0班の菊池嘉織好
確率論の少人数ゼミの講義室。
「こいつのせいで、負けちゃったんだよね。絶対に当たるって言うから賭けたのに」
秋山真琴は、弘中新一を指差す。
「いや、でも、実際当たったじゃないですか」
新一は、真琴の指を払いのけ、否定する。
「楽しそうですね、それ。僕もやってみようかなぁ」
二人の前には、0班に残ったもう一人のメンバー、菊池嘉織好がいる。名前は嘉織好と書いて、カオスと呼ぶ。なぜ彼が物理学ではなく数学を専攻しているのかは謎だが、名前の割には普通の人である。と言っても、数学科の中では普通の部類であり、一般よりやや変かもしれない。
「いいんじゃない。面白いわよ。手に汗握る興奮が味わえるわよ」
真琴は、カオスに向けて笑みを浮かべる。
「でも競馬って、確率だけじゃなくて、オッズも大事ですよね。倍率が低ければ、当たっても増えないじゃないですか」
カオスが言う。
「じゃあさ、確率で考えるからだめなんじゃね。期待値で考えればいいんじゃね。確率が高くても倍率が低ければ、お金は増えないし」
新一もそれに同意する。
「なるほど、一理ある。じゃあ次は、その戦法で試しに行こうか」
真琴もまんざらではない。
「じゃあ、今度は3人でリベンジしますか。3人寄ればなんとやらって言うじゃないですか」
「確かに」
カオスの提案に、真琴は大きく頷く。




