辺境の村にて.8
村娘のユニが、兄の遺品を引き取りたいから護衛をしてほしいと言うのは分かったけど。
だがそれは冒険者ギルドを通さなくちゃ行けないってこと。それに村の洞窟にゴブリンたちが出る調査を頼まれた。
めんどくさい気持ちもあるがトレクの名前は俺たちも聞いたこともあるので断りづらいのだ。
それにギルドにはもう渡り鳥を手配して依頼してあると言うのだ。
「いいかー?俺たちはゴブリン退治に行かないといけないから明日からは忙しいんだ!」
「それなら私も手伝うよ。ならいいでしょ?」
「ゴブリンよりやかましいお前を連れていけるか!」
「なによー!けち!」
「ふん。素人なんて連れていったら足手まといだからな」
ビールをぐびぐび飲んでドンとカウンターに置く。
もちろんそのままの意味で行ったのだが連れていけばアストリアたちの命が危険だからだ。
「……あの。ごめんなさい無理を言って」
ユニと言う村娘がぺこりと謝ると出ていってしまった。
流石にちょっとは悪いことしたかな。静かで可愛い女性だな。
アストリア視点
「ちぇっ!やっぱ性格の悪い奴だったな」
「でもゴブリン退治も大切な仕事だよ。ユニには悪いけど村のためだから」
ティリアが申し訳無さそうに言う。
それにあの洞窟は陶芸家にとっては中々の土が取れるのでティリアとしても早く退治してほしいみたい。
「やっぱ私と二人で行くかー」
「え。でも、お父さん怒らないかな?」
「あー、いーのいーの。あの飲んべえはさ!」
一人にしてしまうから甘やかして来たけどもういいだろ。私はそれなりに頑張った。家のことも手伝った。
成人の日を越えたらもう私の自由と考えるよ。ともかく私はユニのためになにが出来るか考えた。
ドカスト視点
次の日の夕方。俺たちはトレクの案内でゴブリンの住みかに来ていた。
当初は朝早く行く予定だったが二日酔いでは仕方ない。それに村娘と密会してたとも言えない。
それを聞いたトレクはにこやかに呆れた。
三人はそれを見てゾッとしたものだ。
山の中腹にある洞窟。そこに住み着いたのだ。
だるい気持ちを隠して警戒をする。気配を探るがゴブリンの気配がない?
俺は索敵のスキルを使うが魔物がいないことに気づいた。
「どうしたのドカスト?びびっちゃった?」
「アホか。ゴブリンの気配なんてしないぜ」
ヒィナはこんな時でもからかってくる。
舌打ちをしたい気持ちを押さえてトレクに説明する。
「……確かにそうですね。しかしこれは……」
トレクの気配察知にも引っ掛からない。
奥へと警戒せずに進むと死に絶えたゴブリンたちとホブゴブリンまでいたのだ。
なにかにズタズタに引き裂かれているようだ。
「うぇっ!酷いぜこれは!」
「なにがあったのかしら?」
「ちょっと魔石もないじゃない!少しは稼げると思ったのに!」
ヒィナの甲高い声が癇に触る。
ゴブリンの死体はあるもののその魔石は全部なくなっているのだ。
「これはもしかして……」
トレクは頭を抱える。心当たりを知って。
アストリア視点
その日の朝のことだった。朝から私はうきういしていた。
鼻歌を歌い。村に住む猫が忍び込んできて魚を狙って来たときも怒らずもふもふしたくらいだ。それはいつもだけど。
ユニの兄については胸を痛めたけど、 それでも明るくなってしまうのがアストリアの長所。
ダントンがうるさいいびきをかいていても許せるくらいには、明るく朝食を食べてサッと後片付けをして外へ出る。
今日も晴れ。朝から良い感じだ。一日ごとに秋が近くなる。風はもう肌寒さも混じる時もある。
村のおじちゃんやおばちゃんに挨拶した後、古ぼけた教会へたどり着く。
「師匠ー!おっはーよー!」
リズミカルにノックしてから入ると礼拝堂で祈りを捧げていたトレクはため息をつく。
「アストリア。おはよう。あなたはいつも元気ですね」
「そうだね。それしか取り柄ないし」
「アストリアには他にも良いところがありますよ」
「え?どこどこ?良いとこ迷子中なんだけど?」
わざときょろきょろするのを見てにこやかにトレクは話す。
トレク視点
「明るい所とか……明るい所とか……あ、後、明るい所とか?」
「師匠、酷い!父さんの料理より酷い!」
「ははは。でもその明るさがあるからユニもそこまで落ち込まないで済んだでしょう?」
「あー、うん。やっぱり誰かが死ぬのは悲しいよね」
アストリアは悲しく微笑む。私はそれを見て思う。ずっと前から思っていたのだが。
「……あなたも落ち込めばいいのでは?無理に明るく振る舞わないで」
「んー。でもみんなへこんだら真っ暗やみだから私だけでも明るくいたいのだよ」
えへんと胸を張る。この子は優しいなと思う。
だからこそ無鉄砲に進むアストリアに無茶をしてほしくない。幸せになってほしいと思う。
つづく