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1・公爵令嬢は体に悪いので婚約したくなかった

息抜き用の短編です。

ゆるっとお楽しみください。


 怖かった。


怖くて目が覚めた。


「お嬢様、どうかなさいましたか?」


声をあげてしまったらしく、別室で番をしていた女性の護衛が私の部屋に入って来ている。


「だ、だいじょぶ、でしゅ」


噛んだ、やだ、十三歳にもなって恥ずかしい。




 今日もまた、あまり眠れないまま朝が来てしまった。


「お嬢様。 お支度を」


「ええ」


十二歳の誕生日に公爵家の一人娘であるわたくしは、この国の第一王子と婚約させられた。


両親も大反対だったのに国王陛下に押し切られた形だ。


それから、わたくしは王宮に部屋を与えられ、王族に嫁ぐ者として教育を受けている。


わたくしの身の回りの侍女や護衛は公爵家から来てもらっているけど、あれから一年が経つ。


やだ、もう帰りたい。




 王宮の人たちは信用出来ない。


「気を付けるのだぞ」


王宮で暮らすことが決まった時、父上様は苦い顔でおっしゃった。


王家が公爵家を潰そうとしているのは貴族の間では有名な話。


公爵家は元々は王位を継がなかった王族の家系で、国王や王位継承者に何かあった場合には代理を務めることになっている。


それを「王位を狙っている」と誰かが国王陛下の耳に入れたようなの。


馬鹿馬鹿しい。


国王がしっかり仕事をしていれば良いだけの話なのに。


 建前では第一王子の婚約者は名誉な話だけれど、わたくしは一人娘。


わたくしが嫁げば、公爵家は別の家系から養子を迎えて跡取りにしなければならない。


王家はそこに付け入る隙を狙っているのでしょう。




「おはよう」


「おはようございます」


今日も殿下と朝の挨拶ぐらいは普通にする。


わたくしは、ゆるふわな巻き毛の金髪に白い肌、公爵家伝統の宝石のようだといわれる緑の瞳。


十五歳の王子は、明るい灰茶の瞳、黒に銀色が混ざる直毛の短髪。


スラリとした体型だけどしっかりと鍛えられた筋肉が付いていた。


 その王子殿下は何故か毎朝、先に食堂に来て席に着いている。


給仕が淡々と配膳を始め、わたくしはそれを見ながら嫌味混じりに話し掛けた。


「いつもお早いこと。 殿下はそんなに早くわたくしに会いたいのでしょうか?」


「ああ、仕方ないからな」


「さようですか」


ニコニコ顔の王子が不気味で堪らない。


どんなに豪華な料理も味がしないわ。


早く部屋に戻りたい。


「食後に散歩など、どうかな?」


殿下は婚約者なのだから親睦を深めたいそうで。


「……かしこまりました」


彼からの提案は断れないのを知っている笑顔がウザい。




 一旦部屋に戻り、朝食用から散歩用のドレスに着替える。


「お待たせして申し訳ありません」


くせっ毛の巻き毛だから支度に時間がかかるのよ、わたくし。


「いや、別に気にしない」


わたくしなどどーでもいいですか、あーそうですか。


「良い天気だ」


「ええ。 でも、こう晴れ続きでは干ばつが心配になりますわね」


南の穀倉地帯が水不足を訴えているのに、王子様は呑気にお散歩ですよ。


「……キミは何でもよく知っているな」


「あら、殿下ほどではございませんわ。 先日の魔獣被害のお話など、とても詳しくて驚きました」


殿下は魔獣好きで有名。


やたらと詳しくて、少し訊ねただけで延々と語られる。


「あ、ありがとう」


嬉しそうに微笑む。 いや、褒めてないし。


 殿下が身体を鍛えているのは、ご自分の手で魔獣討伐がしたいからだとか。


行けるわけねーだろ、一国の後継予定の王子が。


全力で周りが止めるわ。




 庭の東屋あづまやに王子付きの侍従と侍女たちがお茶の用意をして待っていた。


向かい合って座ると目の前にお茶とお菓子が並ぶ。


朝食をいただいたばかりなのに手が伸びる。


「キ、キミは公爵領に出るという魔獣を見たことある?」


「申し訳ございません。 わたくしはまだ領地に赴いたことがございませんので」


うちの領地の近くには魔獣が棲むという森があった。


何故、そんな所に公爵領があるのか。


嫌がらせにもほどがあると思う。




 現在の公爵領は我が家の騎士団長が父上様の代理として赴任し、治めている。


元王宮の近衞騎士で、恐ろしく強い脳筋のおじ様騎士団長は、平和過ぎる王都がお嫌いらしい。


嬉々として魔獣狩りにいそしんでいると聞いていた。


「そうなのか。 申し訳ないが、キミから公爵殿に私が領地を訪れる許可をもらえないか訊ねて欲しい。


出来ればキミも同行してくれると嬉しいが」


はあ?。 お茶吹きそうになったじゃない。


片道五日も掛かる領地まで魔獣を見に行きたいの?。


「……父上に手紙を出しておきますわ」


却下でしょうけど。


「うん、よろしく頼む。 私から何度もお願いしているのだが、良い返事がもらえなくてな」


そっちからも出してたんかーい。


公爵がウンと言わないから愛娘のわたくしから頼め、と?。


約束させられたので、仕方なく午後からその手紙を書いて送ったわ。




 翌朝、朝食時にさっそく殿下は「手紙を出してもらえただろうか」と訊いて来る。


「はい」


とりあえず出しましたよーっと。


「お嬢様、公爵家からお手紙が届いております」


えー、こっちに持ってこなくてもいいのに。


食後のお茶を飲みながら、殿下はワクワクした顔でこちらを見ている。


 中身の文面を読んでわたくしは固まった。


『二人で行くならば許可する』


えっ、父上様、正気ですの?!。


「良くない返事か?」


わたくしの表情に不安を覚えた殿下が眉を寄せた顔で訊いてきた。


「い、いえ。 わたくしが殿下と同行するというのであれば許可する、と」


「おお、やはりキミに頼んで良かった!。 すぐに予定を立てよう」


げっ、ちょっと待って。


「殿下、差し出がましいようですが、国王陛下にもきちんと許可を取ってくださいましね」


たぶんそこで止めてくれるはず。


「ああ、分かっている」


そんなウッキウキな顔で言われても心配しかないわ。




 ……夕方には許可が下りたそうで、殿下がわざわざわたくしの部屋までやって来た。


国王陛下、なんで許可しちゃったの。


「さっそくだが、一月ひとつき後を予定している。 楽しみだな」


うん、殿下がねー。


「分かりました」


わたくしはしぶしぶ侍女に予定を伝えた。


 それから、わたくしは父上様に恨み言を、母上様に領地での注意点を訊ねる手紙を書いた。


『地元にいる騎士団長に全て任せてある。 安心して行って来い』


父上様、あの脳筋おじ様に期待なんて出来ませんわ。


『あなたは幼い頃から臆病な子でした。 相手が婚約者だからと弱気にならず、しっかりと貞操は守るのですよ』


母上様、わたくしはまだ十三歳ですわ。


そのような心配は……さすがに無いと思いたいけれど。



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