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第一話

毎週月曜日と木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。

                 1stステージ




僕の病気は血液の病気で、余命3ヶ月と宣告された。医者は二つの選択を僕に示した。一つはこのまま死を待つ事。もう一つは、冷凍仮死状態で、この病気に効く特効薬が作られるのを待つという方法だ。迷わず僕は冷凍仮死の方を選択した。自分の寿命が尽きるのが先か、新薬が作られるのが先か。いちかばちかの賭けだった。

―こうして僕は、自殺するように眠りについた。




                  第1日目




 「おはようございます、高野さん」

暗闇の中で女の人の声がする。薄目を開けると、軽く光が入ってきた。

「ご気分はいかかですか?」

その声にようやく目が冴えた。

・・・・・・女の人が目の前にいる。黒髪がサラサラして、人形みたいな表情と瞳の人だ。

「手足の痺れなどありますか?」

「手足の痺れは無いけど・・・・・・ここは何処です?僕は確か冷却室に入って眠っていたはずなんですが・・・・・」

「ここは医務室です」

「すると、特効薬か治療法が見つかったという事ですか?」

「そうです。あなたは病気を克服したのです」

そうか、僕は生き延びることが出来たのか。・・・・・・あれからどれくらい経っているんです?」

「50年が経ちました。今は2050年ですよ」

「50年・・・・・・」

僕はその時の長さに眩暈を覚えた。

それにしては…僕は声とか若くないか?冷却室に入っても、年は取ると説明を受けたんだけど。

「鏡ありますか?」

「ええ、どうぞ」

女の人は、鏡を引き出しから出して渡してくれた。

「―」

年を取っていない、あの頃のままだ。

「・・・・・・年を取ってないけれど、50年経つと若さも自由に手に入るんですか?」

「ええ、表面上ではそうです。でも、見かけは若くても、あなたの身体は老人と同じです。姿が若いからと言って、無茶はしないで下さい。骨とかがかなり弱っているのですから」

「あ、そうなんですか」

美容整形にかかったようなもんかな、ようは。

「ええ、気を付けて下さいね」

と女の人は、にこやかな瞳を向けた。そう言う彼女の瞳は笑っていなかった。僕はふとその表情がぎこちない事に気付いた。・・・・・・この人良く見ると、人形みたいだ。まさか、アンドロイドだったりして。・・・・・・まさかね。僕は思わず聞いてみる事にした。

「あの・・・・・・」

振り向くとさらリと黒髪が揺れる。

「なんでしょうか?」

うん、確かに人じゃない、肌がゴムみたいだ。

「もしかして・・・・・・失礼かもしれないけど、あなたはアンドロイドですか?」

「よくお分かりになりましたね。そうです、私は人に造られたアンドロイドです」

「本当に?すごい未来って本当にすごい!」

僕は思わず声を上げた。人間とほとんど変わらないじゃないか、このアンドロイドは。

「他にも驚く事がありますよ」

そう彼女は言うと、眼鏡を差し出した。眼鏡だ、ちょっとだけ水泳選手が付けるようなのに似ているけど。

「何ですか?これは」

「いいから一度掛けてみて下さい」

「―」

僕はおそるおそる掛けてみた。

「―?」

何も変わらない。アンドロイドが僕の背中あたりからコードを取り出すと、眼鏡に差し込んだ。ブゥ・・・ンという音と共に、あらゆるものに対して文字が、あちこちに表示される。

