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ミロのヴィーナスの黄金比
黄金比は人間がもっとも美しいと思う比率である。
秋山真琴は、モナリザのような黄金比で形成された端正な顔立ちをしている。そして、ミロのヴィーナスのような黄金比を保った上半身では、ふくよかな胸が腰にかけてシグモイド曲線を描いている。
しかし一方で、無限大のような黒縁メガネと黒い前髪がおでこに描く直線が、彼女を地味なリケジョへと失落させていた。
真琴は小学校の時から算数が好きだった。
中学、高校でも数学が得意であり、数学の成績はいつもトップクラスだった。そして去年、好きが高じて大学の数学科に進学した。
女子なのに数学ができる。中学、高校時代は、クラスメイトから奇異な眼差しで見られることはあっても尊敬の眼差しで見られることはなかった。次第に真琴は、他人の目を気にせず、自分の好きなように生きるようになっていた。親の反対を押し切って大学の数学科に進学したのもそのせいである。