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高校生からはじめる地球侵略  作者: 佐馴 論
第2章 UFO女を追う者たち
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ファーストコンタクト


 明くる日、私は星降舞依への接触機会を窺いつつ、思春期の男子学生に扮する努力を続けていた。隣席の女子生徒への態度も、温和にすることを意識している。


「レオルくんSNS始めた?もしやってたらアカ教えてよ」

「いえ、まだです」

「そしたらTikTokやろーよ!これ見て!」

 同年代のモデルらしい人物が踊っている動画だった。

「どう?エモくない?」

「……まぁ」

 間抜けな姿を全世界に晒す神経は全く理解出来なかった。しかし隣人は私の同意には満足そうだった。

 その一方で、星降舞依は次の授業開始に先んじて、既に教科書とノートを開いていた。

 それから授業が始まっても、私は時折、彼女を観察していた。昨晩読んだプロファイリング資料の中の彼女と、私の目の前にいる彼女は、だいぶ印象が違って見えた。

 10年前、両親と弟が突如行方をくらまし、孤独の身となった彼女。

その際警察や周辺の人間に「自分たちはUFOと宇宙人にさらわれたが、自分だけが宇宙から帰って来た」と何度も何度も主張した彼女。

その発言は誰にも受け入れられず、虚言癖というレッテルを貼られた彼女。

 そして今でも周りからは“UFO女”と囁かれ、性格も暗くなっていった彼女。

 しかし私の目に映る星降舞依は、資料から読み取れる人物像とは大きく異なっていた。

 授業態度はいたって真面目で、机と黒板に向かう姿は懸命。

 教師からの質問には的確に回答。成績も優秀。

 休み時間となれば、誰一人関心を寄せない窓際の鉢植えや、屋外の花壇に水をくれている。やがて彼女は、掃除用具入れから取り出したじょうろを片手に教室を出て行った。私も彼女を追い、教室を出た。

 彼女が向かったのは、校舎裏手に設置された花壇だった。教室のベランダ側からは見えず、しかも敷地の裏手に出る小さな格子戸の近くとあって、学生の姿は殆ど無かった。だが花壇に咲く色とりどりの花々は、もっと多くの人々の目に入っても良いだろうと考えてしまう。

「星降舞依さん」

 花壇の前に立つ彼女に、私は声をかけた。

「……私、ですか?」

 初めて接触した時と同じだった。まるで自分ではない誰かが呼ばれていると思っているかのように、自分の周りをきょろきょろと見回している。

「あなたです、星降さん」

「ご、ごめんなさい!」

 思い切り頭を下げた拍子に、彼女は水の入ったじょうろを落としてしまう。

「こちらこそすみません。邪魔をするつもりは――」

 私がじょうろを拾おうとすると、彼女の指が私の手に触れた。

「わっ!ごめんなさい!」

「い、いえ……」

 彼女のあまりの慌て様に、ついこちらまで辟易してしまう。

 そして、まだ水の入っているじょうろを私から受け取った彼女は、異常なほど顔を紅潮させていた。

「ありがとう、ございます。マクニール、さん」

「私の名前を?」

「クラスメートの名前は、ちゃんと覚えてます」

 避けられているにも関わらず、他人にはしっかり関心があるようだ。

「名前を憶えて頂き、光栄です」

「い、いえ」

 その後も彼女は、花壇への水やりを続けた。後ろに立つ私の様子を、時折ちらと伺うが、何か話しかけてくる気配は無い。

「星降さ――」

「はいっ!!」

 これでもかと言うぐらい大げさに振り向き、真剣な眼差しで私を見つめる星降舞依。

「あ、いや……ごめんなさい、呼ばれた気がして……」

「呼んだことは間違いないですが……」

「あっ!呼んだ、だけですよね。そうですよね!別に用は無いですよね……」

 名前だけ呼びにわざわざ来るものか。

「実は聞きたいことが――」

「舞依っ!お昼食べよ!」

 その声に、星降が安堵するように振り返った。

「あ、愛子ちゃん!」

「……誰?この人」

 現れたのは、見かけない顔の女子生徒だった。彼女は警戒心を全身から放ちながら、私を見定めているようだ。そして私と星降の間に割って入り、こちらに睨みを利かせる。私を不審者扱いか。

「レオル=マクニールと申します。星降舞依さんとは同じクラスです」

「舞依を困らせてるように見えるけど、何か用?」

「愛子ちゃん!そんな態度、失礼だよ……」

「だってこの人怪しいじゃん。なんか顔怖いし」

 言いたい放題だな。星降がなだめに入らなかったら、私を攻撃しかねん勢いだ。

「マクニールさん。この子は私の――」

「友達の美浦、です」

 美浦愛子……やはりそうだ。星降舞依の幼馴染で、現在唯一の友人。星降のプロファイルに記載されていた名前であったため、簡単にだが事前に調べてある。

「舞依に何か用?」

 美浦はくっきりとした大きな眼で私を凝視する。星降と同じようなタイプと考えていたが、随分と気が強そうな女子生徒だ。だが星降が先程までの緊張ぶりとはうって変わって、どこかリラックスしたように見えるため、確かに親しい仲なのだろう。

「愛子ちゃん。マクニールさんは、私の名前を呼びに来ただけだよ?」

「いえ、それは違います。ですが我々の関係がまだ、名前を呼び合う程度というのは事実です」

「え、なに、その関係……」

 私たちを交互に見ながら、美浦は首を傾げていた。

「しかし私は、それ以上の関係になる必要があると思っています」

「そ、そうなの!?」

 私の言葉に驚愕する星降。美浦は美浦で、訳が分からないといった様子だった。

「2人してとんちんかんなこと言わないでよ……」

 頓珍漢とは言うものだ……と反論したいところではあるが、彼女の言はもっともだ。

どうやら私はまだ、星降と滞りの無い会話をするレベルに至っていないようだ。

「今日の所は撤退します」

「え、アンタ一体何しに来たのよ」

「次はきちんと準備を整えてから臨みます」

 最後まで不思議そうにしている美浦の視線を浴びながら、私は一礼した。

「マクニールさん。また、ね」

 星降の別れの挨拶に頷いてから、彼女らに背を向ける。

 私はまず、地球人との会話の仕方から学ばなければならないようだ。


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