表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

第五話:神様、どうか、どうか……。

 朱里(しゅり)と離れて三年がすぎた。


 未だに女々しく、月に一回の手紙を送ることは続けていた。


 しかし、次はもう、手紙は送らないことにした。


 これまで一度も返事が来ないのは、朱里が、手紙を書ける状態でないか、既に他界しているかのどちらかだろうから。




 そろそろ、朱里がいないことを本格的に受け入れても良いんじゃないかと思うようになったから。




 この三年で、すっかり疲れてしまっていた。

 しばらく仕事を休んで病院に行くことを勧められるくらいには。


 良い機会なので、夏休みに合わせて実家に顔を出してみようか。



 そんなることを考えながら、自宅アパートへ、重い足を引きずるように帰宅中の時のこと。


 どこからか漂ってくる良い匂いに顔を上げる。


 すると、誰もいないはずのアパートの俺の部屋に灯りが()いている。


 ドアノブに手を掛ける。鍵は掛かってない。遠慮なく開ける。




 なぜか、確信があった。




 そこには、エプロン姿の朱里がいた。


 三年の間に、少し大人びて、髪も伸びていて、健康そうな明るい顔で、俺に笑い掛けてきた。


「お帰りなさい、幸助さん。お疲れさまです。ご飯、できたところです」


「…………朱里?」


「はい?」


 呆然と問えば、キョトンとした返事が。


「………………痛い」


「夢でも、頬をつねったら痛いって聞いたことありますよ?」


 お決まりの確認をすれば、苦笑が。


「朱里、朱里!!」


「わわっ、……幸助さん、私は、ここにいますよ。もうどこにもいきませんから」



 とっさに、抱き締める。もう、離さないとばかりに。

 朱里もまた、抱き締め返してくれて、その温もりで、ちゃんとここにいると、朱里が生きていると実感できた。



「ああ……夢じゃないんだな。……大きくなったな、朱里。それに、きれいになった」


「現実ですよ。ちゃんと、治りました。手紙にも書いてあったでしょう? もうじき会いに行くって」


「………………手紙?」


「……えっ?」


「……えっ?」


 少し、ちゃんと、話し合う必要があった。




※※※


 朱里(しゅり)の口から聞けた話は、理解はできるけど、納得はいきそうもない話だった。


 開発中の治療薬を優先的に使ってくれる代わりに、薬が原因で何が起きても文句は言わない。


 朱里の両親の書いた誓約書の内容はそんな感じだったそうで、要はデータを取るための実験台になる代わりに、開発中の治療薬を優先的に使ってくれるというもの。


 朱里が、分かりやすく言うためにその言葉を選んだらしく、本当は違う言葉なのだと。


 あれやこれやと身振り手振りで説明してくれるが、イメージのよくない言葉を使われてしまったことで、むーん……。となってしまう。


 しかし、投薬治療に二年半ほど。残りはリハビリに費やして、ようやく退院できたらしい。


 言ってくれたなら、リハビリに付き合ったのに……。と(つぶや)いたら、


「手紙、書いたんですよ? 幸助さんから手紙が来る度に、お返事書いたんです。月に一回のお手紙が待ち遠しくて、それを心の支えにしていたんです。……あ、全部取っておいてますよ」


 そういって、俺の手紙を見せてくれる。


 ……そこで、ふと、思い浮かんだことが。


「ところで朱里? 宛先は、村じゃなくてここのアパートにしたのか?」


「はい。氷見沢郡綿貫町八幡アパートの102号室と」


「…………それ、さ、ここの、隣町は隣の県になるんだが、そっちにも氷見沢郡綿貫町ってあるんだよな……」


「えっ? 紛らわしい……ですね……?」


「ははは……そうだな、紛らわしいよな……」


「も、もしかして、これまで私が送ったお手紙は……?」


「『隣の県の』八幡アパートに届いたのかもな?」


「そんなぁ……」


 すごくがっかりした顔の朱里も、とても可愛く見える。


 安心した。すごく。それに合わせるように、俺の腹の虫がグーと抗議していた。


 二人で顔を会わせて、笑い合って。


 冷めないうちに食べましょう。

 いただきます。

 おあがりください。

 美味しいよ。

 本当? 嬉しい。

 ご馳走さま。

 お粗末様でした。


 何気ないやり取りが、とても嬉しくて、とても幸せに感じた。




 未来の話はまだ分からないけれど。




 神様、どうか、どうか……。




 この、なんでもない幸せな時間を、一日でも、一秒でも長く、




 朱里と、愛しい人と共に過ごさせてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 初めまして。仙道様の企画から参りました。 幸助と儚げな朱里との純愛が、とても幻想的でした。 手紙のシーンが切なく、朱里の無事を祈りながら拝読しておりました。 最後、幸せで爽やかな余韻があ…
[良い点] お邪魔します。企画からまいりました。 生徒と先生の名前をフルネームで考えてあるところ、まず尊敬しました! 分校での生活時から曲が聞こえてきて、すでに涙腺が崩壊しておりました。 気持ちのい…
[良い点] いやあ、やっと読めました!  曲のイメージからハッピーエンドを信じていましたけど、安心しました〜じわじわ来る〜! ありがとうございました〜!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