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5・乗り越えるためにぶっちゃける二人

最終話なので少し長めです。


 王子と公爵令嬢は、お互いにそれぞれの休暇を楽しみ、十日ほどして王都への帰路に着いた。


帰りの馬車の移動中、二人は気付くと何故か寄り添って仲良く喋っている。


護衛や侍女も微笑ましく見ていた。


 もうすぐ王都に到着するという前日の夜、宿で夕食の後のお茶を頂いていた時だった。


王家御用達の宿は一室が広く、王子の部屋では侍女たちも下がり、護衛の騎士が扉の前に立っているだけになる。


「その、話があるんだが」

 

「なんのお話でしょう?」


二人掛けの長椅子で隣に座り、二人とも手が届きそうな状態にソワソワと落ち着かない。


王子は令嬢の顔をまともに見られず、少し顔を赤くして目を逸らしている。


「何か言いたいことがあるなら仰ってくださいな。


もう、男ならハッキリせーよ」


ボソリと小さな声が溢れる。


お互いに言いたい事を言い合ったせいか、あれから令嬢の心の声がだだ漏れになった。


遠慮がちだった婚約者が親しい存在になった証拠だと、王子はどこか嬉しそうだ。


何かに目覚めてしまったのだろうか、と令嬢は少し心配になる。



 

「実は、今までのことは父王と公爵殿が計画したことなのだ」


「え?」


令嬢はポカンとした。


 王子は今年、成人の十五歳となり色々と父である国王陛下と話をする機会が増えたそうだ。


「私は幼かったキミを傷付け、怯えさせたことに責任を感じていた。


そう話したら、私の両親とキミの両親が考えてくれたんだ」


実は国王夫妻と公爵夫妻はとても仲が良い。


しかし、こと国政においては対立関係のほうが都合が良いと考えたそうだ。


国民や他の貴族からの王家に対する不満を公爵が拾い易くなるからだ。


表向き、公爵家と王家とは対立を演出しているため直ぐにとはいかなかったが、なんとか婚約にこぎ着けたのである。


 思い返せば、令嬢は聞いたことがあったと思い出す。


公爵家と王家との間では、昔から子供が産まれたら結婚させよという約定があったそうだ。


今までは年代が近い子供がいなかったため果たされなかった。


その約束を果たすために無理矢理、自分たちの婚約が成されたと周りから聞かされ同情されていたのである。


しかし、それも芝居だったのか。




 王子の話は続く。


「師匠が、私には剣術の才能があると父王に進言してくれて」


王子には下に弟が三人もいるため無理に王太子にならなくても問題はない。


「だから、私は、その、王家の近衞騎士よりも公爵家の騎士団に入りたいと思ってだな」


将来、公爵家の婿に入ることもあるかもしれない。


そう思って領地を視察し、師匠に許可をもらうための遠出だったという。




 令嬢は、ただただ驚いている。


「父上様も承知の上だったなんて。


では、わたくしがこの一年、王宮で受けて来た厳しい王妃教育は何だったの」


と顔を歪めた。


「あれは、その、公爵家からの要望もあって」


あまりにも怖がりで引っ込み思案な娘の将来を心配した両親が、社交教育を王宮に頼んだらしい。


大事な愛娘を外に出すにも一番安全な場所で、とのことだったそうだ。


(あー、公爵家と王家が通じていたなら、侍女たちも仲間だわね)


令嬢はやっと腑に落ちた。


どんなに辛くても居心地良く過ごさせてもらっていたのは、公爵家の者たちだけのお蔭ではなかったのだ。




 それでもまだ令嬢には分からないことがある。


「どうして今頃になってそんな話を?」


このまま何事もなければ普通に二人は結婚するし、後継はその時に発表してもいい。


今この時にする必要は無いのではないか、と令嬢は不思議に思う。


 殿下は少し顔を赤くした。


「それは、全くキミの言う通りなのだが」


元々王族として凛とした態度の王子だが、姿勢を正して真っ直ぐに令嬢を見る。


「私は王都に戻ったら父王の前で堂々とキミと結婚して、正式に公爵家に婿入りすると伝えるつもりだ。


そうすれば、もっと近くでキミを守れる」


そう言って令嬢の手を握った。


 いきなり距離を詰められ、公爵令嬢は目を丸くする。


「殿下!?」


「キミの悪夢が私の『婚約破棄』だと聞いて胸が震えた。


キミが夢を見るほど私のことを気にかけていてくれて嬉しい反面、苦しませていることに気付かず申し訳なく思う」


だから。


「本物の恋人同士になりたい」


王子の顔が近付く。


「ヒッ」


令嬢が怯えた顔を見せる。


「す、すまない」


王子は慌てて彼女から離れた。


(まだ早かったか)


