第二話:恋がしたいの
さて、そろそろ回想という名の現実逃避はやめにしようか。
俺こと幸助は、頭を抱えたいのを必死になってこらえていた。
なにせ……。
恋がしたいという川井 朱里。その朱里に、誰と? と問うたのが谷村 里美。その答えが……。
「幸助先生と、恋がしたいの」
と、いうものだったから。
儚げに微笑む朱里は、まだ中学二年で、病気の影響で身体も細く身長も低め。
触れれば壊れてしまいそうなガラス細工のようで、誰もがつい手をさしのべてしまいそうなほど儚げ。
そんな彼女の願いだからと叶えてあげたいのはやまやま。
教師と生徒の道ならぬ恋というのも、外から見る分は良いものなのだろう。
しかし、それが、当事者となると……。
教師であることを理由に、バッサリ斬って捨てるのは簡単。しかし、ただ断れば良いというものでもなく。
「……ダメ、ですか……?」
今にも涙がこぼれてしまいそうな、儚い声。
深呼吸を一つ。それから周囲を見渡す。
おい、幸助、分かってんだろうな?
朱里以外の、全員の視線が、物語っていた。
断ったらただじゃおかねぇぞ? と。
長いため息のあと、了承する他なかった。
※※※
元々、特殊な病気だという朱里。
都会の喧騒も空気も水も合わず、入退院を繰り返していたという。
余命宣告もされどうしようもなくなった両親は、せめて空気のきれいなところに移住しようと決断した。
両親ともに、インターネットが繋がれば成立する仕事をしているらしく、どこでも良いから娘のために一刻も早く移住したいと物件を探していたところ、世間から切り離されたようなこの村を偶然見つけ、すぐに移住を決意したという。
その引っ越しの際に、道案内を兼ねて一緒になったのがきっかけで、早三年。朱里に突きつけられた余命宣告はなんだったのかというくらい健康に……一般的には、引きこもりと大差ない生活だったが……過ごしている朱里を見て、両親は移住して良かったと安堵していた。
しかし最近、朱里はこの三年が嘘のように急速に弱っているのが分かった。
できることが少なくなっていくのだ。
一年経った頃は、少しは走ることもできていたのに、最近は走り回ることができなくなったり、
二年経った頃は、歩くだけで息をきらすこともなくなっていたのに、最近は長く歩くこともできなくなったり、
ここ最近は、立つことも辛そうに胸を押さえて苦しげにしている姿を何度も見ている。
……もう、限界なのだと、誰もが思っていた。
そして、村唯一の医者もまた……。