新一とカオスと競馬場(2)
秋山真琴は、馬券を握りしめてレースを観戦した。
手に握る汗は興奮の汗というより、冷や汗に近い。
貴重な1000円をノリで52倍の馬にかけたのだ。
これが当たれば、今までの負けをひっくり返して、断然プラスである。
もし当たれば、である。
3人が賭けた馬はどれも3位以内に入ることなく終わった。レースは大きく荒れることもなく、一番人気の馬が1位になった。
「やっぱりさ、もうちょっと現実見ようよ。50倍とか100倍とか、当たらないからその倍率なんだよ。もっと着実に当てに行こうよ」
真琴は手にした馬券を力なくカバンにしまう。
「でも、秋山さん、よく考えてくださいよ。今のレースは、一番人気の1.2倍に賭けていたとしても、たかが120円ですよ? 1000円賭けても、1200円ですよ。200円儲かっても雀の涙ですよ」
カオスがまた、おかしなことを言う。
「いやまぁ、そうなんだけどさ。でも、そもそも当たらないことには、お金が減ってくばかりだよ」と、真琴は小さくため息をする。
「そしたらさ、2倍くらいでいけばいいんじゃね?」
新一が横槍を入れる。
「よし、じゃあ、次のレースでリベンジだな。2倍とか3倍なら、当たるかもしれないし。当たれば今の負けが帳消しだぜ」
カオスが自信満々の笑みを浮かべる。
「だな」と、新一も頷く。
真琴はもう一度ため息をついた。
「私がしたかったのはこういのじゃない。ちゃんと数学を使いたかったのに」
3人が買ったのは、期待値が2から5くらいまでの単勝を3つ。それぞれ、2.3倍、2.8倍、3.6倍である。