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二人の物語 〜王子様と公爵令嬢の婚約〜  作者: さつき けい


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2/5

2・王子は心置きなく婚約者を愛でたかった


 この国の第一王子である私は十五歳になった。


「おはよう」


「おはようございます」


婚約者である公爵家令嬢とは朝食を一緒にとることにしている。


 二つ年下の彼女は、一年前に婚約してからは同じ王宮内に滞在していた。


ゆるふわな巻き毛の金髪も、白い肌も、宝石のようだといわれる緑の瞳も、全てが愛らしい。


自分の灰茶の瞳や黒に銀色が混ざる硬くて短い髪とは正反対だ。


 私は毎日、令嬢より先に来て朝食の席に着く。


同じ王宮にいても気軽に会うことなど許されない。


王子とは厄介な立場だ。


「いつもお早いこと。 殿下はそんなに早くわたくしに会いたいのでしょうか?」


令嬢の言葉に私は即答する。


「ああ、(君に会うのが楽しみで)仕方ないからな」


愛しい婚約者との短い逢瀬、絶対に逃すものか。


「さようですか」


淑女らしく冷静な彼女を見ているだけで、ニコニコと顔が緩んでしまう。


どんなに豪華な料理も彼女の前では霞む。


早く二人っきりになりたいものだ。


「食後に散歩など、どうかな?」


婚約者なのだから親睦を深めたいと、直接私から提案する。


「……かしこまりました」


この一年、いつも侍女に伝言を頼んだり手紙を託したりしていたが、彼女からはあまり良い返事をもらったことがない。


今年から私も成人だ。


これからは積極的に出るつもりである。




 彼女は一旦部屋に戻り、朝食用から散歩用のドレスに着替えるらしい。


女性というのは大変だな。


「お待たせして申し訳ありません」


おお、我が婚約者は何を着ても愛らしい。


「いや、(女性の支度を待つ時間など)別に気にしない」


一緒にいられるなら何時間でも待つよ。


 爽やかな初夏の風が吹き抜ける庭を並んで歩く。


手を繋ぎたいけど、何となく恥ずかしくて言い出せない。


「良い天気だ」


無難な会話しか出来ないなんて、私は臆病者だな。


「ええ。 でも、こう晴れ続きでは干ばつが心配になりますわね」


南の穀倉地帯の水不足は知っているが、彼女がそれを口にするとは思わなかった。


「……キミは何でもよく知っているな」


こういう聡明なところも好きだ。


「あら、殿下ほどではございませんわ。 先日の魔獣被害のお話など、とても詳しくて驚きました」


私は魔獣好きで昔から色々と研究しているので、誰よりも詳しいと自負している。


「あ、ありがとう」


認めてもらえて嬉しい。 いや、マジで。




 私が身体を鍛えているのは、彼女を自分の手で守りたいからだ。


幼い頃、彼女と初めて会った時、私は張り切って魔獣の知識を語った。


「実は魔獣を飼っているんだよ!」


と、手のひらに小さなトカゲ魔獣を乗せて見せた。


「キャーーーッ!」


当時の私は、令嬢はこういうものを好まないのだと知らなかったのである。


 彼女が寝込んだと聞いて落ち込む私を、近衞騎士の一人が、


「なあに、殿下が強くなって、魔獣から守って差し上げればよろしいのですよ!」


と慰めてくれた。


私はその騎士に無理を言って弟子入りし、メチャクチャ鍛え始める。


 しかし三年前、その騎士は近衛騎士団を辞めることになった。


別れの挨拶に来た騎士は、私にそっと囁いた。


「殿下、公爵閣下の領地は魔獣が出るということをご存じですか?」


「え、ほんと?」


師匠はその公爵領で騎士団長になるそうだ。


その時は「なんて羨ましいんだ」としか思わなかった。




 侍従と侍女たちがお茶の用意をしている庭の東屋あづまやいざなう。


向かい合って座るが、俯きがちな彼女とはなかなか目が合わない。


せっかくの機会だ、何か話さなければ。


「キ、キミは公爵領に出るという魔獣を見たことある?」


公爵領は魔獣の棲む森が近い。


「申し訳ございません。 わたくしはまだ領地におもむいたことがございませんので」


そういえば彼女は王都生まれの王都育ち。


怖がりなので、公爵も領地には連れて行かないらしい。


 でも、私は行ってみたい。


「そうなのか。 申し訳ないが、キミから公爵殿に私が領地を訪れる許可をもらえないか訊ねて欲しい。


出来ればキミも同行してくれると嬉しいが」


私の願いに彼女は動揺を見せた。


やっぱり魔獣が怖いのかな。


「……父上に手紙を出しておきますわ」


「うん、よろしく頼む。 私から何度もお願いしているのだが、良い返事がもらえなくてな」


公爵領にいる師匠にも会いたくて何度か手紙のやり取りはしているが、まだ許可は出ない。


愛娘からのお願いなら何とかなるのでは、と期待する。


さっそく午後、その手紙を送ってくれるそうだ。


やはり彼女は優しいな。




 翌朝、朝食時にさっそく「手紙は出してもらえただろうか」と訊いてみる。


「はい」


「お嬢様、公爵家からお手紙が届いております」


ちょうど返事が届いたらしい。


食後のお茶を飲みながら、私はワクワクして待つ。


 しかし彼女は文面を読んで固まっている。


「良くない返事か?」


「い、いえ。 わたくしが殿下と同行するというのであれば許可する、と」


「おお、やはりキミに頼んで良かった!。 すぐに予定を立てよう」


立ち上がった私に、彼女は冷静に声を掛けてきた。


「殿下、差し出がましいようですが、国王陛下にもきちんと許可を取ってくださいましね」


「ああ、(キミも楽しみなのだと)分かっている」


心配しなくても、きっと大丈夫だよ。


キミのことは私が絶対に守るから。




 夕方には許可が下り、私は彼女の部屋を訪ねる。


「さっそくだが、一月ひとつき後を予定している。 楽しみだな」


「分かりました」


何だか諦めたような笑顔だけど、気のせいだよね。


うん、たぶん、きっと。


 準備期間のひと月は長いようであっという間だった。


出発前夜。


父王からは「ちゃんと婚約者を守るのだぞ」と釘を刺された。


「もちろんです、陛下」


母である王妃は、浮き足立つ私にため息を吐いた。


「守る、の意味には色々あるのよ。 いくらあなたが成人したからといっても、相手のご令嬢はまだ十三歳。


節度は守りなさい」


あー、そうか、そっちの問題もあるのか。


初めての二人だけの遠出になるのだから。


「わ、分かりました」


私は顔が熱くなるのを感じた。



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