辺境の村にて.5
宿屋の一階には酒場がある。普段は仕事終わりの村人たちが一杯引っかけに来るとこだが時間的には夕暮れ時のちょっと前くらい。
まだ村人がいないが三人の酔っぱらいがいた。
ティリアをここまで送り届けた冒険者たちだった。
三人とも酒には強いのでそれほどまだ酔ってはいない。
俺は早く酔い潰れてくれないかなとかかんがえている。
さっきから冒険者としての愚痴を散々聞かされたばかりでもう面倒なのだ。
宿屋の仕事はしないといけないが酔っぱらいの相手はしたくない。
奴等は愚痴り合うだけだ。己を高め合おうとしないからだ。
テーブルに置かれたジョッキも何杯目か。いくつも積み上げられている。
ドカスト視点
「それにしてもあんた聖職者なのにお酒飲んでいいの~?」
魔法使いの女ヒィナが野菜スティックをつまみつつ尋ねる。
「いいんですよ。神官なんてらお堅いイメージがあるけど、私はゆる~く生きたいからいいんです~」
なにがいいのか分からないけど、神官の女ユルナは酒に弱い。さっきから頭がぐるぐるしているのだ。
司祭や神官はお酒を飲んではいけない。なんてことはないけれど酒場でぐでんぐでんになるイメージもないので。人々に厳格なイメージを与えないと色々と説得力がないからだらしない真似は見せないな。
だがここにいる神官の女はそう言う堅苦しいのが嫌で自分の好きに生きている。
それが気に入って仲間に誘ったんだがな。
「それにしてもあのティリアだっけか?あいつはいい女だったな~。お近づきになれねーかな~」
「なれないよ。あんたみたいな三流~。取り柄はなにさ」
「ありきたり~、ありきたりのドカスト~!」
ヒィナとユルナはけらけらと笑い俺をからかう。酔ってるな。
「うるせぇ!二人とも!普通のなにが悪い!」
俺は冒険者としてのスキルは普通。性格もそんないいとは言えない。
それは自分で分かっているがコンプレックスはある。
自分選りすぐれた戦士や剣士を見てきているので尚更だ。バカにされたこともある。
それでも自分には定職は向いてないから冒険者なんてのをやっている。
日銭を稼いでうまい酒を飲む。それくらいしか楽しみはないから。
二人の仲間は同じように問題ありだが、俺の冒険者としての未熟さをいじることはあっても心底バカにすることはなかった。
「親父!酒のおかわり!」
「ええ?何杯目ですか!身体に毒ですよ!」
店の主人についに止められる。それでも飲んでこのつまらない現実を忘れたい。
「るせーな!いいから持ってこい!金はちゃんと払うからよ!」
「払うのは当たり前だろ!たくっ!」
そんな時宿屋の扉が開き女の子が入ってくる。なぜかムスッとした金髪の活発そうな女の子は大股で俺のとこへ来る。
ああ、昼間見かけた女か。
「なんだぁ?お嬢ちゃん?俺がかっこよくてサインでもほしいのか~?」
「はっはっは!ドカストのサインなんてねだられたこともないのに!」
「ホントですね~。私もほしいです。ドカストのサイン!」
ヒィナとユルナはツボに入ったのかけたけたと笑う。うるせいな。
「ちっ!うるせーな」
「おじさんのサインなんていらないよ」
アストリアはムスッとしたまま話しかける。おじさんじゃねー。
てかなんでこいつ怒ってんだよ。
「おじ……!?」
「村長さんが呼んでるから早く来てね!ふん!」
アストリアは、村長の言伝てを話すと宿屋の主人に手を振って出ていく。俺はそれを見送っていたが酒のおかわりがまだないことを気づく。
「おい。酒~!」
「村長に呼ばれてるだろ?早く行って来な」
宿屋の主人は冷たく俺たちをあしらう口実が出来てホッとした。
まあ良い。あの女に会う約束してるからな。楽しみだ。
アストリア視点
夜になってダントンが机に突っ伏して寝ているので毛布をかけてから屋根裏から屋根に上がるよ。
空に広がる満天の星空。いくつもの星がキラキラしていて宝石みたい。
あの星空のどこかには他に生きている種族がいるのかな?
昔の伝承には星空の世界が滅びを目指す時。
選ばれた星空の騎士と星降る少女がそれを止めるって。
その時が来るといくつもの流れ星が降って教えてくれると言う。
ホントにそうか分からないけど世界を巡る冒険もいいけど。星空を旅する冒険もスケールがちがくていいなー。
秋の混じり始めた風が吹く。涼しくなってきた。そろそろ長袖のシャツを出すかと思う私は虫の音色に耳を澄ますのだった。
つづく