王子は、また愛しい令嬢を怖がらせるところだったと自分を戒める。




 それから、令嬢は考え込む様子を見せた。


「それでは殿下、わたくしたちは同志ということでよろしいでしょうか」


王子は一瞬固まったが、しばらくして頷く。


「そ、そうだな。 そこから始めようか」


すでに婚約者なのに『友人』は違うだろう。


王子は「友人より同志のほうが特別な感じだ」と気に入ったようで、令嬢はホッとする。


恋人というより性別を越えた同志という言葉を選び、令嬢は貞操の危機を免れた。


(父上様と母上様には今までわたくしを騙していたお詫びとして、何かおねだりいたしましょう。 楽しみだわ)


何故か、令嬢はニヤリとした笑みを浮かべていた。




 王宮に戻った若い二人は両親と話し合いを重ねた。


すべては大人たちの思惑通りなのだろう。


見つめ合い、微笑む二人を国王夫妻も公爵夫妻も祝福する。


「わしらもお前たちの幸せを願っているのは同じなのだよ」


王家と公爵家の関係は今更、良好などとおおやけには出来ないが、無事に王子の婿入りは内定した。


令嬢は家に戻り、今後は公爵令嬢としての社交に励むことになる。




 しかし数日後、令嬢はまた王宮に来ていた。


「殿下、何か御用でしたか?」


大切な用事だと王子に呼ばれたのである。


部屋でお茶を出された後、人払いをされた。


「んー」


王子は迷っている。


「はっきりしないのは殿下の悪い癖ですわよ。 いったい何故、わたくしを呼んだのです?」


案外、この令嬢は気が短い。


「実は紹介したいモノがいるんだ」


今まで見たことのない、はにかむ姿に令嬢は首を傾げる。


「キミを驚かせてしまった魔獣の子供が成長してね」


「ああ、あのトカゲ魔獣ですか」


日頃は王宮の庭にある森で飼われているそうだ。


「そうだよ、アレもキミのことは覚えていてさ。


驚かせたことを気にしていたよ」


卵から育てたせいか良く懐いていて、考えていることも分かる仲だという。


「私の一番の友だが、キミが悪夢を見るほど苦手なら、あの子には一生会わせないつもりだった。


だけど、キミが思ったより魔獣が苦手ではないと分かったので紹介しておきたい」


と、王子は立ち上がり、庭に面した大きな窓を開く。


「 王都ではそろそろ面倒を見れなくなりそうなんだ。


でも公爵領の外れの森なら放し飼いも出来るとわかった」


婿養子に入ったら飼っている魔獣も連れて行きたい。


森の視察はその確認でもあったらしい。




 令嬢は小さな魔獣を思い出す。


もう自分も十三歳である。


あの小さなトカゲくらい、好きになってみせよう。


令嬢はニコリと微笑んだ。


「あれくらいの大きさならー」


と、言い掛けた令嬢が王子が身を乗り出した先に黒い影が舞い降りるのを見た。


「ヨシヨシ、お前も会いたがっていたからな」


王子が部屋の中を振り向くと、令嬢が目を剥いている。


「……ド、ドラ、ゴン……」


王宮の建物ニ階に届く大きさの、翼のある龍。


「まだ子供なんだ、可愛いだろう?」


この世界で最も恐ろしい魔獣と、満面の笑みの婚約者。


王宮に令嬢の悲鳴が響いた。




 え、結婚?。


上手くいきますかねぇ、この二人。



       〜 完 結 〜



お付き合いいただきありがとうございました。


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