来るはずのない君を待ちながら、入道雲を見上げる。
青々とした森の向こう、もくもくとした入道雲が佇む。
子供の頃は、君と二人で入道雲に指をさしてさ。
「わたあめみたいだね」
「僕はあの雲の向こうに秘密の城があると思うんだ」
とかなんとか、夏の度に話してたね。
幼馴染みの君。
僕の好きな人。
夏が来て、入道雲がもくもくとしてきた頃、思い出す。
君との思い出。
君の小さな影。
君の微笑み。
…今はもう見れない、可愛い君。
暑い太陽が降り注ぐ、そんな中。ふわりふわりと僕の頬を心地よい風が撫でていく。
蝉の鳴き声が、遠くの山からいくつか聞こえてくる。
額から零れた汗が一度目尻に引っ掛かり、つうっ…と、僕の頬を伝って行く。
ぼおっと、入道雲を見つめながら、いつかの君を記憶の中で見つめる。
あの時の君はもういない。
けど、僕はいつまでも君のことが好きで。
それは今も…
ひとり暑い中、木陰の中で佇む。
いつかの君を思い出しながら、来るはずのない君を待つ。
すると。
「叶翔くーん!」
君の声がして、その方を振り向くと、僕は目を見開かせた。
そこには、あの時の君がいた。麦わら帽子を被り、白いワンピースを着た小さな君。飛んでいかないように麦わら帽子を手で押さえ、ふわりふわりとスカートを揺らしながら、僕の方に向かって走ってくる。
あの頃の君が、僕の方に向かってくる。
「待たせてごめんね」
「うんん、今来たばかりだし、入道雲見てたから」
気づいたら、僕も少年に戻っていた。
遠くの山から聞こえてくる蝉の声が、さっきより増えた気がした。
「入道雲懐かしいね。やっぱ私にはわたあめに見えて美味しそうだなぁ」
「僕は子供の頃は秘密の城があるって期待してたけど…なかったみたいだね」
「ふふっ、叶翔君ももう立派な大人だね」
「そりゃあ、僕ももう二十五歳だもん。大人になってないとね」
自然と。君の手を握り、2人で入道雲を見上げる。
気づけば僕は大人に戻っていた。
───────もちろん、君も。
大人になっても君は麦わら帽子と白いワンピースがよく似合う。
けど、あの頃の可愛い君はもういない。
かわりに、美しい立派な女性に成長した君が、僕の隣に立っている。
子供の頃の可愛らしかった君も好きだし、大人になって美しくなった君も好きだ。
そして、これからもずっと、僕は君のことが好きなのだろう。
木陰の中で2人佇みながら、見上げる入道雲。
僕が君に贈った、君への永久の愛を誓った指環が、僕の手に触れる…