は何の対策もしなかった」

長谷川はギラリと僕を見た。

「だから私は、人口が減れば、温暖化が止められると考えた」

「そんな理由の為に、人を殺したって言うんですか」

「・・・・・・煙草に害がある事を知っていますね。喫煙者はその事実を理解しながら喫煙する。死に至る病だって引き起こす可能性を含む物を、人は体内に入れて平気なのです。緩慢な自殺だ。人は自覚無しに、死へと向かう行為が、体内に秘められているのかも知れませんね。だから、環境がいくら悪化しようが改善する事もなく、長い時間かけて自殺するのでしょう。私はそんな人の流れに巻き込まれたくなかった。そんなくだらない自殺など」

「―だからって人を殺すなんて勝手すぎる」

「そう、私は勝手すぎた。あんな事をすべきではなかったと、今では思っていますよ。私が殺した人々の中に、もしかしたら温暖化を改善する能力を持った者がいたかも知れない」

長谷川は顔を上げ僕を真っ直ぐに見た。

「そんな天才がいたかも知れない、そう思うと激しい後悔を感じます」

「天才以外でも、人を殺す事はなかったはずです」

僕は怒りより悲しかった。この男は自分のしたことがわかっていない。

「高野さん・・・・・・僕は死刑ですかね?」

「―そんなの僕が決める事ではありません」

そう僕は言い放つと、長谷川から逃げるように、その場から離れて行った。







「気分爽快だなあ」

と俺は体を伸ばしながら呟いた。俺は上半身裸で日光浴をしている。性転換手術を受けた今、男になって良かったなあとつくづく思う。

「あれ?」あそこに見えるのは、足早に歩く高野さんだ。「おうい」と声を掛けてみた。彼は気付いてこちらへ向かってくる。

「何しているの?」

高野さんは声をかけてきた。

「日光浴」

「かなり黒くなったね。健康そうに見えるよ」

「へへ、あとは筋肉が付く様にならなきゃ」

「そうだね」

高野さんが笑った。バーチャルの世界では、鋭い目をしていると思ったけど、現実の彼の目は優しい。物腰も仕草も何をとってもかっこいい。俺は彼を目標に彼みたいな男になろうかと思っている。

「・・・・・・」

今日は少し疲れて見える。

「どうしたの?」

と聞いてみた。

「何が?」

「何かあったのかなあと思って」

「―地球温暖化を理由に人を、殺す為にウイルスをばら撒いた奴がいるんだけど・・・・・・」

「ウイルスをばら撒いたって?」

「うん。殺傷率90%のウイルス」

「誰がそんな事したの?」

「長谷川徹という人だよ。・・・・・・そういう事をした人は死刑かなあ」

「死刑だよ、そんな奴」

「ストレートに裁くね」

「当たり前じゃん」

「当たり前か・・・・・・」

そう高野さんは溜息混じりに呟いた。

「変な質問したね、じゃ、僕帰るから」

高野さんはそう言うと去って行った。







 彼をどう裁くか、ここ一週間そのことばかり考えしまい、どうも駄目だ。なんでこんな事を引き受けなくてはならないのだろう。迷惑だ。

「・・・・・・」

彼がどう言う人物だったか調べる為、ホルスに検索してみた。

長谷川徹 1980年1月20生まれ・・・・・・年上かと思ったら年下か。

T大の医学部の教授。いわゆるエリートだな。しかし、地球温暖化の為に人殺しをするなんて、子供の意見だ。なんでこんなに頭がいいのにこんな事考えたんだろう。しかも数人が協力した奴がいるのだから、異常だ。ん、何だこれは、死亡推定日ってのは2050年10月頃ってあと半年じゃないか。他の人もこんなのわかるのかな。

