辺境の村にて.7
村を風のように駆けているとそこにはぺたりとしゃがみこむユニがいたよ。
その横にしゃがむように犬のコリンもいたので私は取り敢えずもふる。あ、いけない。そうじゃない。
「わふぅ?」
「んー、コリン。元気だねー。ユニ、どしたー?羊たちが私のとこへ呼びに来たんだけど?」
ユニはぺたんとしゃがんで今にも泣きそうだったが、私がマイペースに羊やコリンにもふもふしてるので、呆れた。
「うぇ~~~ん。アストリア~~~」
「わわっ!どうしたの!?今日のおやつは無しってこと!?」
そんなんじゃないよと思うもののユニは悲しいから上手く言葉が出てこない。
涙は羊たちが隠してくれるから村人が通りかかっても気づかないかな。
無事なのはいいけどなにがあったのかな。
しばらくして落ち着いて話してくれた。
「……兄さんが死んだの」
「……そっか」
ユニの兄は出稼ぎに出ている。魔物も出る危険な鉱山で働いてるとこへ落盤事故が起きて行方不明になってしまったのだ。その知らせが渡り鳥によって運ばれて来たのだそうだ。
渡り鳥はティマーがしつける鳥の魔獣で白いペリカンみたいだ。
それが決められたとこへ手紙を運ぶのだ。
ティマーとしても腕の見せ所で難しいので大抵の人は配達員に頼むよ。
時間がかかるがティマーよりは安くてすむ。
ユニのことを肩車して。それを見て羨ましく思ったなー。なんだか悲しくなったよ。と、そこで思う。
「ん?いやいや。行方不明なんだったら生きてるよ!」
「……でも。手紙には探しても見つからないって」
「ユニ。笑ってても落ち込んでても時間は進むんだよ。だったらへこんでもいいけど笑顔で歩こう」
「……アストリア」
ユニは、私の前向きさに苦笑する。
ユニは悪い方向に考えてしまうことがある。
でも、結果が変わらないなら良い方向へ考えた方がいい。
「よし。ならその鉱山の街へ行ってみようよ」
「ええ!?そんな急に言われても!」
「いやいや。どっちにしたって行かなきゃならないじゃん?」
ユニな親はいない。兄と共に孤児院として働き手として貰われてきたから。
唯一の肉親がなくなったから。遺品を引き取らないといけないから。
「……でも。お婆ちゃんがなんて言うか……」
「大丈夫だよ。ユニのお婆ちゃん優しいもん」
ユニを引き取ったお婆ちゃんはある街でユニを見つけて引き取ったとかなんとか。まあそんなことは気にしない。
「あ、もし。私が心配ならこうしよう。
私が洞窟に住むゴブリンを全員退治するからそれで認めてくれる?」
「いや、それ。アストリアが行きたいだけじゃない」
「いやいや。そんなことないよ?ユニのこと心配してるよ?」
ユニが元気になるためならなんだってする。
まずはユニに認めてもらおう。
私としても本気でユニのことを心配しつつも、旅に出れるきっかけになって丁度いい(不謹慎かもしれないけど)。
「ユニ!大丈夫か!」
「ユニ~~!私は悲しいよ~~!」
ティシュとティリアも羊に連れられてやって来る。
主人思いの羊たちにユニは胸が暖かくなる。
ユニに話しを聞いた後押し黙るしかない。
私はどこ行ったか分からない母親がいるが、二人はまだ肉親を失う気持ちが分からない。
「それでその鉱山の街へ行くんだろ?」
「うん。行きたいけどお婆ちゃんがいるから」
「ユニ婆ちゃんなら許してくれるよ」
「ティリア。それって私がお婆ちゃんみたいだから言い方……」
「あはは。そだね。ごめんごめん。でも一人で行くのは危険よ。ほら、私を送ってくれた冒険者たちに頼んでみたら?
性格はアレだけど仕事はちゃんとしてくれるよ」
「そうか?ティリアのこと口説きまくってたんだろ?」
胡散臭そうにティシュが言う。その通りなんだけど仲間の二人がドカストをたしなめていたので大丈夫かと思ったのだ。
「まあ、冒険者崩れ感は否めないけどね」
「ふふ」
ユニが笑ったので少し安心するティリア。
みんなも釣られて笑うけどティシュはふと気づく。
「……もしあの冒険者たちがいかないならアストリアが行くのか?」
「だねー。私も冒険したいし。取り敢えず成人の日を越えてからね」
私の笑顔にティシュはなんだか寂しそうにこちらを見てくる。
その日の夜。宿屋の一階でだらんだらんと酔っぱらってるドカストに頼みに来た私。ユニ一人だと心配だからついてきた。
ドカスト視点
「はぁ?なんで俺が行かないと行けないんだ?」
「あなた冒険者でしょ?それなら可愛い女の子の頼みくらい聞いてよー」
ドカストはアストリアのような明るいまっすぐなタイプは苦手だ。昔、似たようなタイプの女性を口説いたら往復ビンタを食らったのである。その時の苦い記憶を思い出すから自然と表情をしかめる。
つづく