第十一話
毎週月曜日と木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
AFTER THAT
「目覚めさせたのは、間違いだったのかなあ」
と僕は葉山に聞いてみた。
「さあね。けど、あのままにしておけば、眠ったまま死ぬ事になっていただろうね」
「なんか自信なくしたな・・・・・・最初から出鼻を挫かれた感じだよ」
「バーチャル体験なんてなくして、普通に目覚めさせたらいいのに・・・・・・。現実世界に戻る時、あんなに怖がっていたのに」
「その方向性も考えておくよ」
葉山はうんうんと頷いて見せた。
「それよりも、今日は君に是非とも会わせたい人がいるんだ」
「誰?」
「これから案内するよ」
◇
「長谷川徹です、よろしく」
その老人は白薔薇園にいた。彼は薔薇を手入れするのが仕事らしい。
「なぜ、日本は鎖国状態に陥ったか、この人に聞いてみてよ」
葉山はそう僕に耳打ちして帰っていった。
「・・・・・・」
長谷川さんは、黙々と仕事を続けている。
「・・・・・・」
なんかやだな、この沈黙。
「あの、綺麗ですね。この白薔薇」
「この薔薇は、特別なのですよ」
長谷川さんは静かに微笑んだ。
「この薔薇の根が、ある男が開発したウイルスに効くんですよ」
「ウイルスって?」
「ある男がばら撒いた殺傷率の高いウイルスの事ですよ。生存率10%・・・・・・恐ろしいウイルスでした。これが日本中に人から人へ感染して広まったのです」
「ああ、それで日本は鎖国状態になったんですか?」
「そうです。そして、この白薔薇を元に特効薬が作られたのですが、これを服用すると、今度は生殖能力が落ちましてね」
「今では子供が20人程しかいません」
どうりで、子供の姿が無いと思ったら、そういう事か。
「でも、新しく薬が開発されましてね。最近ようやく使用され始めました」
「そうなんですか」
「今度の薬は副作用無しだそうです」
「この薔薇を育てる必要も無くなりました・・・・・・。もうこの仕事も無くなるでしょう」
長谷川さんは寂しげに呟いた。
「・・・・・・」
僕は長谷川さんに掛けてやる言葉も無いままに、彼が立ち去るのを見つめていた。
◇
「ウイルスをばらまいたある男が誰かって?彼に聞かなかったのかい?」
葉山は驚きの声を上げた。
「なんとなく聞きづらくなってしまって・・・・・・」
「あの男もはっきり言えばいいのに」
葉山は早口で愚痴をこぼした。
「いいかい。ある男ってのは、長谷川の事だよ。ウイルスを作り、日本中にばら撒いたのは長谷川徹、その人だよ」
「ええっ!本当に?」
全然そんな風に見えなかったけど・・・・・・。
「でもなんで自分のした事なのに、ある男なんて言ったんだろう」
「さあね。その様子だと、ほとんど事実を教えてもらってないみたいだね」
まったく、と葉山は深いため息をした。
「2030年に長谷川徹ら数名により、ウイルスをばら撒かれた日本は、鎖国状態になった」
「なぜウイルスなんてばら撒いたんだろう」
「それは本人に直接聞いてごらんよ。どう答えるかね、ふん」
と葉山はせせら笑った。
「あらかじめ作られた特効薬により、長谷川ら数名は命を取り留める。長谷川は世界中にウイルスをばら撒くつもりだったけれど、それは阻止された。仲間の裏切りによってね。仲間の一人が、警察に告発したんだ。長谷川の目論見はあと一歩のところで警察に捕まるといった事態になったのさ。それから、特効薬は一般に広められた。この特効薬には、副作用があり、生殖能力が著しく衰えた。その為、人口は激減し、元から少子化だった為、子供も20人程度しかいなくなった」
葉山は険しい顔になって話を続けた。
「しかし、最近になって、新薬が発明された。ようやく、鎖国をしないですむようになったよ。・・・・・・長かったよ、本当に」
葉山はしみじみと言葉を吐いた。
「何であんな事件を起こしたのに、死刑とかにならないの?」
「それは、彼がウイルスを一番知っている人物だからだよ。いままで変幻自在のウイルスを解明出来なかった為、彼に特効薬を作ってもらっていたけど、新薬が出来たんだ。ようやく彼を裁けるときが来たんだよ」
葉山はふふと笑った。
「長谷川徹を裁くのは高野、君だよ」
「えっ?」
「彼が君に裁いて欲しいと言ってね、本人たっての希望なんだよ」
「そんな、僕がする事じゃないでしょ。被害に遭った人達とかがするべきだよ」
「皆死刑を望んでいるよ」
「それなら、それでいいじゃないか」
「ま、考えといてよ。彼を死刑にするのか、どうなのか」




