表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

モーツァルト:アヴェ・ヴェルム・コルプスK618

 "Ave verum corpus"は、レクイエムK626と同じく、モーツァルトの亡くなった年(1791年)に作曲されたものです。これ以前に作曲された宗教曲は、K427のハ短調ミサ(1782-83)ですから10年近い空白があるわけです。


 何か機会や注文がないと作曲しない当時の作曲家の例に漏れず、モーツァルトもザルツブルクの大司教の支配下を離れると、大量に作曲してきた宗教曲を送り出す必要がなくなったということですが、ハ短調ミサがコンスタンツェと結婚できたことを祝福するために作曲されたことは何とも暗示的です。


 この曲にも彼の妻が関係しています。その年の晩春に妊娠して具合が良くなかった彼女を連れて、ウィーン郊外の温泉保養地バーデンに行き、その地で仲良くなった合唱指導者のアントン・シュトルツのために、これを贈ったのでした。その初演もバーデンのザンクト・シュテファン教会で、小さなチャペルの中にレリーフが掲げられています。わたしがバーデンを訪れた際にそれを見つけて、思わず「へえ」と声が出ました。


 バーデンでの湯治が効果があったのか、コンスタンツェは無事に出産しました。生まれた子どもはFranz Xaver Wolfgang Mozart、後年モーツァルト2世などと名乗って音楽家として立とうとしましたが、親の七光りが通用すべくもなく、全く知られていません。ザルツブルクのモーツァルトの生家にその肖像画がありますが、いかにも才能がなさそうな感じでした。


 バーデンには、ウィーン市内からクリーム色のトラムが出ています。チンチン電車では何時間かかることやら、乗ったことはありません。ウィーンのミニチュアのような街で、ザンクト・シュテファン教会だけでなく、ペスト塔やオペラハウス(屋外オペレッタハウスと言った方がいいかも)、カジノなどなどがほんの狭い地域にまとまってあります。ベートーヴェンの第9の家なんていうのもありますが、例によって天井の低い家賃の安そうなアパルトメントです。


 この曲のテクストとその日本語訳は次のとおりです。


  Ave, ave verum corpus

  natum de Maria virgine,

  vere passum immolatum

  in cruce pro homine.


  Cuius latus perforatum

  unda fluxit et sanguine,

  esto nobis praegustatum

  in mortis examine.


  めでたし まことのお体よ

  処女マリアより生まれ給もう

  人々のため犠牲となりて

  十字架上でまことの苦しみを受け


  貫かれたその脇腹から

  血と水を流し給いし方よ

  我らの臨終の試練を

  あらかじめ知らせ給え


 aveはaveo(健やかである、幸せである)の命令法で、「おめでとう」の意味の祝福の言葉で、Ave Mariaが最も知られた使い方でしょう。ちなみに本来のラテン語のvは英語のwの発音をしますから、「アウェ、ウェルム、コルプス」が正しいのですが、モーツァルト自身を含めてそんなふうに発音するヨーロッパ人はまずいないでしょう。テクストの内容は、まあ、イエスの受難に言及しつつ、その純潔、真正な肉体を讃えるといったところでしょうか。


 2本のヴァイオリンとヴィオラ、オルガンの簡素な伴奏と混声4部で、ほとんど4分音符以上で書かれていて、メロディも大変シンプルです。おそらくシュトルツの率いる合唱団らの実力に合わせたのでしょう。しかしながら、しみじみとした味わいの名作で、レクイエムの次に知られている彼の宗教曲の一つかも知れません。


 晩年の透明な心境なんていうふうに解説されることが多いようですが、あまり根拠なく、ロマンティックな解釈をするのはどうかなって思います。それならいっそのこと、志半ばにして倒れた英雄に一人連れ添う少女の趣とでも言ったらどうでしょうか。……

 http://www.schillerinstitute.org/fid_91-96/fid_964_ave_ver.htmlに英語ですが、詳細な解説があり、【PDF version of the Ave Verum Score】をクリックするとスコアを見ることができます。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