「すごい、なんだ?これは」

アンドロイドに目を向けると、“ツジ2型キョウコ”と表示されている。

「あなたの名前はキョウコと言うんですか?」

「そうです」

「すごい!本当にすごい」

ぼくは興奮気味に叫んだ。

「それだけじゃないくわよ」

と別の声がしたので、振り向くと、ぬいぐるみがノコノコ歩いてきた。

「もっと未来はすごいくわ」

大きさは膝までしかない。目はぱっちりして、くちばしはでかい。手か翼か分からないがパタパタと動いている。

「―このロボットは、ペンギン?それとも鳥?」僕がアンドロイドに訊ねると、

「失礼くわっ!くわは鳥くわ」怒ったような声で唸り、翼をパタパタさせた。

「鳥?これが?」

と僕が聞き返すと、

「ムキーッ!ムカツクくわ。鳥くわっ!くわは鳥くわ」

と更に怒りをあらわにした。

「このロボットはPHR130・モリシタ・コング・シバタ・ファロン・ディーファと言います」

「長い名前ですね。」

「開発に携わった人の名が全て入っているのです」

「しゃべる時にくわくわと語尾に付けるので皆様は『くわ』と名づけている様ですが」

「不本意くわ」

「ふうん。じゃ、おまえの名は『くわ』と呼ぶ事にするね」

「駄目くわ!ちゃんとした名前で呼べくわ。PHR130でもいいくわよ」

「『くわ』でいいよ、呼ぶの楽だし」「くわーっ」くわは、叫び出した。「『くわ』と言ったら『くわ』」と僕は念押しした。

「・・・・・・もいいくわ、それでいいくわよ」

くわは拗ねた様にうつむき落ち込んでいる様だ。僕は可笑しくなって、笑った。なんだかこのくわというロボットは人を和ませる何か持っているようだ。

「冷凍仮死をされていた方には、社会に馴染むようロボットを一台必ず付けてもらうのが法律で決められております。このPHR130か、私ツジ2型か、あと男性型アンドロイド、ナサテB型がございますが、どのロボットを選ばれますか?」

「―うーん。じゃこのくわで」

「くわでいいくわか?」

くわは、嬉しそうにピョンピョン飛び回った。

「うん」

そう僕が返事すると、くわは更に飛び跳ねたり、翼をパタパタさせて喜んだ。

「服を決めて下さい。あなたの時代だと、ここ辺りがよろしいかと思います」

キョウコさんが、僕を鏡の前に立たせた。チェックの長袖に、中にTシャツ、下はジーンズ。こんなもんかな。

「眼鏡を外してみるくわよ」

「えっ、なんで?」

「いいから早くするくわ」

言われたとおり外してみると、薄荷色(ペパーミントブルー)の涼しげな色の服が体にぴったりフィットしている。

「これが本来の服の姿くわ。眼鏡を掛けているから、普通の服を着ているように見えるくわ。もう一回掛けてみるくわよ」

くわに言われて眼鏡を再び掛けると、チェックの長袖にジーンズ姿だ。足元を見てみるとスニーカーも履いている。すげいなあ、未来って。

「これでよろしいですか?」

「―うん」

「あと、手袋をつけて下さい。これで眼鏡の操作が出来ます。最初にこのシステムを起動させるポーズを決めて下さい。ポーズによってシステムが起動しますから」

「ポーズと言われても・・・・・・皆はどうしてるんです?」

「親指を立ててみたり、Vサインで立ち上げてるみたいですが」

「ふうん、じゃ親指立てるのでいいかな」

「では登録しますので、ポーズをとってみて下さい」

「こうかな?」

僕は親指を立ててみた。

「OKです」

「ではもう一度ポーズをとってみて下さい」

言われるままにポーズをとると、『Hayama On Line System』と表示されると、パソコンの画面のようなものが立ちあがった。

「この眼鏡と手袋の事を、Hayama On Line Systemの頭文字からHols、ホルスと呼んでます。」

「へえ、ホルスっていうんだね」

「・・・・・・何が出来るの?」

「SNS、メール、買い物、電話、ナビゲーション、ゲーム等が出来ます」

「メールってどうやるの?」

「メールは,メールと表示された所を、手袋で触れてみて下さい」

「こう?」

すると目の前にキーボードが出てきた。

「そのキーボードで文字を打ち、送信するだけです。もしくは、声で文章を書くことも可能です。今では文章より声だけしか使わない場合が多いですね」

「ふうんすごいなあ、これって」

「それでは、PHR130を連れて自分の部屋に行って下さい」

「自分の部屋?」

「ええ、あなた方の時代の部屋より、少し狭いので窮屈かも知れませんが・・・・・・」

「とにかく行ってみましょう。高野さんPHR130を抱いて下さい」

「え、なんで?」

「歩くのが遅いので時間が掛かりますよ」そう言われてくわを振り向くと「くわ?」と不思議そうに僕を見上げた。

・・・・・・確かに歩くのは遅そうだ。

くわを抱き上げてみた。思ったより軽い。ぬいぐるみと同じくらいだ。

「私も最初だけ説明に、参加させていただく為、ご同行します。よろしいでしょうか?」

「ああ、いいですよ」

「早く行くくわよ」


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