「・・・・・・」

僕のもわかるかなあ。後で調べてみよう。

事件発覚後に本人がコメントしている映像がある。

「・・・・・・」

よし見てみよう。・・・・・・お、今より随分若いな、髪が黒々している。

「僕は悪くない。こういう事をさせた世の中が悪いんだ」

彼は髪の毛を振り乱し叫んでいる。無茶苦茶だ。同情の余地無しだな、これは。

―やっぱり死刑かなあ。どうして僕が判断しなくちゃいけないんだ。皆で決めればいいじゃないか。

「――」

そうだ。いい考えを思いついたぞ。そうだよ、そうすればいいんだ。我ながらいい考えだ。

「・・・・・・」

この事を伝えるために、僕は白薔薇園に向かった。







「えっ?」

と長谷川は聞き返した。

「だから、死ぬかどうかは自分で判断して下さいと言ったんです」

「―そんな事言われても困ります。死刑なら死刑と言ってくださいよ」

「―自分で決めてください。自分で判決を下して下さい」

「そんな判決間違っている。頼むから死刑にして下さい」

長谷川は、すがる様に僕の両腕を握り締めた。

「もう決めた事です」

僕はその手を振り払い、その場を離れた。

「待って、待って」

と長谷川の追いかける声が聞こえる。僕は足を速めた。

「そんなの酷い、酷いよ」

嘆きの声が聞こえる。僕は長谷川の一番嫌がる答えを、突きつけてしまったようだ。白薔薇園を見渡せる所まで歩くと、僕は振り返った。もう追いかけて来ない様だ。

「・・・・・・」

白薔薇園に一筋の煙が上がる。どんどんとその煙は広がり、白薔薇園を染めていく。その中心にいるのはおそらく長谷川だ。

「・・・・・・」

僕は彼がどうすべきなのか、答えを見出したのだと感じた。

花の中で死を迎える――死刑よりも残酷な事をしてしまったのだろうか、それとも幸せな死に方だったのか。・・・・・・僕は複雑な気持ちで燃える白薔薇園を見つめた。







「あんな裁き方でよかったのかな」

僕は葉山に尋ねてみた。

「上等だよ。君がその事で悩む事はないよ」

「そうかな」

「そうだよ」

葉山にそう言ってもらうと、ちょっと安心するな。

「それと聞きたい事があるんだけど」

「なんだい?」

「死亡推定日って本当にその時期が来たら死ぬわけ?」

「だいたいは的中してるよ。時期が来る前に事故死するとか、自殺しなければね。・・・・・・それがどうした?」

「僕の死亡推定日は今年の7月頃ってなってたけど、・・・・・・僕は死ぬの?」

「調べたのかい?」

「うん」

「そうか」

葉山は下を向いた。

「自然に老衰みたいに死ねるよ。・・・・・・電池が切れたみたいに眠る様にね。」

「延命は出来ないの?」

「無理だね」

彼は非情にそう答えた。







死を待つ日々が始まった。まるで死刑を待つ囚人のような気分だ。僕はなるべく穏やかにこの日々を過ごそうと決意した。畑で土いじりをし、冷凍仮死の人々を全て目覚めさせたり、とても穏やかに過ごした。

けれどもそんな日も終わりを告げる日が近づいてきた。

――明日から7月だ。







「本当にこれでいいのかい?」

葉山が心配そうに訊ねてきた。

「ああ」

僕は何の不安も無い顔で答えた。

僕の死亡推定日は7月頃となっていた。今は7月の半ばもういつ死んでもおかしくない時期だった。僕は冷凍保存を望んだ。生きたまま液体窒素に浸かるというわけだ。

「何でこんな事を望むんだよ。死にに行くようなもんじゃないか」

雪村が嘆いた。

「違うよ。再び目覚める為に今眠るんだよ」

「そんな、そんなのってないよ」

雪村の目に涙が浮かぶ。

「男だろ。泣くなよ」

僕は雪村の頬に伝う涙を拭ってやった。

「そんな事言われても、涙が出るんだもの」

「――さようなら、また会う日まで」

僕は再び目覚める時を楽しみに眠る。最初の冷凍仮死の時には絶望と共に目を閉じたが、今度は違う。僕の胸は希望に満ち溢れている。

「――」

眠り薬が効いてきたようだ。・・・・・・ああ静かだ。

――色だ。色が見える。ああなんて綺麗なんだろう。まるで僕の未来を輝かしく照らしているかのよう。

――なんて色だ。なんて素晴らしいんだろう。僕は幸せな気持ちでその色の中で眠りについた。





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